おまけ②「ある酒場での出来事」
おまけ②【ある酒場での出来事】
「きゃー!!!」
「なんだなんだ?」
回りの連中が騒ぎだした。
俺はいつものようにカウンターで店主と飲んでいた。
どうやら、奴のようだ。
俺のように毎日酒を飲みに来る男なのだが、酒が弱いくせに飲むものだから、酒に飲まれる始末だ。
案の定暴れ出したらしく、俺はやれやれと奴を止めようとした。
俺と店主の折角の時間を潰すとは。
だが、その日は俺が動かなくても済んだ。
それは、俺よりも若い好青年が、奴を止めに入ったからだ。
「折角の酒が不味くなっちゃうでしょ。今日んところは大人しく帰るか、静かに飲んで貰えるかな?」
にっこりと笑いながらそう言った青年は、綺麗な金髪に赤い目をしていた。
慎重も俺より高そうだから、一八〇以上あるとみた。
でも、そんな優しい言葉じゃ、奴は退かないだろう。
「んだとぉ!?てめぇ・・・俺を誰だと思ってやがる!?」
ほらきた。
「・・・え?誰?俺達知り合いだったっけ?ごめんね、覚えてないや」
奴の名はムーラン=コル。
ちょっと前までは、コロシアムってところで結構強いと評判だったらしい。
が、最近では銀髪の男が名声を全て掻っ攫っていってしまったようで。
すると、周りからこんな声が聞こえてきた。
「おい、もしかしてあの金髪野郎、あのハボックじゃねえか?」
「ハボックって、あのハボックか!?今コロシアムで桁違いに強ぇって話じゃねえか!!」
それが聞こえたのか、ムーランはグッと後ずさってしまった。
へー、そうなんだ、と思っていたのは俺だけだろうか。
そのハボックという奴を、顎鬚を摩りながら見ていた。
「ちっ」
チャリン、とコインを投げつけて、ムーランは店を出て行った。
ハボックって奴は、特に何も言わずに元の席に座っていく。
あまり自分の強さをひけらかさない、良い奴のようだ。
「スカルモは知ってるか?ハボックって奴」
「え?」
店主のスカルモはとても穏やかな性格をしている。
正直、俺は好きだ。
銀の髪も青い目も、全てが好きだ。
「いえ、私はそういうの疎いですから」
「そうみえるけどね」
「もう、いじわるですね、ロマーレさんは」
ああ、可愛いからね。いじめたくなるんだよ。
なんて、俺は何歳なんだ。
それから少しして、先程のハボックという男が帰るために店主の方に来た。
「御馳走様でした。これ、俺達の分」
「あ、はい。ありがとうございました」
なんだ、金と銀で輝いてるじゃねーか、なんて。
「あ、待てよセドル」
「早くしろ」
「!!!!!」
聞き覚えがあった。
コロシアムに興味がなくても、どんなに世間に疎くても、きっと聞いたことがある。
コロシアムに突如として現れた、剣闘士。
決して殺さず、だが強く、誰一人として触れることも出来ない。
優雅に戦うその姿は、剣闘士というにはほど遠く、まるで華麗な蝶のようだとか。
「どうかしましたか?」
俺がいきなり表情を変えたからだろうか、店主が声をかけてきた。
「え?ああ、いや、なんでも。それにしても、スカルモの目は綺麗だな」
俺は決して強くはないかもしれない。
けど、きっと守ってみせるから。
いつかこの想いが君に届くようにと願っているだけだった。
君の言葉を聞くまでは。
「それは、ロマーレさんの髪をずーっと見てるからですよ?」
なんて、と照れたように笑う彼女を見て、男としてこのまま終わらせられるか?
いや、この際他人の意見なんていらない。
俺は、この瞬間、自分でも無意識に言っていたんだ。
「じゃあ、これからもずっと、見ていてくれるかい?」
彼女の顔が真っ赤なリンゴのように染まったら、俺の勝ちだ。
幸せになろう、二人で。