表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

第十六章


「ここ…どこ?」


情けない声が反響する。こんなに小さな声でも反響するほど静かな場所。

右を見る。

……木。

左を見る。

……木。

足元を見る。

………………?


くりくりの黒い目に、愛くるしい顔だち。

もふもふのアイボリー色の小さな体に、ふわふわな白とアイボリーのコントラストのしっぽ。


じぃ―――――――――


そんな効果音がつきそうなほどじっと見つめてくる2対の瞳。

そう、2対。

瓜2つなそれらが物凄い吸引力をもってわたしを見上げている。


どうしよう。

動物は、好き。

美幸さんが持ってきてくれた動物図鑑を眺めるのも、窓から見えたお散歩兼お見舞いな感じのゴールデンレトリバーも、昼寝してる野良猫も。窓際でうつらうつらしてる鳩も。

大好きだけど……

もう長い間見た、ことしかない。

もっと幼いころも近づいてみるものの触る勇気がでなくて見ているだけで、そのうちに逃げられる…悲しいパターンしか記憶にない。

……どうしよう?


触りたい、抱きしめたい、顔をうずめたい。

でもどうすればいいか分からなくて、もどかしい。

どきどきして、我慢できなくて唇をかみしめる。

2匹のうち、1匹がわたしの動きに反応してぴくりと動く。


あっ、逃げちゃう?


ちょっとした喪失感が頭をよぎる。


じぃ――――――――――――


ぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽて


小さな4本の足が地面の上を、軽く、踊るようにしてこっちへ向かってくる。

それなりの長さを持つ毛が、ふわりふわりとそれに合わせて揺れ動く。


じぃ――――――――――――


足元の、ほんの僅か先に立ち止まったその生き物は小さな顔を逸らしあげてほとんど真下から見上げてきた。

さっきのところには取り残されたもう1匹が同じようにしてわたしを見つめている。


ふわり。


「ふぇっ」

柔らかなものが足首の少し上をなぜた。

思わず漏れ出た声に、そのふわふわ…近づいてきた1匹が飛びのいた。


じぃ――――――――――――――

ぽてぽて


足首に柔らかで少しくすぐったい、ぬくもり。

体を擦り付けて、わたしを見上げて。

また体を擦り付けて、わたしを見る。

何回か繰り返されたところで、その瞳にどことなく期待が含まれている…気がした。

「触っても、いいの?」

声を出しても、もう飛びのいたりせずに、大きな瞳で見上げてくる。


そぅ、っとしゃがみこんで。

ぐっと近づいた距離に、顔の割に大きな瞳。

ゆっくり手を伸ばして、あと少し。

怯えさせてたら、どうしよう。

逃げられたら、どうしよう。

期待と不安が入り混じって、なかなかその少しをつめれない。


ふわり


指1本分をつめたのはわたしじゃなくて。

足首に感じたよりもはるかに温かで、繊細なその感覚に何かがこみ上げてくる。

こんなに小さいのに、生きている。

ゆっくり手を動かして小さな生き物の頭をなでて、首をなでる。

美幸さんの持ってきた「ねこの気持ちが分かる本」によると猫は首をなでると喜ぶ、らしい。

自分の知識に若干情けなくなりながらそのふわふわを兎に角なでる。

「みゅぅ」

気持ち良さそうに目を閉じて、猫みたいな鳴き声で満足の意を伝えてくるその生き物。


ぽてぽてぽてぽてぽて


小さな足音に、一心不乱になでまわしていた手が止まる。

不満そうな声が手元から聞こえる。


じぃ――――――――――――――――――――


1歩分ほど離れた場所からこちらを見つめる1対の瞳。

どうしよう。

兄弟をいじめてるって思われてる?

手元の1匹が、止まってしまった手にしびれを切らしたのか、頭を押し付けてくる。


じぃ――――――――――――――――――――


今度はわたしじゃなくて、手に頭に擦り付けている片割れを見る。

で、再びわたしを見る。

……どうすればいいんだろう?


ぽてぽてぽて


さらに近づいてきて。


ぽふっ


少しだけ勢いを付けて空いているわたしの片方の手に飛びついた。

兄弟に手を出した逆襲?

噛まれる?ひっかく?

さっきとは少し違ったどきどきで体が少し硬くなる。


すりすり


顔を擦り付けて。

わたしを見上げて、相変わらずわたしの手と戯れている片割れを見る。

すりすりすりすり

さっきよりももっと素早くこすりつけて、またわたしを見上げる。

何、してるんだろう?

