就職活動
「さーて、お金を稼ごうか」
日本で言えば確実に、何を言っているんだこいつは?と思われそうな台詞をひとり部屋でつぶやき気合いを入れる。
確か図書館で調べた限りだと…定職に就くか、バイトで日銭を稼ぐかが良いんだっけ。
ただ、バイトははっきりいって怪しいものが多い。
やっぱりしっかりした定職に就きたいよな。ムルに福利厚生があるのか知らないけど。
とりあえず職業安定所に行ってみよう。
…どこかにあると良いんだけど。
探し回り、聞きまわる事30分。職業安定所なんてものはないという結論に至った。
「終わった俺の安定リーマン生活…」
聞きまわった話によると、親の仕事を継いだり職人に弟子入りしたり、学校を卒業して学校で斡旋してもらうのが一般的なんだとか。
ちなみにエリート学校を優秀な成績で卒業して良い所を斡旋してもらうのがエリート街道らしい。
ちなみに学校は6歳から15歳まで通うものみたいだ。
ちなみに俺は15歳。
「終わってんなー…」
日陰で独りごちてると声を掛けられた。
「きみ、仕事を探してるんだって?」
「はい?」
振り向くと眼鏡をかけた優男が俺に話しかけていた。
「いきなりごめん、俺はすぐそこで働いてるエトっていう者だけど…そこでは人事担当をしててね。働ける人を探しているんだ。」
「働ける人…」
俺にとってはとても都合が良い話…ゆえにうさんくさくて怪しい。
俺が怪訝な目を向けるとエトは首を振って否定する。
「いやいやいや!怪しい者じゃないよ!…いや、いきなりこんな話、怪しく見えるかもしれないけど」
「うーん…」
俺が困っていると通行人のおばちゃんがエトの味方をした。
「あんた、エトさんは怪しいもんじゃないわよ。そこの冒険者ギルドで働いているんだ、疑わしいなら行ってみたらいいさ」
そうなの?
「…見るだけですよ」
「見学も大歓迎さ!こっちだよ」
俺はおばちゃんの口車に乗せられてエトに着いて行く事にした。怪しかったら逃げればいいもんな。
「ここが僕の働いてるギルドだよ。さあ、入って入って」
促されるままに足を踏み入れる。
中はカウンターが幾つか並んでいて、その反対側は大衆食堂の様な様相だった。
「ここは冒険者ギルド。こっちが端から素材買取カウンター、依頼受付カウンター、総合案内カウンター、etc…。で、反対側が大衆食堂になっているよ、勿論お酒も飲める。大衆食堂の方は一般にも開放されているんだ」
「昼間からお酒を飲んでいる人もいるんだ」
食堂の方を見ると何やら4人グループが机を囲んで乾杯していた。
「彼らはギルドに所属している冒険者で、少し難しい依頼が無事達成できたお祝いをしてるんだ」
「へぇ…」
今のところ怪しくはない…けど、仕事ってなんだろう?もしかしてギルド職員が不足してるのかな?
「もしかして、ここで働ける?」
「勿論!君くらいの実力者なら大歓迎だよ」
実力…?書類の処理速度が速いとか?そんなのどうやって…って、
「ああ!タレント!」
「気づいたみたいだね。そう!僕は他人の能力を見ることができるタレント『可視』を持ってるのさ!」
「おお!」
それは凄い!ってことは俺には書類処理の能力があったのか…!
「ただどんなに頑張っても可視で他人のタレントを視ることは出来ないんだ。それに、それを視るのはタブーとされているしね」
…あぶねー!もしタレント視られてたら人身売買のブローカーにとって俺ってカモじゃん!可視で見ることができなくてほんと良かった…。
「ちなみに可視以外でタレントを見ることができる才能ってあるんですか?」
エトはキッパリ否定した。
「無いね。そんなものは旧文明時代にすらなかったって話だよ」
なるほど…それなら俺のタレントは俺が言わなければバレることはないのか。
「ちなみに僕が視たのは、筋力や体力、魔力とかだよ。勝手に視てしまって悪かったね」
「まあ、それくらいなら…ん?」
「?どうかしたかい?」
「魔力って何に使うんですか?」
エトは当たり前だと言わんばかりに、
「そりゃ剣が通らない敵には魔法か鈍器が常識だろう?」
なるほど…じゃない!
「って事は俺冒険者にスカウトされてる⁈」
エトは、今更?という顔をしている。
「いやいやいや、俺に冒険者なんて無理ですよ!第一魔物なんて見たこともないですし」
「それほどの実力があるのに?」
エトは不思議がっているが、一番不思議なのは俺の方だ。
魔物と戦った事すらないのに、実力があると言われても困る。
「まあ、気乗りしないようなら無理強いはしない。魔物の素材は冒険者じゃなくても買取してるから気が向いたら是非来て欲しい。これ、名刺だよ。」
何が何だか分からないが、とにかくもっとよく考えてからにしよう。思えば職を探さなきゃ…って少し焦ってたかもな。
…まあ最終的に見つからなかった時のことも考えてここも視野に入れておこう。
ギルドから出た俺は一旦仕事探しを辞め、自分のタレントについて把握することにした。
エトのように自在に操ることができなければ宝の持ち腐れだし。
「試すのは部屋に戻ってからにしよう」
ここだと誰の目があるかわからないし。
部屋に戻ってきた俺は早速使ってみることにした。攻撃系魔法と違って治癒魔法なら暴発することもないだろうと考えての事だ。
ちなみに使い方は念じるだけ。至ってシンプルで分かりやすい。
タレントの強度で使える魔法が限られる…これは図書館で学んだことだ。
しかし、俺の治癒魔法の強度はどれほどかわからない。
「とりあえず簡単なものから使ってみるかな」
自分の身体に向かって意識を集中し、回復するように念じる…すると、淡い緑の光に包まれた。
光はすぐに消えたが、肝心の身体はというと…
「怪我してないからわかんないじゃん」
効果がどれほどのものか全く検証出来なかった。
しかし、身体が少し軽くなったような気がする。疲労感がなくなったというか。
「わざと怪我してみるか…」
ささくれをブチッと千切り血が出てきたところでもう一度魔法を使うと、血が止まり皮膚が再生し、痛みが無くなった。
これで使えるという事は分かった。それだけでも大きな前進と言えるだろう。そう思いたい。
2つ目のタレントの方だが…こちらは正直何が起こるかわからないので下手に実験できない。
爆発してしまうかもしれないし、案外何も起こらないかもしれない。
それに神がついているだけで剣術やら体術、魔法等に補正がかかるのだ。
今回はとりあえず治癒魔法を検証出来ただけでいいとしよう。
後は神によってどれくらい能力に補正がかかっているのかを知りたい。
俺は貰った剣を腰に帯びて、街の外に向かう事にした。
向かうは森、対魔物戦デビューだ。