002 和樹転生する
前回よりかなり短いですすいません。
落ちてゆく。
どこまでも落ちてゆく様な不思議な浮遊感がある。
しかし、不思議とこみ上げる不快感は無い。
まあ肉体の無い魂の状態みたいだからこみ上げるも何も無いのかもしれないが。
周りを見回すとさっきとは打って変わって黒一色の世界だ。
闇でも無い黒一色の世界は、落下を続けている筈の僕から見える範囲には何も動いている物は見られない。
こみ上げる不快感こそ無いが、その認識の違いによっての多少の気持ち悪さは有ったりする。
「(はぁぁ、早く終わらないのかなこれ。……おっ、これは…抜けた?)」
いつまでも続く自由落下にうんざりしていた和樹だったが、何の前触れも無く自分が境界を越えた事を実感した。
例えるならばそれはシャボン玉の膜に石鹸水を塗った指が突き抜ける感触。または水圧の全く無いプールに飛沫一つ立てずに飛び込んだ様な。そんな不思議な感触だったが、それでも和樹には「何かを抜けた」事を確信させていた。
ふと、和樹は、自分に近付いて来る何かの気配を感じた。
感じる先は自分が落ちてゆく方向。
何故そんなものを感じるかと疑問に思いつつそちらに意識を向けると、黒一色の世界の中に徐々に光が満たされていっている光景が目に入ってきた。
しかも、その徐々に近付いてきている光源が、和樹の感じた気配の元らしい。
和樹が注視する中、その光る物体は和樹の目の前まで来ると、光の中に何かの輪郭が浮かび出し、語りかけてきた。
『あなたが相馬和樹ですね?』
「!!…はい、そうですが…。貴方は?」
問いかけられた声を聞き、和樹は驚いた。
光の中に浮かぶ輪郭は、頭部と思われる場所に生えた2本の太い角の様な物。それに加え、背後には鋭角的な大きな翼(?)の様なシルエットまで浮かんでいるのだ。
しかし聞こえてきた声は、そのシルエットからは想像も付かない、聞けば何人にも聖母であると錯覚させる程に自愛に満ちた女性の声だった。
『私の名はアイアリス。聖晶龍アイアリス。貴方がこれから生まれ変わる世界の調和を守る守護神獣の1位「白光」の名を持つ者』
龍と聞いて、和樹の中では何度目か分からない驚愕と、シルエットに対してなるほどという納得が同時に沸いてきた。
と同時に、どうして自分の前に現れたのか疑問に思った和樹だったが、まるでその心を読むかのようにアイアリスは続ける。
『神より貴方を見守る様仰せつかったので、私の加護を与えようと思ったのですが…。既にあの方の祝福を頂いているようですね』
「あの方…?」
「あの方」と言われても、和樹に思い当たる人物は一人しかいなかったが、その人物は自分を只の代行者だと言っていた筈だといぶかしむが、もちろんアイアリスがそれに気付く事は無く、話を続ける。
『貴方に加護を与えられないのなら、代わりに貴方が連れている者に加護を与える事としましょう。見せて頂いても?』
「え、ええ。…どうぞ」
和樹は「どう見るの?」と思いつつもとりあえずの了承を伝えた。
アイアリスが『ふむ…』やら『なるほど』などと呟いているところを見ると、和樹が特に何をするでも無く覗く事が出来ているらしい。
『!?この者は…。なるほど……もし………可能?……』
「大丈夫ですか?何かありました?」
『えっ!?あ、ええ…。なんでも有りませんっ。なかなかいい子達を連れているのですね』
「え…ええ、俺、いや、私の大切な仲間達です…」
雰囲気が変わり、ブツブツと呟きだしたアイアリスに不安を抱き呼び掛ける。
呼び掛けられて漸く正気に戻ったらしいアイアリスの言葉に、多少照れながら答える和樹だった。
『うふふふ…。それではいきますよ』
そう言った直後、アイアリスの体が後光の中でも判るほどに光り出し、徐々に増していく光がもはや直視するのも難しい程の光量となり、思わず和樹は目を瞑るようにイメージすると視覚情報を切る事に成功する。
目を瞑った和樹をさておいて、臨界まで高まった光はアイアリスの正面で凝縮され、和樹の魂へと溶ける様に消えてゆく。
視覚情報を切ってもなお身近に存在を感じていた光が消え去った事を感じた和樹が目を開けると、やはり感じていた通り光は消滅していた。
『問題なく加護を与える事が出来ました。あ、いえ。それは正確じゃありませんでした。本来なら貴方へ加護を与える予定だったのに出来ませんでしたからね。お詫びの意味も込めて、お仲間の一人に加護ではなく祝福を与えておきました』
あの方の加護にも及びませんけどね、と続け、柔らかな微笑みを浮かべているだろう雰囲気が伝わってくる。
「ありがとうございます、アイアリス様。…それで、誰に祝福を?」
『うふふ…それは秘密です。今教えては面白く無いではないですか。心配せずとも直ぐに分かりますからその時を楽しみにしていなさいな』
頭を下げようにも下げる頭のなかった和樹は言葉に精一杯の気持ちを載せてアイアリスに感謝の気持ちを伝え、気になった疑問を投げかけるも、アイアリスにははぐらかされてしまう。
『さて、もう時間が迫っている様ですね。そろそろ転生が近付いていますよ?』
「!?」
言われて初めて気付く和樹。始めは真っ暗だった周囲の様子が、今ではもう真っ白を通り越して輝きを放っている程だったのだ。
『それでは和樹。また今度は現世で貴方に会えることを楽しみにしていますよ……』
「ありがとうございましたアイアリス様!絶対会いに行きますから……っ!」
言葉の途中から既にアイアリスの気配は遠ざかり、和樹の言葉が全てアイアリスへと届いたかは分からない。
しかし、和樹は届いていようが居まいがどうでもよかった。感謝の気持ちが自分にあるのは変わりない事だからだ。
それよりも和樹の心は既に次なる生に向いていた。
前の世界で(ゲームの中の話では有るが)沢山の冒険を苦楽を共にしてきた仲間達と共に、新たな世界へと飛び出してゆくのだ。
眼下に見える、不思議と眩しくない光の方へと近付いてゆくと共に和樹の意識は次第に薄れていった。
そして………
「おんぎゃあああぁぁぁぁぁ~~っ」
「産まれた産まれた、ふぇっふぇっふぇ…。元気な男の子だぁよ!」
「おおユリアっ。よくやった、よくがんばったぞぉっ!」
「うふふ…あなたったらそんなにはしゃいで…。ほら、私の可愛い赤ちゃん。早く見せて……」
和樹は2度目の産声を上げたのだった。
誕生したのは最後の最後でした^^;
多分次位まではネタバレにならない程度に書ける筈です。
気長にお待ちを~