003 グレンフェルト=オーグレイブの独白
3話目投稿します。
間空けつつ数日に渡って書いていますので内容がちゃんと纏まっているか不安です(´へ`;)
俺の名はグレンフェルト=オーグレイブ。
所謂隠れ里と呼ばれるこの村の村長を務めている。
早速でなんだが、俺の独り言を聞いて欲しい。が、その為にはこの村がなぜ隠れ里なのかを説明せねばなるまい。
この村の名はオーグレイブ。そう、俺の名と同じだが、それはこの村の村長職に就く家庭が代々名乗り、受け継いできた名前であるからだ。
ついでに言えば、村のあるこの島の事を外の世界ではオーグレイブ島と呼ばれている。
この村は、直径約200km程のいびつな円形をしている島の大体中央に位置している。
そして村の周囲は強力な魔物や魔獣が徘徊する広大な森が、島の面積の殆どを占めて存在している。
更に南方の方角に目を向けると、最大5000mをも越える標高を持つ急峻な山々が連なり、山脈となっている。
狭い範囲に聳える山だ。登山道も無いその冗談のような傾斜に、普通の人間なら50mも登れずにギブアップするだろう。
更に掘り下げて説明しよう。まず村の周りに広がる森だ。
強力なモンスターが居ると言ったが、その強さは外の世界基準で言えば最低でもAランク下位から、上はSSランクまでがいる。まさに災厄。
そんな中で暮らして危なくないかって?
もちろん危ないさ。普通ならな。
しかしこの村、いや、この島自体が普通ではないのだ。
なぜならば、南に聳える山脈におわす存在のお陰で村を含む森の殆どの地域が聖域となり、その中では人は魔物を、魔物は人を攻撃する事を堅く禁じられているのだ。
その存在とは、世界に遍く存在する属性エネルギーの内、光属性の調和を司る守護神獣の第1位『白光』の聖晶龍アイアリス様だ。
創生の時代から創造神様より直接この世界を任された初代守護神獣の1体であり、以後10億年の永きに渡り世界を見守ってくれていると言われている。
他の守護神獣が何代か代替わりしている中、創生の時代より生きるアイアリス様は、同じ守護神獣の中でも抜きん出た力をお持ちだ。
そんなお方が命じられたんだ。言葉を解す魔物と人は争わず、共生の関係に有るって訳だ。
しかしそれでも魔獣は人を見ると襲ってくる。
奴らは本能に従って暴れるまさにケモノ。
誰彼構わず襲ってくる魔獣の討伐は、魔物と人で協力して定期的に行われている。
ちなみに、同じ種族でも魔物、魔獣双方が存在する。
例えて言うなら理性を持ち人と対話ができる魔物であるゴブリンと、本能全開で生きる魔獣であるゴブリンと言った具合だ。
そんで、そんな危険な地域に住み込んでいるのにも勿論理由があるのだが、今は関係無いのでスルーしておく。
しかし、そのお役目の恩恵と言うか、ボーナスと言うか…。
この村で生まれた赤子には、アイアリス様のお力によりモンスターメダルが贈られるのだ。
贈られるメダルの種類は千差万別。産まれた子の資質により色々なモンスター(魔獣と魔物を総称してこう呼ぶ)の力が宿るメダルが産まれた翌日に赤子の枕元に出現するのだ。
通常モンスターメダルを手に入れる為には、
①モンスターを倒すと、モンスターの死体から漏れ出す魔力が凝縮してメダルとなる。
②魔物が気に入った相手に自らの力をメダル化して託す。
の二通りの方法が有る。
①は確実に手に入る訳でも無く、手に入る確率は、強力なモンスターになるほど低下してゆく。
②は、メダル化する為には少なくとも総魔力の半分以上を消費し、なおかつ消費した魔力は緩やかにしか回復出来無い為、よほど懐かれなければ滅多なことでは魔物もメダル化して渡すことはしない。
そんなモンスターメダルをこの村で生まれた住人はアイアリス様より生誕と共に与えられ、守護獣として、そして身近な友として共に成長していく事になるのだ。
長々と説明ばかりしてしまったかな。すまない。
しかし、どーしてもこの辺を説明しておきたかったのだこの先の為に。
いいか?俺がほんっとーに言いたかった事はだな…。
俺の息子は天才だっ!
