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フラッシュバック

ムーンライトと後半全部変えておりますm(__)m

副担任の如月には期末テストまで自宅療養と言われて家に戻されたが、全く症状もなく顔にまだ少しだけ内出血の痕が残っているだけだった。

医者からも絶対安静を強いられたわけではなかった為、暇を持て余した志信は翌日から学校へ行くことにした。

クラスメイトにも腫物に触るような態度はしないでほしいと長谷川にお願いしていたことで、みんな普段通り接してくれる。

いつもと何も変わらない日常が、再び穏やかな時を刻んでいた……


「なー志信……お前、期末日程ずらさないんだったら一緒に勉強しないか?」

「数学と英語以外完璧だろ?俺にも教えてよ。今回の古文マジでやべーよ」


6限目が終わり、帰り支度をしている志信の前に、クラスメイトの篠崎と横宮が机の前から話しかけてきた。

志信に話しかけてくるクラスメイトは、幼馴染の加奈子以外ほぼ皆無だった。だからと言って学校や生徒から虐めを受けるようなことはない。

数学と英語以外はそこそこ頭も良くて、話しかけると屈託なく笑い、さほど人柄も悪くない志信は、どちらかと言えば、小うるさい親が日本にいなくてちょっと自由で羨ましいと思われていたようだった。

しかし、ボール直撃で入院した一件があってから、こうして数名の男子が今まで以上に話しかけてくることが増えた。

正直、幼馴染の加奈子以外の友人が居なかった志信にとって、同性の仲間と呼べる存在が出来ることは素直に嬉しい。


「俺もそんなに教えれる程のことないけど…いいよ?」

「お前が休んだ2日分のノートな。ここも範囲だってよ」

「ありがと」


几帳面な横宮の綺麗なノートを拝借して自分のノートに書き写している間、篠崎は志信の文字を勝手に盗みみて一人でふんふんと関心していた。


「へー。志信ってすげえ~字ぃ綺麗なんだな。習字でもやってたの?」

「あぁ……家は親がうるさかったから。汚い字は頭が悪くみられるからって」


幼少時代、父親にそう言われてから誰かに「綺麗な字だね」と褒められたくて必死に字を書く練習をしていたことを思い出す。

――あの頃は地獄としか思えなかったことも、こうして大人になると結構役に立つ。

篠崎はふーんと言いながら次に英語のノートを盗み見て、ふとある英文法を不思議そうに見ながら首を傾げる。


「あれ?……これって昨日やった英文だよな?入院中暇すぎて英語の予習でもしてたのか?」


ぎくりと一瞬顔が強張る。

篠崎が言っている英文法は、如月と昨日夕食を食べていた時に教えてもらったことをノートに書いた奴だ。

それは自分の字なので個別授業をしてもらっていることはばれなかったが、他人にこう突っ込まれると秘密がばれるようでドキドキしてしまう。

気になった文だけノートに書いていた、と苦しい言い訳でその場を誤魔化す。

明らかに不審そうな顔をされたが、それ以上追及される前に教室の引き戸ががらっと開けられる。


「おい、お前らいつまで学校で居残り勉強会してるんだ?そろそろ教室シメるからさっさと帰った帰った」

「げっ、如月センセだ」


時計を見たら既に時刻は19時を回っていた。この時間だと通常であればスポーツ系部活以外はみんな大体帰っている。期末テストも近い為、現在部活動も事実上休止となっている。

2回程下校を促す放送が流れていたような気はするが、期末テストがあと3日に迫っているせいもあり、3人で揃って思っていた以上に勉強に集中していたらしい。

お先に!と言いながら教室を出ていく二人に続いて志信も如月にぺこりと頭を下げた。


「気を付けて帰れよ?」


その眸が珍しく嬉しそうに微笑んでいる。学校の中で如月がこんなほっとした顔を見せたことは今日が初めてかも知れない。

彼はネトゲ相棒のマサなのだから、何も言わないけれども俺の友人関係が乏しいことを知っている……

俺が体調を崩すことなく学校に来ていることや、同じ男子の友達が出来たことをもしかしたら喜んでくれているのだろうか?




