第十一章
「まず、大前提。」
赤い…少年がぴっ、と効果音がつきそうな勢いでまっすぐに指を突き付けてきた。爪の形もすっごく綺麗。
「…その少年ってのヤメテよ。ボクそんな年じゃないし。」
「……じゃあなんて言えばいいの?」
どこからどう見ても…色は普通じゃないし、綺麗すぎるけど、十分に『少年』だけど。
「んー、特に決まってないんだよねぇ。」
名前、ないのかな。
「そうじゃなくて、皆好き勝手呼ぶから。今まで困らなかったし?」
「それ、名前じゃないの?」
意味が分からない。
「って、そんなことはどうでもいいんだった!!前提だよ、大前提。」
…いいんだ。じゃあ、少年ってことにしておこう。
少年は仕切り直し、というようにもう一度指を突き付けてきた。…いい加減ちょっと危ない。
「ココロとカラダってベツモノなんだよ。」
なんか、宗教みたいになってきた。
「壺はいりません。」
美幸さんが宗教団体にヘンな壺を売りつけられそうになって困った話を思い出す。なんで壺なんだろ…
「ったく、このセカイの人間がこうなっちゃったからボクがこんなところまで…」
ぶつぶつ、と少年が呟く。ふてくされた表情をしていても綺麗なものは綺麗。そう、美幸さんがなんかの写真集を買ってきて。
「目の保養」
「勝手にホヨーにしないで。」
デコピンされた…。痛い。
「と・に・か・く」
ぽんっ、と煙を立てて人形が出てくる。で、浮かんでる。
「全く、これくらいで驚かないでよ。アタマかたいんじゃないの?」
十分、驚くべきことだと思います。
「あのさぁ、話進まないからオトナシク聞いててくんない?」
人形がくるっ、とわたしのほうを向く。それにもびっくりしたんだけど、それより…
「わたし?」
「そう、よくできてるでしょ。」
くるくるの髪の毛にやせ細った…まぁ可愛くないとは言い切れないけど可愛いとも言い難い貧相な人形。デファルメされているけど、傍目に見て分かるくらいにはわたしで。たぶん商品化しても売れなそうな、そんな感じ。丁寧なことにパジャマを着用してる。
「これが人間ね。見た感じ、この状態ではココロとカラダは一緒になってる。」
人形がぽてぽてと歩き出す。もう、驚くのに疲れてきた。
「で、夜になって眠るとする。」
くるっと少年がたてた指を回すと、人形の上に星と月がモービルみたいにして現れた。
なんとゆうか…芸が細かい。
「すると」
ベッドが現れて、わたし…人形が眠りに就く。
「あっ」
ふわり、と人形が二重に見えて、その片方が浮かび上がった。
「これがココロね。で、残ったほうがカラダ。」
もちろん、これは分かりやすいようにあらわしたダケなんだけどね、そう言い置いて少年はわたしを見た。
「分かった?」
「…幽体離脱?」
「まぁ、そんなトコ。でも、分かれている状態のほうが本質。さて、ここで問題。ユウタイリダツでどっちかがなくなったら?」
「…困る?」
「……そんな軽いもんじゃないけどネ。人間はあんまり長くココロとカラダが別々になってたらどっちも消えちゃう。」
何となく、言いたいことは分かるけど、古代エジプト人の思想を聞いてるみたい。だいたいこれが何の説明になってるんだろう。
「キミは自分勝手すぎ。折角テーネーに説明してるのに。口はさまないで黙って聞いててよね。」
少年に自分勝手とか言われたくない…
「眠るとココロはカラダから離れて」
目をつむったまま、浮き上がったココロの周りが歪んで、お花畑と青空が広がった。
「これが、『ユメ』」
夢、といわれた空間の中でココロがぱちり、と目を開いて歩き出す。カラダはベッドで眠っている。
「で、起きるときになる。」
星と月が消えて、代わりに太陽が浮かんでくる。ココロがお花畑に倒れこみ、目を閉じる。もう一度周りが歪んで、消えた。
「ココロがカラダに戻ってくる、ってわけ。」
レム睡眠とかノンレム睡眠とか完全に無視した少年の説明。おとぎ話を聞いてるみたいに現実感がない。話の意味は分かるけど、ただ。分かるだけ。納得、できない。
