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魔王を殺そう。  作者: トマト
2/2

「なぁ、王様。俺の誕生日プレゼントは気に入ってくれたか?」 


 その一言で国王マクスウェルはこの男がヤツカハギを殺した男なのだと確信した。


 五柱の首が届けられた事件はすでに緘口令がしかれ、関係者以外は知らない。


 それをこの男が知っているということはつまりはそういう事なのだろう。


「……あぁ、余の生涯一番の贈り物だったさ。それでお前が余にアレを送り付けた本人か?」 


 男の目的が何か分からなかったが、マクスウェルはまず会話を試みた。


 本来ならば衛兵を呼ぶべきなのだろうが、国王はそれをしなかった。


 自分を殺しに来た暗殺者という事も考えられたが、それにしてはこの男に殺気を感じられなかったからだ。


「この状況で中々にいい根性してるな王様。気に入ったよ」

 

 男は国王の枕元から離れ、天蓋つきのベッドの縁に腰かけた。国王はゆっくりと身体を起こし、男との会話を続けた。


「……正直に言えば信じられん。五柱の一つを落とした事もそうだが、お前がこうして余の寝室に安々と侵入した事もだ。……一体どのような魔法を使ったのだ?」


 国王は胸の内にあるいくつかの疑問を男に投げかけた。


 国王マクスウェルの疑問に対し、男はベッドの縁に腰かけながら国王に背筋の凍るようなおぞましい笑顔を浮かべながらまず初めにこう語り始めた。


「――五柱のあいつには愛する妻と娘がいたんだ」


 その話は王族として幾つもの凄惨な事件を経験したマクスウェルをしても胸糞が悪くなる話だった。


「俺はまずその二人を攫ってから洗脳魔法で頭を弄り、契約魔法ギアスで服従もさせて妻と娘に五柱を殺させた」 

「洗脳魔法……!? だ、だがあの魔法は」


 マクスウェルは男の話に困惑した。


 洗脳魔法は直接的な攻撃力がないうえ、条件が揃わないと発動しない難しい術だったはずである。


 しかも本人の意識がわずかでも残っていれば抵抗され、すぐに術が解けてしまう欠陥魔法で誰も使い手はいないかったはずだ。


 しかし男はなんて事はないと言った様子で話す。


「あぁ、精神的に無防備にならないと術が発動しないからな。――だから両方とも薬漬けにしてから()()

「っ……!」


 まるで実験の結果を報告する学者のほうに淡々と男は語る。


「魔族とはいえ、知能のある奴らは大抵が人型だからな。犯すのに不都合はなかった。一週間ほど薬と性交で頭をおかしくさせてから洗脳魔法をかけ、契約魔法で服従させ奴隷化スレイブした」


 ――おぞましかった。


 おそらく洗脳だけでは五柱を殺すには術のかかりが足りないと考え、魔法を継ぎ足したのだろう。


 契約魔法は裁判などで扱われる強力な魔法だ。


 使用者と対象が双方合意した状況でのみ術が発動し、その効力は死ぬまで続く。


 おそらくは洗脳魔法で意識を朦朧とさせた状況で契約魔法をかけたのだろう。


 相手が魔王軍の一味だからと言ってもあまりにも非道な行いだった。


 だが男は今度は語りに感情を込めてゆき、そしてさも楽し気に話すのだ。


「今まで多くの女は犯したが、五柱の妻と娘を犯すのは中々に楽しかった。いつやっても人の大切に築いてきた物を汚し、ぐちゃぐちゃに潰すのは楽しい。そして――実に(・・)素晴らしい(・・・・・)


 国王マクスウェルは背筋に鳥肌が立った。


 男はおぞましく笑っていた。

 

「あいつらの悲痛な悲鳴を聞くたびに俺の心には罪悪感が宿り、それを上回る背徳感と快感が頭の中を突き抜けた」


 何処か陶然とした様子で熱く語る男。


 その語りは最上の美酒の味わいを語る詩人のように滑らかであり、そして悪魔のように邪悪だった。


「最高だった。五柱とまで呼ばれ、魔族の中では英雄と担ぎ上げられた存在が守る妻と娘。それを汚し、犯し、全てを台無しにしてやるのには素晴らしい気分だった。実に、実に素晴らしい気分だった」

 

 国王マクスウェルは謎だらけのこの男の事を少しだけ理解し始めた。


 この男は求めているのは興奮と快楽だ。


 そして五柱と呼ばれた存在を完膚なきまでに潰す行為はさぞやこの男を興奮させたのだろう。


 ――国王マクスウェルは次にこの男が求める物が何なのか大よその予感はしていた。


 そしてその予感は的中する。


 男は国王に向かって宣言した。


「――だから、()


 男は人間たちにとって救世主だった。

 

「素晴らしい事に残りの五柱は全員がだ。きっともっと楽しめる・・・・・・・。王様たちは魔王を殺したいんだろう? 俺がその手伝いをしてやるから力を貸してくれ」


 そして同時に正真正銘の悪魔でもあった。


「…………」


 国王には葛藤があった。


 相手が魔族であろうとも超えてはいけない境界があるのではないかと。踏み越えては行けない線を今自分は踏み越えようとしているのではないかと。


「――さぁ、王様。一緒・・に魔王を殺そうぜ」


 だがそんな倫理は目の前の悪魔の囁きの前では塵芥に等しかった。


「……貴様が望むものをすべて用意しよう」

 

 そして様々な葛藤の末、国王は悪魔との取引に応じた。


 


 


 

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