****************************************




男3人の下校は、篠崎が最近ハマっているという行きつけのファーストフード店に立ち寄り、シェイクと夕飯代わりにハンバーガーを注文する。


「鳩山の数Ⅱやべーよ。三角関数で俺もう死んだわ」

「グラフの書き方教えてやるって。ほらプリント出して」

「横宮ってさあ、何でそんなに教え方上手いの?尊敬するよ」


篠崎と俺とで横宮の分かりやすい数学の授業を習いながらシェイクを啜る。

もう時間も遅かったので今日はここまでと勉強を切りやめて最近気になる女子の話になる。


「志信って、加奈子ちゃんと付き合ってるの?」

「いや、加奈子とは家が近所でずっと一緒に居た幼馴染だな」

「へぇ。あんなに可愛いのに可哀想」


俺の素っ気ない返事がそれ以上興味ないと悟ったのか、話題を切り出した横宮が寂しそうな顔をしていた。

ハンバーガーをかじりながら携帯をカチカチいじっている篠崎がとあるメールを見せてくる。

それは以前志信がやっていたネットゲームのアカウント作成のURL画面だった。


「俺さあ、D組のミキちゃんに”ネットゲーム”に誘われてるんだけど、ああいうのってどうなんだろうな?」

「ふーん……」


――そういえば、最近ネトゲに全くログインしていない。

家に帰ってもすぐお風呂に入って、にゃん吉にご飯をあげて、それから毎日のように如月の家に直行していたし、送ってもらったら大体日付が変わっているから後は寝るだけで……

