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001 異世界へのお誘い

 先に投稿しています【TamersOnline】の執筆中、このお話の設定が頭の中にムクムクと膨らんで邪魔してくるので、一応プロローグ的な第1話だけ先に書き上げて投稿しました。

 宜しくお願いします。

「おっかしいなぁ…、いつになったら切り替わるんだよ」


 相馬和樹18歳。来る受験戦争に向けて勉学に励んでいたのだが、気分転換にと去年から遊び倒したVRMMORPG【Tamers Online】を起動。しかし、起動後暗転し、即切り替わる筈の視界がいつまで経っても何も映してくれない事に戸惑いを覚えていた。



「なんだ…?バグか?おいおいおい、このまま戻れないとか勘弁してくれよぉ~?って。…へっ?」



 刻一刻と経過する時間と共に、声には焦りの色が濃くなってゆく。


 と、その直後、ようやく見えるようになった周りの風景を目にした和樹は間の抜けた声を漏らし、呆然としていた。


 本来であるなら、前回ログアウトしたマイホームの内装が目の前に広がる筈だった。


 しかし、視界に飛び込んで来たのは見渡す限り白一色の風景。


 いや、床にだけ、幅5メートル程の間隔を空けた黒いラインが縦横に地平線の彼方まで続いているように見える。


 昔見た事のある、V(ヴァーチャル)R(リアリティ)の開発画面の中に似ているかな?と思い掛けない現象に追い付いていないボ~っとした頭で和樹は考えた。



「!なんか本格的にやばくないか?まさか仮想空間の中で漂流したとかっっ!?」


「その考えは当たらずとも遠からずと言った所でしょうかねぇ」


「えっ!?」



 思考が戻ってきた所で最悪な想像が口からポロッと漏れ出ると、それに対して肯定ともとれる声が自身の背後から聞こえてきた事にビクッとしつつも振り返る和樹。


 そこにはタキシードに身を包み、シルクハットを被りその手にはステッキを持った英国紳士然とした長身の男がいた。


 片眼鏡(モノクル)を掛け、カイゼル髭を蓄えた顔には柔和な笑みを浮かべている。


 目じりに目立つ皺から察するに大体40代前半というところだろうか?



「ここは、貴方達にばーちゃるりありてぃと呼ばれている空間の片隅に私の力で作られた一種の独立した世界です」


「えっ?世界??…ええっ!?」



 いきなり現れた男の事もそうだが、その男の口から発せられた言葉の内容を旨く受け止めることが出来ず、和樹は混乱していた。



「そして、君が今ここに居る理由なのですが…申し訳ありません。私のせいなのです」


「!貴方のせいって…、貴方は誰なんですか!そして一体俺に何をっ!?」



 現状の原因が自分であるという男の言葉に、不可解な現象に混乱していた和樹の頭は次第に落ち着きを取り戻し、こうなってしまった原因を男に問いかける。



「ふむ、失念していましたね。私は偉大なる創造神様によりこの星、地球の管理を任されている者です。名前というものは存在しませんががそうですね…。代行者とでも呼んで頂きたい。」


「分かりました…。いや、全然分かってませんけど分かりました。それで、一体なんでこんな事になってるんです!?」



 いきなり神とか言われてもまったく理解できない和樹だったが、とりあえず自身に降りかかった災難を知る事を優先すべく自らを代行者と言う男に改めて問いかけた。



「端的に言ってしまえば私の不手際と言わざるをえません」



 申し訳なさそうに表情を歪め、ヤレヤレといった雰囲気で左右に頭を振った後、代行者は言葉を続けた。



 地球に限らず数多の星々には、創造神のおわす神界より、全てのエネルギーの基となる神力が常時供給されている。


 神界から地球まで神力を供給するパイプの様なエネルギーラインが位相の異なる次元で繋がっており、その神力は重力・引力・斥力・電力・磁力etc...といった様々な力の燃料として使われている。


