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4 ステータスの割り振り方

 それから三人は移動して、いそいそと宿から用意された夕飯を食べながら今日得た情報を互いに確認しあった。


 皆のプレイヤーレベルは4にあがっており、基礎能力値が少し上昇していた。


 このゲームは自分がアクションすることが大事ではあるものの、ステータスも同様に重要な要素となっている。攻撃力をあげたり、相手の攻撃をかわすときの補正値を上昇させたりできるのだ。レベルが上がるごとに自動的に上昇する基礎能力値に加え、プレイヤー達にはレベルが1あがるごとに3ポイント自由に割り振れるものが与えられる。そのポイントは『筋力』『耐久』『素早さ』『器用さ』『共感』のどれかに好きなタイミングで好きなステータスに割り振ることができるのだ。


 いち早く夕飯を食べ終えたリベネはメニューをぽちぽちと操作してステータスを割り振った。完了ボタンをタップすると「♪てれてれーん」と間の抜けた音が脳内に流れた。


「そういえば、5つの項目の中で二人はどれにポイントを振った?」


 リベネが聞くと、ネズミが特大サンドイッチをほおばりながら答えた。


「僕は素早さと耐久。これからもそうするつもり。デスペナルティを食らったら自分の剣が少し弱くなるらしいから、安全策をとったよ」


 なるほど、とつぶやきカーラに目を向ける。


「カーラは?」


「決まってるじゃぁないか!あたしは筋力に全振りだよ!」


 「の、脳筋スタイルだ…」とひそひそつぶやくネズミに対し、攻撃は最大の防御って言うじゃない!とカーラが笑った。


「で、リベネはどれに振り分けたの?」


 リベネは少し口ごもった。二人と違って、自分はこの先のことを何も考えずにぽちぽちと押してしまっていたからだ。自らの浅慮を恥ずかしく思いながらも、リベネは言った。


「実はね」


「うん」


「ネズミが前に『買うものに迷った時は、いちばん意味の分からないものを買うと楽しい』と言ってたことを思い出して」


「うん」


「ぜんぶ『共感』にいれました」


 途端にネズミとカーラがぶはっと吹き出した。

 嘘でしょ!?よりによって一番いらないステータスに!?と二人が信じられないと言いたげな表情でまくし立てる。


 剣に対する共鳴力を高めるといううさんくさいステータス『共感』。


 うさんくさいけれど、単純な興味があるから上げてみたのだ。もしかしたら物凄く致命的な選択だったのかもしれないが――まあ、いいやとリベネは思う。


 食事を終えると寝室の前で別れた。もうその頃には外は真っ暗になっていた。明日起きる時間を決めてから、ネズミは一人部屋へ、カーラとリベネは同じ部屋へと移動した。


 部屋の中に入ると、すぐさまカーラは電子メニューを開いて装備解除欄をタップし、下着姿になった。服を脱いで寝るのが好きなのだそうだ。

 部屋の明かりの元に現れる巨大な胸。毎晩見てるのだが、それでも慣れることができず、リベネはそのメロンに似たでっかい固まりを凝視してしまう。


「なぁに、やっぱり気になる?」


「うん。すごくて」


 あっは、とカーラが笑う。彼女は完全にいつもの調子に戻ってきたようだ。


「いつかリベネも大きいおっぱいになるかもよ。あたしも昔は無かったわけだし」


 リベネは服を着たまま自分の平らな胸に手をあてて、神妙な顔で考え込んだ。現実とほぼ同サイズの胸だ。カーラも自分のようにぺったんこの時代があったのだろうか?本当にそうだとは思えなかった。胸が大きい人は、生まれたときからもうすでに胸が大きいような気がする。自分とは身体の作りが根本的に違うのだ。多分。


 「ねえ、リベネ」と不意に名前を呼ばれて、リベネは顔をあげた。


「あたしさ、最初はリベネのこと、口数の少ない大人しい子だって思ってた。でも、わりと大胆なとこあるよね」


 皮肉ではなく、カーラは心の底から真面目に言っているようだった。きょとんとなって少女は首をかしげる。


「そんなこと、初めて言われた」


「多分ネズミもそう思ってるよ」


 楽しげな笑みを浮かべて、カーラはずい、と下着姿のまま身を乗り出した。にやにやとしながらリベネの顔をのぞき込む。


「なあなあ、リベネ。本当のところを知りたいんだけど、ネズミのことどう思ってる?」


「どうって……」


 一体カーラは突然何を聞き出すんだろう。リベネはネズミの顔を思い浮かべた。灰色の髪の毛に、赤いフレームのメガネ、いつでも理性的で、質問にたくさん答えてくれる存在――。


「信頼できる辞書、みたいな人だと思ってるけど」


 一瞬の間があってから、カーラは盛大に吹き出した。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「いやだって、ほら。ネズミって、リベネに惚れてるじゃん」


 一瞬言われた言葉の意味が理解できず、リベネはその場で硬直した。

 まさか、ネズミが。リベネは怪訝な顔で言う。


「でも、これゲームの中だし。会ってまだ三日だよ」


「ふふふふふ、VRMMOの中では往々にしてあることだよ」


 愛嬌のある瞳をきらきらと輝かせながら、さらにずずいとカーラが近くに寄ってくる。


「だって考えてみなよ。今のあんたは、ほとんど生身の人間と一緒だ。隣で喋るし、表情だってくるくる変わる。触れることもできるし、温かさも少しは感じることができる。リベネは画面の向こうにいるわけじゃない、目の前にいる女の子だ。好きになったっておかしくないだろう」


 そのことは理解できるが、何を根拠にネズミがリベネのことを好きだと思ったのかよく分からなかった。ネズミというプレイヤーは、データやゲーム情報以外のことには興味を示さないタイプだ。


「うーん、どうだろう……」


「あたしは馬鹿だけど、結構こういうことに対してはするどいんだよ」


 くすくすと笑ってから「さ、寝よっか」とカーラがベッドの布団の中へと退散していった。ゲームの中で眠るときは、メニューで睡眠開始時間と起床時間を選択する。その間は完全に意識が遮断されるが、起床時間には確実に目を覚ますことができる。

 布団の中でメニューを操作していると、不意にカーラが言った。


「ねえ、リベネ。まだ起きてる?」


「起きてるよ」


「ゲーム世界の夜って本当に静かだよね」


「そうかな?……うーん、たしかにそうかも」


「車の音とか、虫の声とか、ないからね。あたし、こういう静かすぎる夜ってちょっと苦手なんだ。なんだか静けさに飲み込まれて、あたしの心臓まで自然と止まっちゃいそうな気がするんだよね」


 リベネは少し息を飲み込んでから、枕の上で柔らかくほほえんだ。


「カーラが先に寝ていいよ。少し時間をずらして、私は寝るから。カーラが寝るまでは、私の息の音が聞こえるから……その、きっと静かにはならない」


 ありがとう、とカーラが思いのこもった声で小さくささやいた。

 彼女が横たわりながら電子パネルを操作した。やがて、彼女の呼吸の音がすっと途絶え、部屋に静寂が訪れた。睡眠モードに切り替わったのだ。


 そのことを確認してから、リベネも睡眠時間と起床時間を設定し、静かに目を閉じた。

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