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第十三章

甘い、甘い香り。

じゃあ…ここは。

何度目かになる豪華絢爛な天蓋が見える。当然病院ではないから赤い少年が言うところのわたしのもう一つの『カラダ』がある場所。王様とシーラさんがいるアラビアンナイトの世界。

長時間眠った後みたいに目の周りが何となくべたべたする。

腕に力を入れて身体を持ち上げようとすれば、想像よりもずっと楽に身体が起こせたことにびっくりする。

よくよく見てみれば眠る前…あっちの世界の腕よりも少しだけ太い気がする。理屈は分からないけど。

あたりを見てみる。この無駄に広いベッドは初めてこっちに来た時のもの、だと思う。つまり王様のベッド。でもあたりを見ても王様はいないし、シーラさんもいないみたい。というより人の気配がしない感じ。

ベッドの端に這って行って…這わなきゃ外が見えない時点で少しおかしいと思う…天蓋をまくってみてみれば陽の光。昼間っぽい。

少し待ってみても一向に人が来ないみたいだから、とりあえず出てみよう。

たぶん、大丈夫。うん、きっと大丈夫。

布団…にしては派手すぎるし薄いそれを剥いで見てみれば、身につけているのは紅色の繊細な刺繍がされたワンピース。寒くないと思ったのはお腹が出ていなかったからか。それにしても本当無駄に綺麗。お腹が出てないってことはたぶん寝巻、だと思う。約束を守ってくれたシーラさんに若干安堵したけど、でもこのクオリティーは必要じゃないでしょ。

ちらり、と見てみればつやつやのワンピースにはしる幾本もの皺。伸ばしてみたけれど…無駄な抵抗にしか思えない。

…………

見なかったことにしよう、うん。

病院よりも少し高いように見えるベッドから足を出す。右足に巻かれた包帯。

そういえばこっちに来た時に落ちて捻挫したんだった。

ゆっくり動かしてみる。少しだけ鈍い痛みが残っているけれど、でもそれだけ。たぶん歩ける。

左足から地面につける。うん、なんとか届く。

ふわり、とした感触。絨毯の上でもそのまま眠れそうな気持ちよさに顔がゆるむのを感じた。

右足もつけて降りる。

少しふらついたけど特に問題はなさそう。

そのまま歩き出そうとして目に入ったのは揃えられたぺたんこの靴。

赤くて、こちらも綺麗な刺繍がされて、真珠っぽい宝石がついている。大きさ的に王様のじゃない。

履いてみたらぴったりだった。

周りを見ても所持者はいない。そもそも人がいない。

うーん。

とりあえず履いてくを選択してみた。

きょろきょろとみてみればドアが二つ。豪華そうなのと、壁と一体化しちゃいそうなの。

…この微妙な選択。大きいプレゼントと小さいプレゼント、どっちを選ぶかみたいなのに似ていて困る。

ふと自分の格好を思い出す。しわくちゃの、寝巻。

寝巻というにはかなりためらわれるけど、でも寝巻。わたし的、日本的には普段使い以上のワンピースだけど…ここではどうなんだろう。

豪華なほうから出て行ったほうが誰かに会いそう、な気がする。

会わなきゃ始まらないんだけど、でも。


目立たないほうのドアをそう、と開ける。

今いるよりも比較的簡素で小さな部屋が見え、そこに体を滑り込ませる。

王様の部屋より落ち着く感じ。

部屋を抜けて、また部屋を抜けると廊下っぽいところに出た。広めにとられた窓から乾いた熱い風が吹き抜けている。

左右を見渡しても誰ひとり見当たらない。困った。

今さっき通ってきたドアを見て、戻ろうか考える。


結局。

そのまま進むことに決定。ここは宮殿なんだからきっとすぐに人に会うはず。

とりあえず。

右に進んでみた。ドアがあったから開けて、そこにも人がいないことを確認して別のドアから出た。

また廊下があったから進んでみる。分岐を発見。さっきは右に曲がったから今度は左に曲がってみる。いくつか部屋があったから全部開けてみたけど誰もいない。


みたいなことを繰り返して。

「…広すぎる。」

ぷらす。迷子の称号をいただいてしまったみたい。

いつの間にか中庭みたいなところに出てしまっていて、石造りの東屋にへばる。疲れた。

天気は快晴。

病院に慣れた体にはかなり違和感。寒がりだから体感温度的にはちょうどいいけど、すごく不思議な気分。

あっちでは発作を起こして死にそうだったのに、こっちで覚えるのはただの疲労感。胸も苦しくないし、呼吸も乱れてない。

ただ、少しのどが乾いてるくらい。


温かい日差しにちょうどいい疲労感。屋根で陰になっているかた背中に感じる石がひんやり気持ちいい。

起きたばっかりなのに瞼が落ちてくる。思考がとろける。

まぁ、いっか。



誰かが呼んでいる?