 万が一神力の供給が止まる事態となれば、全ての力のベクトルが停止し、供給の絶たれたエリアは時が止まったかのように全てが止まってしまうらしい。


 光ですら動きを止め、何者も見通す事の出来ない空間となる。


 当然、生きとし生けるもの全ての生命活動もそれ程の時を置かずして停止してしまう


 そんな事態にならない為に、創造神は自らの代行者を生み出し、常に監視をさせているらしいのだが…



「…地上の様子に気を取られている間に、本来ならエネルギーラインを調整する為のツールであるこのステッキで、誤ってエネルギーラインを遮断してしまったのです」



 その手に持っているステッキを見やすい様に一度目の前に掲げると元の位置に構えて話を続ける。



「遮断後、即修正を掛けましたので、実際には刹那の時を置かずエネルギーの供給は復旧したので、世界はエネルギーが停止した違和感すら抱く事は無かったでしょう。


 が、エネルギー遮断の影響を探るべく地上を見回していた所、消失しかかっている魂の欠片を発見した為、急遽私の領域を作り出し、そこへ避難させたという訳なのです。」


「…え?消失しかかった…魂…て?それじゃあ何?俺って…死ん…だ?」



 和樹は愕然とした。


 それはそうだろう。どこの世界に、「貴方は私のせいで死にました」と言われて「はいそうですか」と納得できる人間がいると言うのだろうか?


 しかし…



「いえいえ、貴方はまだ死んではいませんよ?」



 代行者の発したこの台詞が、茫然自失となっていた和樹の正気を取り戻させた。



「え…、や、だって…今魂が消えかかってたって…」


「魂の欠片(・・)と申し上げました。


 エネルギーラインが途切れた瞬間、貴方の意識はこのばーちゃるりありてぃに移る途中だったのでしょう。


 意識の一部がばーちゃるりありてぃに移行した瞬間にエネルギーが遮断され、それにより意識と共に魂が一部切り取られた…と考えております。」



 まあ状況証拠からの判断ですがね、と代行者は続けた。



「という訳ですので、切り取られた魂の一部である貴方とは別に、魂の殆どを有するもう一人の貴方が存在するのです。


 貴方が抜けた分…10%程不足していた魂は、私の力を分け与える事で修復しておきましたので、今後何の問題も無く過ごす事が出来るでしょう。」


「・・・・・」



 自分は切り離された魂の欠片であり消滅寸前だった。元の体は別の自分(・・・・)が使って生活を続けている。


 あまりにも受け入れ難い衝撃の事実に呆然と思考停止するしかない和樹だった。



「そういう訳でして、貴方のこれからには今二つの道が残されています。


 一つ、このまま消滅する。


 二つ、私の管理している別の世界の星に転生する。


 どうでしょう?私としては、このまま貴方が消滅してしまうのは偲びない。このような状況になったのは私が原因ですからね。もちろん出来る限りの便宜を図らせてもらいます。


 しかし、それを拒否し、消滅の道を選ぶのも貴方次第ですので、意思の確認をさせて頂きます」



 どうでしょう?と首を傾げて和樹に問いかけてくる代行者。



「ちょ、ちょっと待ってくれっ。頭の中を整理したい」


「かまいませんよ。時間はたっぷり有ります。自分が納得の行くまでお考え下さい」



 和樹は一旦混乱する頭をまっさらにして順を追って説明された内容を噛み砕いて行く。


 現実逃避はもうやめた。そうした所で戻れる事はもう無いと認識したからだ。


 今まで育ててくれた両親。自分によく懐いてくれていた妹。そして、コミュ障気味でゲームばかりしていた自分と付き合ってくれた、ゲームで知り合った恋人の黒田千夏。


 いくら同じ自分とは言え、固体としては自分とは別物となってしまった元の自分(別人)が何食わぬ顔をして千夏と付き合って行く。

 

 千夏とはまだキスしかしたことないのに!と憤るが、自分であるのならヘタレてその先へは暫く進まないだろうと、「いい気味だ」と心が軽くなる。が、直後「ヘタレって結局自分の事言ってんじゃん!」と気付き、orz状態になる和樹だった。


 思いがけず自刃してしまった心が幾らか癒され、気になる事を質問してみることにした和樹は代行者と向き合った。



「ちょっと質問だけどいい?」


「かまいませんよ」


「出来る限りの便宜って、どんなことしてくれるんだ?」


「色々能力を強化して差し上げる事も出来ますし、全ての魔法を行使できる存在にする事もできます。武により名を上げられる才能を付加することも出来ます。


 まあ、その辺は大成できるかは本人の努力次第ですがね。


 そうそう、丸々全てとは行きませんが、ゲームの能力を引き継いで転生する事も可能ですよ」


「…まるでラノベみたいだな」


「ええ、日本のあの文化には(わたくし)も、たいへん楽しませて頂いております」



 にこにこ顔でそう行った代行者に対して和樹は「まさかラノベ読みながらうっかりステッキを引っ掛けたんじゃなかろうな?」と考えた。



「さすがにそんな迂闊な事はしませんよ?」


「心読まないでっ!?