いや、ちょっと違うか?
天才と言うか、旨い言葉が出てこないが、アイアリス様の寵愛を受けていると言われても納得してしまう程に規格外な奴なのだ。
あれは、俺の息子、アルナード=オーグレイブ(愛称=アル)が生まれた次の日の事だ。
妻と息子の様子、それと、息子が授かったモンスターが何かを確認すべく妻の部屋へと向かったのだが…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コンコン
「ユリア、俺だ。入るぞ」
「え、ええ。入って、あなた」
ノックをして妻に声を掛ける。
返って来たのはどこか戸惑いを含んだ妻の返事だ。
頭の隅で訝しく思いつつもドアを開けて部屋に入った。
「入るぞ~…!?ユリア、誰だ…この子は?」
部屋に入るとまず目に飛び込んできたのは、息子を寝かせているベビーベッドの横にただずむ3~4歳程に見える幼い女の子だった。
窓から入る太陽の光を反射すれば金髪に輝いて見える狐色の髪を肩口で揃え、目はルビーの様に鮮やかな赤色。幼いが故のその可愛らしい顔立ちは、将来美少女に成長する事を約束されていると断言出来るほどだ。
しかし問題はそこではない。
その女の子に最も目を引いたもの…。それは、頭の上に存在するピンと張った三角のキツネ耳。それと体の後ろにゆらゆらと揺れている2本のキツネの尻尾だった。
獣人種と言う物は存在する。
そして獣人族というのは、大多数の人間には忌み嫌われている存在である。俺はそんなに嫌いではないんだがな。
忌み嫌われている理由と言うのがその出生に関係している。
この世界には人族の他に魔骸族という種族が存在している。
彼らは我々人族には無い特殊な体質を持っている。
それは、倒したモンスターの魔力、もしくはモンスターに認められ譲られた魔力をその身に取り込み、自身の力として強化する事が出来るという物だ。
勿論限界は存在し、それは本人の魔力の量や資質によるらしいのだが。
そしてその力を発現する際、個々人による程度の差は有るのだが、その力の元となったモンスターに体が変質してしまうのだ。
そしてそのモンスターの魔力を保有した魔骸族と人族の間に出来た子供が、魔骸族の持つ魔力の元となるモンスターの特徴を持って獣人として生まれてくるのだ。
そんな獣人族(?)の子供が何故ここに…?
微動だにせずこちらをじ~~っと見つめる幼い女の子の目からなぜか目を離す事ができず、そのままユリアに声を掛けた。
「ユリア…、この子はなんだ?いつからここに居る?」
「分からないのよあなた…。私が朝目が覚めた時には既にここに居て、ずうっとアルを見ていたのよ」
何処から入った?…いや、朝からここに居ただと…?まさか……。
「お前は…何者だ?」
睨み合いにも動じない、ある種のふてぶてしささえ感じる女の子質問をする。
すると、視線をアルに移しじいっと見つめた後、こちらに向き直り喋り始めた。
…アルと目と目で語っていた様に見えたが気のせいだよな?