耳触りのよい低音は誰の声?

聞いたことがある。でもどこで?

温かい何かが背中とひざ裏に回って、束の間の浮遊感。

感じるぬくもりにもっと近づきたくてすり寄る。とっても温か。

なんだかすごくしあわせ。



すごく幸せな気分で目を覚ました。

豪奢な天蓋。

さっきまで迷って、東屋にいて…寝ちゃった気がするのに。ここは王様の部屋。

天蓋の外からは温かい燭台の光が漏れてきているから、今は夜?

這い寄ってみれば足元に揃えられている赤い靴。

豪華なほうのドアのその向こうから聞こえる音。人の気配。

ゆっくり足を付けてそのドアの元へ寄る。ドアの前に垂れ下がった…豪華すぎるアラビアンなのれんを押しのけてドアを開けようとする。

そう、と開けるまでもなく、かなりの重量のそれは力を入れても少しずつしか動かない。

あいた隙間から洩れるのは2つの声。そして寝室の甘い香りとは異なるけど、鼻をくすぐる良い香り。

頑張って押しのけて。そこから顔をのぞかせれば2対の瞳と視線が絡む。

「あら、アスカ様。お目ざめになりましたのね。」

手に持ったものを近くのテーブルに置いて、小走りでシーラさんがやってくる。いとも簡単にドアを開けられて何とも言えない気持ちになる。

「おはよう、ございます…」

言ってから今は夜なことに気がついていたたまれない。

「もう、心配しましたのよ。2日ほどもお戻りにならないかと思えば、今度は体ごといらっしゃらなくなるのですから。びっくりしましたわ。」

あっちで発作をおこして、起きて美幸さんと話して、また寝て。起きて…それからこっちで起きたから…確かに2日くらいになる。シーラさんにとても心配そうな顔で覗きこまれて申し訳なさがいっぱいになる。自分の内に来たお客様が意識不明で2日間。さらに気がつけばいつの間にかいなくなっている、なんて状況になったら絶対焦る。心配になる。

「すみません…」

目も合わせられなくて俯いてしまう。

「謝る必要はない。」

響くのは美声。見れば王様がソファにもたれかかって赤い…ワインっぽい液体を飲んでいる。グラスの取っ手部分に金色が長い指の間できらめいていて綺麗。

「お前は別に俺と契約しているわけじゃない。好きなところに行けばいい。」

こちらを見ずに告げられた言葉が胸を刺す。王の部屋に勝手に来て、勝手に出ていく。それが許されるのはジンニーだからこそ。悲しむ必要なんてないでしょう?

「あら、そんなことをおっしゃって。あれほど…」

「シーラ」

ころころと笑ったシーラさんの声は王様の低い声で遮られた。黒曜石の輝きがこちらを見ている。

「申し訳ありません。さぁ、アスカ様こちらへ。何かお召し上がりになりますでしょう?」

どこかおかしそうにシーラさんは謝って、わたしの手を引いてくれる。

王様に気を取られていたけれど、よくよく見れば王様の前のテーブルにはいつか見たような大量のお皿と食べ物。まだ手をつけられてはいないみたい。

あんなにどうするんだろう、という心配と一緒に歩き回ったための疲労感。

そして。


きゅーるるる、くぅ

王様とシーラさんの視線がわたし…正確には音源に向けられる。

顔に血液が集まってくるのが分かる。

繋がった手からシーラさんの震えが伝わってくる。王様の呆れたような、何とも言えない瞳にベットにかけ戻りたくなる。でも手が掴まれている。

絡まった視線は王様のほうからそらされて。長い指がテーブルの上を指す。

「食え」



教訓

豪華なドアを選ぶこと。

こっちの世界ではお腹がすくらしいこと。


このような辺境への来訪感謝いたします。

番外編「語られざる話」を開始しました。読まれると色々と分かる…かもしれません。

興味のある方は目次頁下部のリンクからお越しください。

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