 ま…まあ、それはそうとゲームの能力か…」



 未だ見も知らぬチート能力より、既に知っている能力がいい。和樹はそう考えた。



「【TamersOnline】てゲームの能力を持って転生ってできる?」


「ふむ、どんなゲームなのか貴方の頭から直接調べてもよろしいですかな?」


「え、ええ。痛みとか…有りませんよね?」


「心配しなくとも痛みなど全く有りませんよ」



 そう言うと代行者は手に持つステッキを和樹に向け、杖先をトン、と和樹の額に押し当てた。



「ふむふむなるほど…。分かりました。これなら可能なのですが…」



 確認が済んだのか代行者はステッキを下ろしたが、言葉尻の歯切れが悪かった。



「どうしたんですか?何か問題が?」


「いえ、一つ確認ですが、貴方はスライムに転生したいと?」


「そんな訳ないじゃないですかっ!勿論人間でお願いしますっ!!」


「まあ、私としてはスライムでも人間でもどちらでもかまいませんが。分かりました。この能力を持った人間として転生と言う事でいいんですね?」


「それでお願いします!…あーそれと、手持ちのアイテムも持って行ったりって…出来ます?」



 無事人間として転生して貰える事になりホッとした和樹だが、恐る恐ると言った様子で質問を重ねる。



「その星の文明と余りにかけ離れたアイテムは持ち込むことは出来ませんし、持ち込めるとしても全て持ち込める訳では有りません。精々数点と言ったところですねぇ」


「そうですか!持って行けるんならいいですそれでも!あ…でもこのアイテムの効力はしっかり発揮できますかね?」



 そう言って和樹は持って行きたいアイテムの説明を始める。


 説明を聞いた代行者は少しの間思案した後和樹に答えた。



「その設定なら似通った能力が存在する星がございますので問題は無いでしょう。


 ただ…、さすがに全く同じ性能を発揮できるとは保障できませんので、多少変質する可能性も有る事をご了承下さいね?」


「分かりました!良かったぁ~…」


「それでは持って行くアイテムを教えて頂けますかな?」


 そう言って代行者がステッキを空中で振ると、【TamersOnline】のアイテム一覧画面がホログラムで現れた。


 和樹は驚きで一瞬ビクッとするも、直ぐにホログラムの前に移動して代行者へと持って行きたいアイテムを指差し伝える。


 強力なアイテムほど持っていける数に制限が発生し、和樹は代行者との多少のやり取りを行った結果、

持ってゆくアイテムは6個と決まったのだった。



「さて、これで全て決まった訳ですね。そろそろ貴方の魂に先程の情報を刻んだ上で転生を始めたいと思いますが、他に気になる事はございますか?」


「あー…と、そうだ!今現実で生きてる別の俺みたく、今の俺自身も中途半端な魂じゃないのかと思うんだけど、修復してもらえるんだよね?」


「ええ、それは勿論でございます。それに、魂の90%を私の力で占めてしまいますので、貴方の10%の魂に馴染むまで数年掛かるでしょうが、何も問題はございません。」



 心配する和樹を安心させる様に、代行者はニコリと柔和な笑顔を和樹に向ける。



「それではそろそろ宜しいですかな?何も無ければ始めますよ?」


「はい、宜しくお願いします!!」



 そう返事をすると、自分にステッキを向ける代行者の姿を最後に、徐々に目の前が暗転してゆく。


 そして和樹は、自分の意識が薄れてゆくのを感じながら、家族と、そしてこんな自分と付き合ってくれた恋人へと最後の別れの言葉を思い浮かべるのだった。






「さぁて、もう意識は無くなったかな?早速改造改造っと♪」


「貴方は…、また人間の魂で遊んでいるのですか?」


 和樹の意識が落ち、淡い光の塊となった魂へ手に持つステッキを向けたままそう言った代行者には、先程までの紳士然とした表情は見えず、まるで悪戯が成功した悪戯小僧のような顔が浮かんでいた。