「心と体が別々じゃ生きていけないなら、どうして夢なんて見るの?」
はじめから、分かれなければいいのに。
「さぁ?人間って不便だよね。バカ、みたい。そうゆーモノだからじゃん?」
…説明になってないよ。
「まぁ、信じなくていーけど。じゃあキミのガイネンでキミのジョータイを説明できるわけ?」
毎日、同じ夢を見る。やけにリアルな痛み。セーブされたみたいに「わたし」のことを知っているシーラさんに、王様。見たことも考えたこともない豪華絢爛なあの世界。
「できるの?」
考えていることが分かるはずなのに、容赦なく問い詰めてくる少年。わたしにその一言をいわそうと、認めさせようと待ってる。
逃げたい。認めたくない。だって、そんな。
でも。
真っ赤な瞳から、逃げられない。
「…できない。」
絞りだしたその応えに、にっこりと少年がわらった。してやったり、な顔。
「聞き分けのいい人間はキライじゃないよ。とにかく、今までのが『普通』の人間の状態ね。」
強調される、『普通』。嫌な予感がする。
「察しがイイネ。」
聞きたくなくて、耳をふさぎたい。
「でも、聞きたいんでしょ。」
まっすぐに射抜かれる。
引き金を引くのは、きっといつも自分。
『ユメ』っていうのはココロが作り出す幻。
自分で作ったものだからヘイサ的で仮初の世界でしかない。
でも、本当にマレに。
完成された別の世界にマギレこんじゃうことがある。2つの世界を人間のココロが渡るのにはそれなりに条件があるんだけど。条件ってなにかって?んー、例えば同じモノとか、カオリとか。世界が重なることだよ。うん、イメージの問題。
マギレこんだ世界は、自分で作ったモノじゃないから、好きなように移動できないし、当然『ユメ』みたいに好き勝手はできない。当たり前だよね?
だから、できるのはただ見ているコトだけ。
で、カラダが起きるときには引き寄せられて自然にココロが戻ってくる。これでおしまい。また普通の生活が戻ってくるってわけ。
変な『ユメ』でも、ニチジョーの中で風化して、忘れ去られて。なかったことになる。
でも、キミの場合は違うよね。
キミはたまたまココロがマギレこんだ世界で、その世界にカンショーすることを強くねがってしまったんだ。
本当ならあり得ないことなんだけど。
だって、ユメってそんなにイッショウケンメイ見るものじゃないじゃん。
『ユメ』としてココロが別世界を見てたとしても、ベールがかかったみたいに見えるのが普通なの。
でも、キミはキミの意志でそのベールを取り払おうとして…良く見ようとしたでしょ。
で、そこに広がった世界に。
入り込もうとした。
全く、イレイずくしもいいところだよ。
本当は重ならないはずの世界だから、キミのココロはキミのカラダのない世界からは拒まれる。
ココロが無理やりカラダへ押し戻されたり、最悪ココロが耐えきらなくてハサイされるものなのに。
キミのココロはそっちの世界に入ってしまった。
そして。
人間のキミがカンショーするために、ココロのイレモノとしてカラダが用意された。キミがキミのイレモノと認識しているのと同じ、カタチのモノが。
こうして、キミのカラダはこっちとあっちで2つになった。
ココロとカラダは互いに引き合う。
どっちかが消えたらもう一つも消えるから。
1つのココロに2つのカラダがあるキミは。その全部を満たすために、ココロが交互に2つのカラダを行き来しなきゃならなくなった。
つまり、キミにとってはミユキのいるあっちも、シーラのいるこっちも等しく現実ってこと。
良くあるかって?
さっき言ったじゃん。
キミのしたこと、どれもその1つ1つ自体があり得てはならないことなんだよ。
少なくとも、こっちの世界でも、あっちの世界でもゼンレイなんてない。
その1つ1つのカノウセイを上げた理由は考えられるけど…
そう、こういうことを人間は。
『キセキ』
ってゆうんでしょ。