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第十五章

…………なんか、重い。

まどろんでる中に感じるかすかな不快感。

まぁ、いっか。

まだ眠ってたい。


「お、重い!!」

「うわ、アブナいなぁ!!」

最初は少しの重さだったのに、いつの間にかお腹がえぐれる感じの重さになっていて、慌てて飛び起きた。

のと同時に重さが上から消えた。

ふわふわの掛け布団…ただし豪勢な刺繍付き。ってことは上に見えるのは天蓋の…

「っひょあ…」

「ナニそのナサケナイ声。」

目の前に広がる赤。目と鼻の先、の意味そのままな距離に真っ赤に煌めく2つの瞳。

「ったくいつまでホウケているつもり?」

ふわり、と浮いている見覚えのある非現実的な色の取り合わせ。

「少年…だぁ。」

「その少年ってのやめようよ。全くボクを何だって思ってるわけ?」

何って聞かれても…わたしにわたしの状況を説明しに来た……誰……っていうか何?

何度見てもふわり、と重力に逆らって浮かんでいる華奢な肢体。この前は変に思わなかったけど…夢だって思ってたし。でも今、わたし起きてるよね?

「っ王様!」

確かに寝る前にわたしの隣には王様がいたはず。わたしが起きてすぐにそれに気がつくくらいなのに、こんな大声出しといて起きてないはずがない。

隣をまさぐると意外にすぐ近くに触れる温かな体温。規則正しい寝息。

「寝て…る?」

「ソレ、起きてるように見えないデショ。」

少年がわたしの前から軽い風を巻き起こしながら王様の方へ飛んで行って…その上に乗っかった。

少年…その人一国の王様だよ?

「え…起きない?」

「トーゼン」

どこか馬鹿にしたような表情で少年がこっちを見ている。

「ジャマだから寝てもらったよ。全くボクが来たのに反応するニンゲンなんてひっさしぶりに見たよ。キミとは大違い。キミってばあんなに重さかけるまでおきないんだモン。」

わざわざボクが来てあげたのに、失礼でしょ。

ぶつぶつと聞こえてくる愚痴めいた言葉。とりあえず失礼とか…王様の上に乗っかっちゃってる貴方に言われたくない。

ん?

「少年、なんでここにいるの?…どうやって浮かんでたの?王様を眠らせたって何し…んぐ。」

「スト―っぷ、すとっぷ!」

少年の手で口をふさがれた。

「キミはなんでそんな一気にキクのかなぁ。そんなに一気にこたえられないでしょ。オチツキナよ。」

また至近距離で覗きこまれる。…癖なのかなぁ。近すぎ…

「ん。オチツイたネ。」

ふわり、とまた浮かんで、今度はもっと高く、見上げなきゃいけないぐらいの場所で。

「アラタメテ。ボクはこの世界の住民。ニンゲンからはジンニーとかって呼ばれてる。この世界をダイヒョウしてキセキの具現たるキミの来訪をカンゲイするよ。」

そう言って、お辞儀をした少年は言葉こそ変わらないけど、さっきまでのふざけた雰囲気はどこにもなくて…とても神聖なモノに見えた。

「住民?ジンニー…歓迎?」

「そ。ボクはこの世界もモノだよ。」

ひらり、と降りてきてわたしの目の前に座る。少し低い目線から少年がこたえた。

「でもこの前は…」

ここは確かに王様たちが住むあっちとは違う世界。でもこの前会ったのは…

「アレはボクがムリヤリこっちとあっちの世界の間に作った空間ダヨ。ゲンミツにいえば、こっちでもあっちでもない世界。」

「こっちでも…あっちでも?」

「そ。ニンゲンと違ってボクらはカラダに縛られない。モチロン、簡単じゃないけどセカイを渡ることだってできる。…この前のはトクレイだけどね。」

展開が速すぎて付いていけない。近頃不思議なことに対する許容のハードルがどんどんどんどん下がってるけど、それでもパンクしそう。少年は…ジンニーでだから宙も飛べる。で、わたしは…