中学生の頃から、毎日生活の一部のように触っていたはずのパソコンに触らない時間が増えた。


あんなに毎日ネトゲでみんなと遊ぶ時間が楽しかったのに、女子が入ってから何となく疎遠になってそのまま……

ネトゲを止めていたのはテストが近かったのもある。でもゲームなんて無くても今は……


「……志信?」

「あ、悪い……ちょっと頭痛くて。先帰るな」


ネトゲに依存していたのは、寂しくてよりどころが欲しかったからだ。今はそれが無くても充実した日々を送れている。

ハンバーガーの空をくしゃりと丸め、飲みかけのシェイクを一気に啜り、二つの空を所定の場所に片付ける。それと同時に隣に座っていた篠崎もがたんと一緒に席を立った。


「志信、俺も同じ方向だし、一緒に帰ろうぜ」

「うん。じゃあ、横宮また明日」

「おー。またなぁ」


横宮はこちらをちらりと見た後、携帯をいじりながら残ったハンバーガーをまだ食べていた。志信は篠崎に行くぞと肩を抱かれながら店を出る。

ボールをぶつけた罪悪感からなのか、篠崎は志信に対して甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

何かあればお供のようにすぐついて来て、移動教室の時も片時も離れない。

くすぐったいような感覚だったが、加奈子以外にそうやって一緒にいる存在が居なかっただけに少しだけ嬉しかった。


「……篠崎って、こっちの方向だっけ?」

「んー……途中まで」


人通りの少ない裏路地を通った時点で、彼の行動を変に思うべきだった。

確かに裏道を知らない自分も悪いのだが、近道だからって言われても変な道は避けるべきだったと思う。

クラスメイトで、初めて出来た男友達だからって、心を赦しすぎたかもしれない。


「篠崎…ここって行き止まりだよ」


篠崎はくくっと喉の奥で小さく笑うと、乱暴に志信の両肩を掴み、塀にきつく押し付けてきた。

ガシャンという衝撃と共に、フェンスの金網が上下に大きく揺れる。


「し、のざき……?」

「ミキちゃんが、お前の存在がウザイんだって」

「……は……?」


ミキちゃん……?誰だ。さっき篠崎が言ってたメールの子か。だからって、その子と関わったことなんて一度もない。

大体、女子で仲良くしているのなんて幼馴染みの加奈子だけだ。どうして知らない女に、訳の分からない逆恨みをされているのか全く理解できない。

そんな志信の疑問を篠崎が冷たい目で見下ろしながら代弁してくれた。


「ミキちゃんは、如月のことが大好きなんだよなぁ……毎日毎日、飽きもしないであいつの追っかけみたいにくっついて。それなのに如月はずっとお前のことだけを見てる……」

「何、言って……」


――初めて同性が怖いと感じた。いつも優しい如月とは全然違う。

同じ歳で、クラスメイトで、それでも目の前にいるのは、男だ。身長も15センチ以上も違い、バスケ部で鍛えている篠崎に力では到底勝てる見込みなんてない。


「……俺はミキちゃんに、お前を如月から引き離せって言われたけど、これはチャンスだと思った。お前が大怪我をしてどうにかなったら俺が一生面倒みてやろうと思ってさぁ」


サッカーボールを顔面向けて狙ったと少し病んだような笑みで言われてゾクリと背筋が粟立った。

こんなことを考えていたなんて知らなかった……いつも爽やか好青年でクラスから人気の高い篠崎とは思えない言葉だ。


「なのに、あいつはいち早くお前に駆けつけて、ヒーローみたいにさらっていきやがった。教師だからって……そんなの卑怯じゃねえか!」

「いやだっ……」

「啼いて叫んだってヒーローは来ねぇよ。お前は俺にこの綺麗な顔をーー」


篠崎は最後まで言い終えることが出来ないまま、背後に立つ人物に無理やり引きはがされた。


「ッ……如月……!」

「……俺は生徒に手は出さない。暴力で解決することが正しいわけないからな。でも――」


如月の言葉は酷く冷たく、一切の感情を殺したような声だった。

しかも、ものすごい力で後手に篠崎の腕をぎりっと握りしめているのがわかる。まるで、その締め上げる音が聞こえてきそうなくらい。


「次にこんなことをしたら…どうなるか分かるな?今日はおとなしく帰るんだ」

「……くそっ」


逃げるように去った篠崎の背中を金網にもたれかかったまま呆然と見送り、志信はようやく自分の置かれた状況を理解した。


興味も無かったから一緒に遊んだ女子の名前なんて覚えていなかったけど、確かミキちゃんという子が最近ネトゲに来た子でいたような気がする。

現実だけでは飽き足らず、ゲームまで追いかけた如月がついにネトゲに来なくなったことで、学校の中では殆どしないゲームの話題や、知りえる人物を使い色々情報をかき集めていたのだろう。


志信がシノブと同一人物かは気づいていないだろうが、あれだけいつも如月を追いかけていたら、その見つめる視線の違いくらいは悟られていたのかも知れない。

篠崎の俺に対する狂気も恐ろしいが、そんな篠崎の淡い恋心を悪質に利用したミキちゃんという女子も相当怖い。

……母親のことがあってから女は苦手だったが、これではますます女性恐怖症に陥りそうだ。


「杉崎、大丈夫か?」

「……マ…先生……どうして……」

「横宮君が教えてくれたんだ」


如月の優しい手が伸ばされるが、先ほど篠崎に向けていた殺意に満ちた瞳がそれに重なり、怖くて手を取ることが出来ない。


「あいつ……飯食ってたのに……?」

「彼が心優しい子で良かったな。一人で帰れるか?」

「……はい……ありがとう…ございます」


今は如月の優しさに頼ることが出来ない。同じ男相手にここまで恐怖を感じたのは初めてだ。

初めて……?


古い記憶が脳裏を過る。

――あぁ、そうだ…思い出した。

男に対して恐怖を感じたのは、今日が初めてじゃない……


中学二年生のあの日……家庭環境に心底嫌気がさして偶然見つけた海外産のMMORPG……

浮気をしている母のこと、家庭を全く顧みない父のこと、学校のこと……

ネットゲームは全てを忘れて没頭できた。”現実逃避”という名の世界に。



そう……あの日も、俺は男に襲われかかったんだ。

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