 そして、まるで化けの皮が剥がれたという表現がぴったり当て嵌まるかのような代行者と全く同じ姿をした人物が背後から現れる。


 こちらの人物は、先程和樹の相手をしていた人物と全く同じ、紳士然とした雰囲気を漂わせていた。



「え~、いいじゃんか。永劫の時を生きる僕にとってはこんなイベントでも無いと退屈で死んじゃうよっ!」


「まったく貴方という方は…。少しは創造神としての威厳を持った行動を取って頂きたいものですよ」


「え~、めんどいからヤダ」



 後から現れた人物(=代行者)より創造神と呼ばれた者は、いつの間にか純白に輝くが見た目質素な貫頭衣を纏った少年へと姿を変えていた。



「別に、行方不明にしたり無理やり拉致ったりしてる訳じゃないしー。本人の同意を得てるんだからいいじゃんかー」



 エネルギー遮断事態がこの創造神が意図的にやった事であるのに全く悪びれない様子を見てため息をつきつつ代行者は疑問に思っている事を問う。



「ハァ。それで、創造神様?今私が任されているのはこの地球のみですが、どこか別の代行者の管理する星にでも転生させる当てはあるのですか?」


「う~んそうだねぇ…よし」



 創造神は思案顔で虚空を見つめると姿を消した。


 代行者の頭の中に「?」が浮かべる間も無くまた姿を現す創造神。



「ただいまー」


「おかえりなさいませ?どこへ行ってらっしゃったのです?」


「ちょっと星を一つ作りにね~」


「!?」



 創造神のその言葉に目を剥く代行者。そんな代行者の様子を一瞥もせず、和樹の魂を改造しつつ言葉を続ける。



「この和樹君の要望に答えられる丁度いい星が見当たらなかったからね。ちょっと過去に飛んで星を作ってきたよ。現在だとほんの10億年程しか経ってない若い星だけどね。ちょいちょい手を加えてきたから、100%とは言えないけど大体は和樹君の望んだ能力を発揮できる環境が整ってるんじゃないかな♪」


「貴方と言う方は…。たった一人の人間の為だけにそこまでするのですか?」


「まあね。僕の暇つぶしの為だけに別世界に飛ばしちゃうようなもんだし、その位の面倒位は喜んで見るよ?」



 暇つぶしの為と言う所に釈然としない所があるものの、人に例えればプランクトン以下でしかない存在レベルの人に心を折っている創造神に対し僅かに感動を覚える代行者であったが、続く



「まあ、その方が楽しそうだしねー♪」



との言葉に、代行者の中の創造神に対する評価が僅かに上がった直後、直滑降で下落するのであった。



「…よっし、こんなもんかなー?後は送り出す世界の守護者に見守って貰える様に言い含めてあるから滅多な事にはならないでしょ」


「ようやくですか。案外時間のかかるものなのですな」


「まあね。今まで持ってなかった異質な能力を魂に刻む訳だし、慎重に進めないと和樹君の自我を崩壊させちゃうからね。それだと面白くないし」



 創造神が繰返す自己中発言に反応するのも疲れたのか、代行者はもはや眉一つ動かさなかった。



「さあ和樹君!新たな世界で第2の人生を謳歌してくれたまえ!そして僕を楽しませておくれよっ!」



 創造神はその手に持ったタクト(いつの間にかステッキと持ち替えていた)を振り上げると、和樹の魂は一際大きく輝きを発すると次の瞬間にはその場から消え失せていた。


 その場に残るは代行者と創造神のみ。


 ようやく終わったかとため息をつく代行者に、創造神は振り返り爆弾発言を投下した。



「そうそう、今回作ったこの星の管理は君に任ずる。地球の管理と兼任して頑張りたまえ」


「なっ!?私にはまだ星一つで精一杯で…!あぁ、行ってしまった……」



 熟練した代行者は複数の星の管理をやってのけるが、地球の管理を任されて未だ5千万年の若き代行者はこの先の過密業務を思い浮かべると「orz」ポーズを取らざるを得ないのであった。

 



 こうして創造神によって魂を改造された和樹は、僅かな不安と大きな期待を胸に新たな地へと旅立って行ったのであった。

 この小説は、先に投稿されている【TamersOnline】のネタバレが多分に含まれている為、そちらの投稿が終了し次第再開しますので、次回以降のお話はいつ投稿されるか分かりません。

 最悪年単位先になるかも…

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