4-ネムケガ-
今回は個人的息抜き。
きっとこの先家族は出てこない←
気づくと、ちょうど学校では昼のチャイム・午前部活・終了のチャイムが鳴った。自由学習室(颯希はここで、一人勉強しているという口実で学校に来ていた)も昼時になるとお弁当持参の生徒以外追い出される。生徒がまだ一人も出てきていないことを確認としてそそくさと家路を急ぐ。
ジャージが亜妃を止めるときに少し汚れたままで、靴にも泥がついている。さっき見てきた世界は現実のものだと物語っていた。
***
颯希が家に着くと、誰もいなかった。母は朝から仕事だと言っていたが弟がいないのは気がかりだった。どうせ遊びに行っているのだろうがとりあえず、今誰もいないことに感謝だ。
お風呂場に行き、シャワーを浴びる。
湯気で曇る中、颯希は自分の背中に見覚えのない傷があることに気が付いた。縦横二本の線がセットのようで合計四本の線がクロスしている。ちょうど真ん中に大きな四角ができるような傷だ。左側の背中の下の方についていて、大きさは五センチほど。ヴィパルに行ったときついてしまった傷なのかと思うが、まるで今までずっとそこにあったような傷だった。
シャワーを浴び終えた颯希はジャージの洗濯にかかった。しばらくして、終わりの合図が聞こえると、颯希はそのジャージを自分の部屋に干した。一応、勝手に拝借したとしてもこのジャージは母が昔颯希にあげると言いながらずっと母のクローゼットの中に眠っていたジャージだ。どうせ、勝手に颯希のクローゼットに移しても、気づく可能性はかなり低い。
台所で何か作ろうと思ったが昼ごはんであるだろうおにぎりが用意されていた。それを二階にある部屋へ持っていき、颯希は今日聞いたことをノートにまとめることにした。
『七月二十日 (土) 晴れ』
新しく出したノートに日付を書き、今日あったことを書いて行く。
『朝方、昨日と同じところに出た。しばらく歩いて行くと亜妃と言う赤毛の女と数人の男たちが子供を誘拐(?) していた。男の一人はわたしのところにも来てわたしを誘拐しようとしたのを亜妃が助けてくれた。
亜妃について行き、地球の裏側の世界・ヴィパルについて少し知った。
《ヴィパル》
・時間軸は地球と同じ。でも、昨日行ったときはなぜか真っ暗。
・温かさも同じぐらいだから、多分、季節も同じ。でも結構爽やか。
・場所によって異なるかも知れないが、神木を通じて行ったところわたしが住む東京と同じ天気。
・わたしは、来てはいけない』
そこまで書き、最後の文書から線を引っ張り付け足した。
『なぜ?』
また、亜妃についても書いてみようと思い、文章を起こす。意外と、書いてみることで新たな疑問が生じたりするのだ。
『《亜妃》
・赤毛で緑の目
・ハーフ
・なぜか行動するときはみすぼらしい薄茶色のコート
・手首には金色で変な文字と亜妃と同じ目の色をした石
・誘拐の現場にいた
・わたしを助けた
・昨日、亜妃はわたしを助けたのか?』
こうやって見ると、結構謎だらけだ。なので、今度は浮き上がった疑問を書いていく。
『《疑問》
・地球と同じ時間軸だというのになぜか、昨日は真っ暗だった。(ヴィパル)
・わたしはなぜ来てはいけない?
・なぜ誘拐の現場にいた?(亜妃)
・なぜ、わたしを助けた?(亜妃)』
のびをしてベッドに頭から倒れこんだ。
いくら学力があっても、ヒントがなければ解くことはできない。ノートを机の上に置き、颯希はそのままそのまま眠りに落ちた。
***
目を覚ますと夜になっていた。昼ごはんのおにぎりを食べていないことに気が付いて急いで食べようとするが乾燥してカチカチになっていたのでやめた。せめてラップでもつけていればよかったと少し後悔をする。
ぐぅーとお腹の音が鳴り、時計を見る。六時五分ぐらいを示していた。もう、誰かしら帰っているだろうと思いドアの方を向く。
「おーい」
ドアには弟が立っていた。半身をドアに預けているような格好だ。
「ユウ、帰ってんなら起こしてよ」
「ああ、ごめん。でもお姉ちゃん、ぐっすり眠って起きなかったし」
溜息をついて、机の上に置いたノートを仕舞い、のそのそと歩く。
弟は、名を雄介と言い四歳違いの五年生である。年の割に少し大きめで颯希より四センチメートル程度小さいだけだ。雄介は自由気ままな猫のような存在で、くっついてきたり、甘えてきたり、と思えばふらりとどこかへ行ってしまったりする。どうやら今日は、くっついてきたいらしい。
「お姉ちゃん、行くよ。ちゃんと起きてよ。寝てるなんて珍しいよね!」
なんかテンションが高い弟に気圧され、おーと気のない返事をする。
「お姉ちゃん! ごはんだよ! おにぎりもって下に行って」
そして、くっついてくる時はなぜかお母さんみたいになる。まあ、これはこれで使い勝手がいいから気に入っているのだが。
「じゃあ、ユウ君が持ってってよ」
さらに、この時はユウ君、何て呼んであげると物凄く喜ぶ。
何とも単純だ。
「いいよ~、お姉ちゃんはゆっくり後で降りてきてね」
語尾にハートマークがつきそうな勢いだ。ちょっと呆れて、でも疲れていた颯希はそれにつっこむこともなく、ゆっくりと下に降りた。
***
晩御飯を食べ終わった後、雄介は異様に颯希にすり寄ってきた。颯希より小さければ良いがそれほど変わらないし、男に甘えられても嬉しくないという本音は隠せない。
「ユウ。勉強しろ。運動しかできないんだから」
「俺はお姉ちゃんみたいに何でもできるわけじゃないの~。空手なんかより、サッカーとか野球とかできる方がかっこいいって。あ、でも、お姉ちゃんが教えてくれるならやってもいいよ~。学校の先生より、よっぽどわかりやすいし簡単」
上を向いて息を吐く。
「そりゃどうも」
そう言って、雄介の絡み付いてきた手からすり抜け二階に上がった。
「一人で勉強しろ~」
そう面倒くさそうに言い放った。
***
昼の続きをしようと思って部屋に戻ってきたのだが、眠たい。昼寝として三、四時間は眠っていたような気がするのだがそれでもなお眠たい。これは、あれか、ヴィパルに行っていたから眠たいのかと思い、眠気に負けてベッドに倒れる。もうシャワーを浴びているのだし、今日の風呂は入らなくていいかなぁとうっすらと考える。
少し目を瞑ると、途端に眠った。まるで催眠がかかっているかのような眠りっぷりだった。
颯希が次に目を覚ましたのは夜の十一時だった。七時過ぎぐらいから眠っているからかれこれ四時間ぐらいは眠っている計算になった。
こちらとヴィパルの時間軸は同じだというし、今から学校に行っても学校は開いてないだろうし。ヴィパルに行くのは明日にしようと決めた。明日は、今日思った疑問をぶつけと図書館に行くぞ、と思い颯希は又眠りに落ちた。
ヴィパルに行けばこれほどの眠気に襲われるのか、と疑問が一つ増えた。