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第十章

 「……」

 声にならない疲労が押し寄せている。

 つ、疲れた……

 思い返すだけで散々な目にあった。

 宝物殿はそれはそれは、素晴らしかった。そのまま博物館に入っていてもおかしくないようなきらきらしたモノたちが、整然と、でもかなり押しこまれて入っていた。確かにそのまま入っていたら錆びそうだと、ちょっと思った。

 その後はひたすら。

 ひたすらその高そうなモノたちをあてがわれて、シーラさんが気にいったものを下に積んでいくことの繰り返し。

 どう見てもダイヤモンドにしか見えない石にその他。それを縁取るのは繊細な金銀の細工。

 鏡に映ったわたしは真っ青で、ちょっと冷や汗をかいていた。

 ……つらかった。

 こういうのは美女とか美少女が身につけて初めて生きるもので、身に纏っている上質な服はまだしも、下手したらあばら骨が浮かんで見えそうな貧相な人間が身につけるものじゃあない。しかも、金とか銀っていくら細く華奢に作られてても、宝物殿級のモノはその使われている量が半端じゃないから…すごく、重かった。

 鏡の中の自分が頭に載せた飾りに明らかに押しつぶされそうな様子を漂わせていたのを見たときは、さすがに泣きたくなった。


 それでも。

 吐き気も発作も起きてこないことに驚く。

 こんなに体力はなかったはずなのに。

 本当に調子が悪い時なんて、布団から起き上がることもできなくて。目をあけているのさえ億劫だった。

 夢だから、当たり前?


 極彩色の刺繍がされたソファーはみためよりずっとふわふわで、とても心地いい。

 息苦しさもなくて、点滴の針も刺さってない。単純で同じことの繰り返しからは程遠い…そう、懐かしい『生きている』感覚。

 ここは夢。

 でも、この居心地がいい場所はわたしに勘違いさせる。

 本当のわたしは白い白い箱の中で、命が尽きる日をただ待っているだけなのだから。

 こんな夢、はやく醒めて。

 そうすれば何もかも本物じゃなかったって全部諦めることができるから。

 


 ぱちり、と目を覚ます。

 白い、白い部屋。


 「…おはよう?」

 見慣れていたはずのシンプルなパジャマに、清潔な真っ白の布団。枕もとのチェストに、消毒液の匂い。

 現実と夢の違いがつかなくなっている。でも、間違いない。これがわたしの生きる『現実』

 気だるさがまとわりついている腕を掲げてみれば、「さっきまで見ていた腕」よりもどことなく細い。自分で見ても異常なほど白い棒のようなそれに、刺さった針。目を向ければ一滴一滴規則正しく落ちてくる点滴。

 手をついて、ゆっくり起き上がる。

 「夢」でよりもはるかに労力が必要で驚く。

 何にも乗っかっていない頭なのに、信じられないくらい重い。


 午前、11時23分。


 あり得ない時間を表示している時計。

 確か、美幸さんが嬉々として持ってきた電波時計だったはずだから、ずれているとかないはず。

 良く見れば、足元に近くのコンビニの袋。

 美幸さん…

 確か、昨日意識が途切れたのって美幸さんが来て、すぐのはず。昨日美幸さんは小児科の回診の前に来てくれたんだからたぶん寝ちゃったのは9時くらい、だと思う。

 約、26時間。


ぞっとした。


わたしの眠りは浅くて。

看護師さんが来てくれるだけで目が覚めていたはずなのに。

 丸1日以上。

 美幸さんが来てくれたことにも気がつかないで。

 ただ、昏々と眠っていた?


 嫌だ、いやだ、イヤダ


 怖い、こわい、コワイ


 わたしに繋がれた機械にうつる心拍数が上がってきている。

 駄目。

 これ以上上がったら発作が起きる。

 分かっていても、止められないくらい、ただコワイ。


 甲高い異常を知らせるサイレン。

 苦しい。くるしい……

 







 真っ暗。

 

 ついにしんでしまった?



 目を開けても、閉じても、何にも変わらない。

 そのうち、開けてるのか、閉じているのかも分からなくなって。


 あぁ。

 こうやって溶けて消えちゃうんだね。




 













 


 「残念だけど、まだ死んでないよ。」

 すぐ、近くで声がした。

 溶けかかった頭のどこかがわたしに教えた。

 でも、見ることはできない。目がどこにあるか分からないから。

 この頭だってきっと。

 すぐに消えてなくなってしまう。

 「だぁ、かぁ、らぁ。死んでないって言ってんじゃん。」

 …煩いなぁ。

 「ほら、さっさと起きてよ!!」

 ぐい、っと引っ張られる感じ。

 あぁ、掴まれたのは…そうわたしの右手。

 かすかな明るさを感じるのは瞼。そう、わたしの目はここにあったんだ。

 「全く、人間ってほんとゼージャクだね。」

 ふん、とその人が鼻を鳴らしたのが分かる。

 「人じゃないんだけど…もう、分かったならさっさと目、開けてくれないかなぁ?話進まないんだけどっ。」

  …ずいぶんと短気みたい。

 「はぁやぁくぅぅ」

 思いのほか、簡単に開いた目。

 

 広がる赤。

 それも、燃えている炎みたいな目を焼く真っ赤な強い色彩。

 「ほんとノロマ。」

 背丈はわたしより少し低いくらい。わたしが150cmないくらいだから、140cmほど。

 かなり整った…作り物みたいな左右対称な顔。顔つきだけ見れば天使みたいな綺麗さ。

 でも、髪も瞳も真っ赤。

 「いつまで見てるわけ?」

 「……ここどこ?あなた誰?」

 少なくとも、わたしこんな人知らない。

 「ふーん。まぁようやくちゃんと頭回ってきたみたいで良かった。でもその質問の仕方ってすっごくバカ」

 …あなたはすっごく失礼。

 「失礼でけっこ-。ボク自分の得にならない人にこび得る趣味ないから。」

 小さい割に、結構ひどい。

 それより。

 「なんでわたしの考えてること、分かるの?」

 「質問ばーっかり。ってゆうかなんでボクにそんな馴れ馴れしくしゃべるかなぁ。あのシーラとかいう女にはケイゴなのに。普通逆でしょ」

 「シーラ、さん?」

 それは、あのシーラさんのことですか?ちょっと強引で、でもとっても優しい人。

 「そー。そのシーラ。良かった、そこまでバカじゃないんだ。」

 軽くパニックになる。わたしは、今まで病室にいて、でもここはそうじゃなくて。この人はどうみても日本人じゃないし。しかもシーラさんって、だってあれは…

 「あれは、夢じゃないよ。」

 静かに落とされた言葉。

 さっきのまくしたてるのとは違って、声音は高いのに、頭の奥にまでしみ込んでくる深い音。

 「だから、ボクはキミに説明しに来たの。」

 


後書きを付けるのはこの小説では実はまだ2回目で、最後に付けたのは2年も前でした。お気に入り登録して下さっている皆様、評価を付けて下さった皆様本当にありがとうございます。とても励みになります。

今度こそ消失しないよう、今年中には「おわり」にたどり着けるよう頑張りますのでどうぞお付き合いください。



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