どう見ても攻撃しているようには見えない。痛くないし。

ぽてぽてぽて

片割れに近づいて、一緒になってわたしの手に群がる。

……ばしっ

「あっ……」

結構な音がして、後から来た方の1匹が地面を転がった。

片割れに跳ね飛ばされたその1匹は転がったその先からわたしを見て、空いている方の手を見て、またわたしを見た。

怒りとか、そんなものよりも。どことなく悲しみが見える、気がする。

「……貴方も来る?」

犬とか猫に話しかける気持ちがよく分かった。

通じないかも、って思っていても言葉にしたくなる気持ち。

小さく伸ばした手で、今度はわたしから触れる。

片手に感じていたのと同じ熱が伝わって、じんわり、ふわふわ温かい。


手だけでは飽き足らず、座り込んだわたしの上をよじ登り始めたその生き物たちを少しだけ冷静になった頭で観察してみる。

基本はアイボリーでお腹は白い。ふわふわと日差しを思わせる色合い。

砂漠ではないにしても、乾いて、どちらかといえば暑いに入るだろうこの気候の中で、不自然なほど長い毛足。…毛の生え換わりってないのかなぁ?

大きさとか、しっぽの感じとかはリスに似ている。もふっとした質量感。でも毛で大きく見えるみたいで実際はとっても軽い

でも…

耳はウサギみたいに長くて、その先端からは長めの毛がぴんぴん飛び出していて。瞳はこぼれ落ちそうなほど大きくて驚くほど煌めく青。首元には特別に長い毛が襟巻みたいに巻きついている。

……動物図鑑には載ってなかった、よね?


体中をよじ登ってこすりつけて、駆け下りて。せわしなく探検している割にどこも痛くない。

始めによって来た方が右肩に乗っかって、薄い肩なのに、器用にそこへ陣取る。ふわふわが首に当たってくすぐったい。

もう1匹もそれに倣って左肩に乗ろうとして、転げ落ちた。

「みゆぅぅ…」

お腹を見せたまま情けない声をもらす。…かわいい。

「みゅっ」

右肩から…なんとなく『ふん、情けない』って感じの鳴き声。…ちょっと性格悪いよ。

とりあえず、起き上がったところを手に乗っけて方まで運んでみる。

「みゅう。」

……無事収まったみたい。


さて。


「ここってどこ?」

やや毛に埋もれつつ、左右を見渡す。

森、っていうには植物が密集してないけど、あんなに大きいはずの宮殿が見えない。

よーく見れば、それなりに人の手が加わっているみたいだけど…人はいない。

もうさすがに足元に動物は出てこないし。


「なんでこんなことになったんだっけ…?」


いつかの再現、ていうには状況が悪すぎる。

この前は少なくとも『宮殿』の中だってことは分かってたけど、今はもうどこだかも分からない。


ここ何日かずっと『こっちの世界』にいて、シーラさんに色々教わって宮殿の中を1人で歩けるレベルになったって過信したのがいけなかったみたい。やっぱり驚くくらい人と会わない宮殿の中をぐるぐる探検するつもりで…いつも間にか森に入っているなんて。『あっち』ではこんな致命的に方向音痴じゃなかったはずなんでけど…?

情けなさ過ぎて溜息が出る。

体内時計的に最後にシーラさんに会ってから4時間くらいたっているはずで、いつもなら昼ごはん、のはず。

きっとまた探させてるだろうなぁ…

王様はどこにいようと勝手にしろ、って言ってたけど、その割にシーラさんはわたしがいなくなるといつも探してくれる。……それだけわたしが迷子になるってことだけど。

「でも始めの1回以外はそんなでもなかったんだけどなぁ…」

「みゅう?」

耳元で語尾が上がった鳴き声を上げた生き物を軽くなでる。

反対方向からも鳴き声がしたから、そっちもなでる。…手攣りそう。

それにしてもこの子たちはフレンドリーだ。野生じゃないのかな?首輪とかしてないけど。


とりあえず、座り込んでても何にも改善しないから人を探そう。

肩に乗っかっている子たちを落とさないように静かに立ち上がる。…左肩から滑り落ちそうになった子を間一髪ですくい上げて、元に戻す。

よし。


がさっ、がさがさ


えっ?わたし、まだ動いてない。

2匹は首にまとわりついてるし…


がさがさ、がさっ


しかもなんか近づいてくる!!

…どうしよう。どうすればいい?

隠れなきゃっ。でもどこに?

それなりに手入れされた木々に隠れるのに都合いいところなんて見当たらない。

「みゅう?」

『どうしたの?』っていう感じの鳴き声が肩から聞こえて、わたしだけじゃなかったことを思い出す。

この子たちは小さいし、たぶん木も登れる。

抗議の声を上げる生き物を無理矢理首からひきはがせば、熱がなくなって心もとない。


がさっ!!


必死に手にしがみつく2匹に苦戦しているところで、とりわけ大きく葉をかき分ける音がして。





「あれ?こんなとこになんで子供が居んの?」



……ヒト、発見。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