「特例…?」

「ボクのキゾクは基本的にこっちだから。可能か不可能かでいえばキミのいたあっちのセカイに行くことはカノウだけど、セカイが重なることはコノマシくないからネ。普通はやっちゃいけない。そーゆーキマリ。」

ぴし、っと指を立てて少年が言う。そして意地悪そうな瞳でわたしを覗き込んで。

「ボクらでもやらないことをドッカのダレカはニンゲンのくせにやってのけたからネ。こっちもあっちもオオサワギだったヨ。」

非難がましい言葉。…好きでやったんじゃないもん。

「普通やろうと思ってもデキナイから。」

けらけら笑う声が響く。

「こっちも、あっちも…?」

こっち、は分かる。王様とかシーラさんが『わたし』をジンニーとして受け入れた、からこっちには少年みたいな人間を逸脱した…『わたし』っていう異常分子に気がつくような存在がいるんだろう。でもあっち…?

「そ。どっちもダイコンランだよ。」

少年がけらけら笑うのをやめて、さも当たり前に、迷惑そうに言う。伝わってない気が、する。

「あっちも?」

「あーぁ、そうゆーことネ。キミの世界にもボクみたいな存在はいるヨ。っていうかドコのセカイにもいる。」

それは…カミサマ?

「ダイタイそんな感じじゃん?」

いるならきっと…とっても不公平で意地悪で。

カミサマなんて…ダイキライ。

「ふーん。キミはそんなこと考えてるんダ。…まぁどーでもイイけど。そんなこと話にキタんじゃないし。」

暗く墜ちていく思考を少年が途切れさせる。

「キミ、あっちのセカイにあんまいれないデショ」

……どういうこと?

「気が付いてるデショ?こっちにいる時間の方があっちにいるよりもナガイってこと。」

「う…ん。」

寝ている時間とか良く分からないけど。でもあの病室で過ごす時間は、『意識がある』時間は絶対こっちより短い。

「この前は時間切れだったカラ。」

一拍、小さな間。こういう間って…いいことがある時じゃない。

赤い瞳と視線が絡む。

「キミのあっちのカラダ、そろそろゲンカイだよ。」



「モトから、キミがこっちにくる前から、とっくにゲンカイは見えていたんダヨ。むしろゲンカイが見えていたからキミはこっちに来れた。キミの今のそのカラダはムショウで与えられたモノじゃない。キミが干渉を願ったときにキミ自身があっちからヒッパッてきたんだヨ。…キミのボロボロになってカタチを失いかけてたカラダの大半を、ネ。キミのカラダはこっちでサイコウセイされて、キミのウツワになった。つまり、ゲンミツにはキミのカラダは2つになったんじゃなくて、1つが2つにフカンゼンに分かれてしまったってコト。それはいつまでもソノママじゃいられない。キミのカラダは今、こうしてる間にもあっちがマモウされてこっちにまとまろうとしてる。」



一気に言い切って。勝気なジンニーには似合わない心配そうな表情で少年がこっちを見ている。

でも、これで納得した。


「大丈夫。わたし、は平気。」


だって知っているから。知っていたから。

発作が起こったあの時。目が覚めてナースコールした時に。

原因不明だけど、病状が急激に悪化しているって。














あっちの『わたし』はもう一月ももたない。












『異例尽くし』なわたしは死ぬわけじゃないんだろう。

少しずつ、あっちにいる時間が短くなって、いつか完全にいけなくなるだけ。

こっちは苦しくないし、あんなに焦がれた外にだって出られる。

『奇跡』みたいな話でしょ?

でも、わたしを慈しんでくれた人たちが確かにいた、わたしのすべてだったあの狭い世界。

生きる意味を見つけられなかったわたしに痛いほどの優しさをくれた人たち。

それは、きっと……



こぼれおちるその前に、ひやりとした何かに包まれる。

「キミが何を考えてたって、この世界はキミをカンゲイするヨ。……もう、オヤスミ。」


頭の中が強制的に黒く塗りつぶされていく。

悲しさも、悔しさも、理性も。

優しい闇に呑まれて、溶けていった。




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