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エリと三春の赤い糸

作者: 伊藤せいら

 時刻は午後6時を過ぎた頃だろうか。日が長くなり始めている時期とはいえ、辺りは少しずつ暗みを帯びてきている。

 ここはとある街のとある公園。

 真紅に染まる夕日を眺めることが出来るベンチに、その二人は座っていた。

 一人は名を三春という。20代後半~30代前半だろうか、若干の若さを残す見た目に、整髪剤で整えられたショートの髪がよく似合う格好良い男性だ。そして、もう一人は名をエリという。長い黒髪にクリーム色のフェミニンなカーディガンを羽織った見目麗しい麗人だ。その整えられた柳眉とおとがいは一目彼女を見た者は必ずといっていいほど虜になるだろう、世の男性誰もが認める美人であった。

 そんな女性となぜ三春が知り合うことが出来たかについては、ここで話すと長くなってしまうので割愛するが、二人は付き合い始めてそれなりのカップルであった。今日は1日中デート(といっても公園の周辺の店を見て回ったくらいだが)をして、またこの公園に戻ってきてベンチで二人談笑を楽しんでいた。

 

 四方山話に花を咲かせながら、三春はタイミングを見計らっていた。

 今日は友人に彼女に結婚を申し込むと大言壮語してきた。彼女が結婚の提案を呑んでくれるかは分からないが、この雰囲気のまま押し切ればもしかしたら……。

 話が一段落して落ち着いた頃、山に沈みゆく夕日を二人で眺めながら三春は「今だ!」と決意を胸に口を開いた。

「俺たち、付き合ってどのくらいになる?」

「1年くらいですね」

 エリは相変わらずの丁寧語で、柔和な眼差しを向けつつ顔をほころばせた。

「うん、でさ……」

 寸時の静寂。周りで鳴いていた虫や鳥たちも、二人の様子を固唾を呑んで見守っているかのような静寂が二人を包んだ。エリはこちらに微笑みを向けたまま話の続きを待っている。三春は続けて言った。

「俺と結婚してください!」

 そう言うと同時に三春は懐に隠していた結婚指輪と取り出し、頭を下げながらエリの元へと差し出した。

 一瞬夕日に照らされたエリの驚きの表情が見えたが三春は気にしなかった。

 

 ……長い静寂。


 一台の車が二人のベンチの後ろをこの静寂を揉み消すように通り過ぎた。車が通り過ぎて後、エリは驚きを隠せないといった感じで、一言

「すみません、それは出来ません」

と言った。

 その瞬間、三春はエリの元へとさらに詰め寄った。

「なんで!? こんなにも長い間苦楽を共にしてきたじゃないか!」

「えぇ。それはそうですが」

「一緒にテーマパークに行った思い出、旅行に行った思い出、家での何気ない会話、全部俺の中では君との大切な時間でかけがえのない一時だったよ。エリにはそんなこともただの「現象」にしか映らなかったのかい?」

「いえ、そんなことはありません。私も三春さんとのやり取りは、大事な記憶として今でも鮮明に覚えています」

「なら!」

 三春は結論を迫った。するとエリは視線を一度下に落としてから少しした後、涙をこらえながら絞り出すようにその残酷な「現実」を口にした。


「私……アンドロイドですよ」


 

 たとえ機械との間であっても……

 三春が感じた彼女との運命の赤い糸はここで途切れてしまうのか……

 否。そんなことは決してない!

 機械だろうが人だろうが三春がエリに向ける愛は本物だ。

 三春は再度彼女を説得しようと、一度頭を冷やし冷静になることに集中した。

 

文芸部の方で挙げた短編です。お題は「赤」。意志を持つアンドロイドとは、そもそも恋の定義(ここでは人と人以外の恋)など様々なコメントを頂き勉強になりました。先に挙げたものとは少し内容を変えています。

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