「わたしはてんこのコニス。あるじさまのしもべ」
と言って再びアルに視線を向けた。
「てん…こ…?てんこ…天狐?てんこって、あの天狐かっ!?」
俺はコニスと名乗った女の子の言葉を理解した瞬間、我が耳を疑った。
天狐とは、数百年もの昔に生息していたと古い文献にて伝えられていた魔物だ。
まるで神より遣わされたかの如く神々しい輝きを放つ毛皮を狙った欲深い人々に狩り尽くされ、今ではもうその姿を見ることは無いとされている。
絶滅より数百年。今では王族の宝物庫にしかその毛皮は現存していないという。
女の子の姿をしているのを見るに、『人の姿に変化する事も出来る』という文献の内容は間違いではなかったらしい。
そんな天狐が今目の前に…。
「ひぇっひぇっひぇ、ユリアの状態を見に来たらなんか大層な話をしているねぇ」
あまりの衝撃に呆然としていた俺の後ろから皺枯れた声が聞こえてきた。
「こいつはたまげた。白光様より坊ちゃんに与えられたのが天狐とはのう…」
振り向けば、昨日我が息子を取り上げた産婆のデオドラが、粘着質な笑みをその顔に貼り付け立っていた。
まずいな。この時代、天狐の毛皮の価値は予想もつかない程天井知らずだ。
金に汚いあこぎなこの婆さんに知られたくは無かった。
「なあデオドラ婆よ、この天狐の事は当分の間内緒にしといてくれよ?絶滅していたとされる魔物だ。ここにいると知れたらどんな混乱が巻き起こされるか分からん」
「そりゃ当然さね。こんなに可愛い金づ…いやいや女の子が、金目当ての業突く張りどもに狙われるなど有ってはならんぞな。ふぇっふぇっふぇっ」
ぬう、何か知らんが何かしら仕掛けてきそうな気もしないでもないな。暫く警戒が必要か?
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とまあこんな事が有ったんだ。
その後コニスはユリアを助け、主であるアルの世話を献身的に手伝ってくれた。
一度お願いして元の姿に戻ってもらったが、なるほど確かに人を魅了してやまない色艶、触り心地の毛皮だった。
ユリアはその毛皮の虜になってしまい、元の姿に戻ってもらっては悦に浸った顔でその毛皮を撫でている姿をよく見るようになった。
そうそう、デオドラ婆さんだが、コニスが現れた翌々日の朝、アルの部屋の窓の外に他複数の人間と共に倒れているのが発見された。
発見された時には既に死亡しており、外傷が無く、顔に張り付く恐怖に歪んだ表情を見るに、あまりに恐ろしい物を見た為に心臓麻痺あるいは心不全を起こしたのではないかと推測された。
デオドラ婆さんと一緒に倒れていた奴は、村の問題児、マーローとその一味だった。
悪戯好きの悪ガキだったが、エスカレートして犯罪に走った挙句アイアリス様の加護を失い、生まれた時より共に成長してきたメダルも消滅。罰として他のモンスターメダルの使用も出来ず、村内での労役に付していたのだが、大方デオドラ婆さんに唆されて天狐のコニスを浚いにでも来たのだろう。
こちらは生きてはいたが、精神に異常をきたしてまともに話も出来ない。野放しにも出来ないのでとりあえず牢屋にぶち込んだのだが、まともに飯も食わないので1ヶ月もしないうちに獄中で衰弱死してしまった。
これをやったのは誰なのか?
俺でもユリアでもない。
そうなると必然的に犯人は絞られるのだが、おそるおそる確認したらあっさりと証言を貰えた。
「あるじさまにがいいをもってちかづくやからがいたのでたいじした」
…一体どんな方法で退治したのかは不明だが、その力が他の一般人に向けられない様にしっかり教育しなければ、とその時強く思ったね。
それからアルは病気もせず、スクスクと成長していった。
天狐のコニスも、アルの世話の他に、ユリアに教えられながらの家事手伝いや、少しずつではあるが村人との交流も行った結果、村人にも徐々に受け入れられていった。
あ、もちろん天狐であると言う事は隠している。デオドラ婆さんの様に欲を出すやつがもしかすると出るかもしれないからな。
外見は、更に変化を重ねて耳も尻尾も無く、人間となんら変わりない姿となっているので問題無い。
村の皆にはコニスの事を、弟に会いに大陸に渡った時に引き取ってきた孤児と言う事にしている。
孤児ということで周りの村人達のコニスに対する感情は割と同情的だ。
そして、アルの1歳の誕生日の時だ。
その日の朝、アルのきゃっきゃきゃっきゃと楽しそうな声で目が覚めたんだ。
どうしたのかと隣でまだ寝ているユリアを起こさない様、そっとアルを寝かせているベビーベッドの方を向いたんだ。
そこには体を起こしてベッドに座り込んだアルと、その視線の先には……ゴーストが居た。
我が子を守る為咄嗟にインベントリから我が相棒ホワイトケルベロス(希少種)のイルスを召喚しかけ…この狭いスペースで召喚してはマズイと寸での所で踏みとどまった。
踏みとどまれたのは、アルがゴーストに対して恐がる事無く、寧ろ楽しそうに話して(いるように見えて)いたのに気付いたお陰だろう。
その様子に半ば確信を持ってベビーベッドの枕元を確認すると、やはりというかアイアリス様からの贈物である2枚目のモンスターメダルが落ちていた。
基本、アイアリス様から贈られるモンスターメダルは基本1枚だ。殆どの村人も1枚だけ頂いている。
しかし、2枚目や3枚目を頂いた例も、昔に遡れば数例存在している。
かく言う俺も2枚頂いているが。
1枚目が伝説的な天狐であったのに対し、2枚目がごく普通のゴーストであった事に若干安堵?というか肩透かしをくらったと言うか、アルならもしかしたら2枚目のモンスターメダルも規格外な物が来るか?とか考えた事が無きにしも非ずだったので、やっぱりアルも普通の子供だよなと思ったのだ。この時は。
次の年。アル2歳の誕生日。アルの枕元には猫が丸まっていた。
更に次の年。アル3歳の誕生日。アルのベットの縁に鳥が留まっていた。
更に更に次の年。アル4歳の誕生日。眠るアルの体の上を半透明の精霊(漂う魔力に色が無い。無属性?)が飛び回っていた。
アル………。一体どんだけアイアリス様に好かれているのかとっ!!
ここまで既に5枚もモンスターメダルを頂いているんだ。
5枚どころか4枚でさえ長い歴史の中で貰えた奴は一人もいないんだ。
俺の息子はやっぱり規格外な奴だったよ……。
さてそうなると楽しみな事が有るんだ。
もう数日もすればアルの5歳の誕生日だ。
果たして6枚目のメダルは貰えるのか?
5枚のメダルをアイアリス様より頂いた事は既に村中が知っている。
着実に近付いてくる5歳の誕生日に6枚目のメダルを貰えるかどうかなんて賭けが一部で行われているらしい。
人の息子をダシに賭け事とは全く不謹慎な奴らだ。
勿論俺は貰える方にヘソクリの1万G賭けてるがなっ!!
なんたって、アイアリス様がメダルは6枚までアルにあげると夢枕で会話したって言ってたからな。クックック、内緒だぜ?
誕生日まで残り1週間も無い。
儲けた金でベイグローブ(この島の玄関口。一般に公開されているこの島唯一の港町)で食材買って、誕生日の晩飯を豪華にしてやろうか!
ああ語り足りない。もっと語りたいというかむしろ自慢したいっ!
まだまだ息子には村人にすら内緒の武勇伝が有ると言うのに。
誰が聞いているでもないこんな所で語りたいのに語れないストレスを発散せねばならんとは。はぁ。
アルよ、早く大きくなれ。
そして、誰にも干渉されない程強くなれっ!
そうすれば俺も堂々と声高に息子自慢を語れるしなっ!
その後グレンフェルト=オーグレイブは、自宅の裏庭に魔法で掘った直径1m深さ10mの穴に向かって小一時間ほど愚痴と息子自慢を呟き続けた後穴を埋め、既に夜も更けて静かな家の中に戻り満足した顔で眠りに就くのだった。