表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/55

49-ナミダ-

 リナは連絡を終えたあとドゥッチオに言った。


「いいか、あいつらを絶対に無事に届けろよ」

「……わかってるよ」


 少ししつこいリナにドゥッチオは呆れたように言う。


「絶対だぞ。亜妃様は、特に」


 最後そう言ったリナの顔がドゥッチオには本当はついて行きたいんじゃないかと見えた。それでもコイツは、断るんだろうな。なんかくだらない理由を並べて。そう思って口をつぐむ。


「わかっているよ、これは何より俺のためでもあるんだからな」


 本心はこちらだ。この国から逃れたい、そのためには手段を選ばない。絶対に、と城にある図書館で本を読んだときから心に決めていた。こんなチャンスはまたとない。絶対にモノにしてやると思っている。


 例えそれが、繰り返される未来だとしても。


***


 イヤホンでの会話を終えた四人は王に向き直る。決してシモーナを見ないように向きを変え、シモーナは亮に見張ってもらう。


「王様、ジェラルドに命令してもらえますか?」


 彩里が言った。王は目を細め、何も言わない。無言で何かを伝える手段はないのだろうか。王にもイヤホンがあれば便利なのだが。そんなことを考えていると、滉がいきなり、前髪をかきあげ王と額を合わせる。

 滉の能力は、相手の気持ちや考えを読む能力。シモーナの心を読む能力と似ているが決定的に違うのが能力者の気持ちや考えも頭に流れ込んでくること。颯希の時はあまり流れ込んでこなかったが確実に滉が能力者だとわかるものだったはずだ。


「とうですか王様、協力する気は?」


 額を離してから滉が言った。

 先ほどの会話をもろもろ全部送り込んだのだろうか。たかがここにいる六名を地球に送るだけのこと。王のすることといえば、ジェラルドに能力を使えと一言言うだけのこと。


「協力してください、お願いします」


 颯希が真っ直ぐに見つめる。コンタクトは外しているので青と黒が混ざった色だ。その色を見て、王は目をそらした。


「お主の祖母は、アンナ・フェシュネールなのじゃろう?」


 突然、そう言われた。アンナ・フェシュネールというのは祖母の名ではないが本で見た写真は同一人物と言えるほどそっくりだった。


「はい。……多分。わたしの祖母は、わたしたちの家族の前でアンナ・コルセッリと名乗っていました」


 そう言った瞬間、周りのものが驚いたように颯希を見た。颯希はその様子に首をかしげたがイヤホンから流れてくる滉の声でそれは解決した。


『現王の名は、ランダル・コルッセリだ』


 それに関しては、颯希も少なからず驚いた。


「……本当に、そう名乗っていたの?」


 シモーナに問いかけられた。視線を合わせないように頷く。

 それを見た王は、安心したような優しい顔つきに変わった。目が太陽によってうるうると輝く。涙だ。


「そうか」


 一度そう言ってから、王は何度もそうかを繰り返した。


 しばらくたったあと、王は目に溜まった涙を吹きながら言った。


「ジェラルドに命令すればよいのだな」


 四人は頷いた。シモーナははっと悟ったように颯希たちを見る。


「わかった、協力しよう」


 よしっ!


 それぞれ、こんな言葉が口から漏れ思わずガッツポーズ。急いでリナに連絡だ。


『リナっ!』


 四人の声が重なる。


『どうだった?』


 すぐに状況を理解したのか、リナは四人にとって言ってほしい質問だった。


『わかった、って』


 颯希と滉が言って。


『協力してくれる』


 彩里と亮が言った。


 それを聞いて直ぐにリナは答えた。


『よし、作戦決行だ。今から、ドゥッチオに能力を使ってもらう、タイミングを言え』

『亜妃に言わなくていいの?』

『今から伝えに行く、それまでに言いたいこととかあったら済ましておけ』


 リョーカイ


 滉が言って連絡は切れた。後ろを向くとリナが亜妃のところにいて移動するの早いな、と颯希は思う。


「王様、ありがとうございます。わたしたちは、帰ります」

「ああ。いや、こちらこそありがとう。ずっと気になっていたのだ、アンナのことは」


 アンナがどういう経緯で地球に行ったのは未だ謎だ。だが、結果無事だったのだからと思っているのか、王は追求してこない。


「王様、なぜ祖母は地球に来たのでしょうか?」


 然し颯希はあえてそれを聞いた。答えが返ってくる確証はないが、王家の印を持つ自分が生まれたのは祖母が地球に来てしまったからだ。来た理由を知りたいと思うのは必然だろう。


「……わからない。その時はまだジェラルドもいなかった」


 じゃあ、自然に出来てしまった歪みや裂け目、というわけか。祖母はジェラルドのような能力者によってのものではないのだろう。そう思ってから、答えた。


「そうですか、ありがとうございました」


 軽く頭を下げてから、シモーナに向き直る。


「何?」


 少し身構えた様子で颯希を見ていた。

 颯希の後ろでは彩里達三人が肩を抱き合っている。


「感謝する。少なくとも、わたしがエルシリアと戦っていた時助けてくれたことはね。あとは褒めるに値しない行いばっかだったけど、今生きているのはあなたが助けてくれたってこともあるしね。一応ありがと」


 言いながら言葉が迷子になった。シモーナがしたことは大きな裏切り。王になりたいという、望んではいけないものだ。しかし、颯希達は消える。この六年間の記憶も、全部だ。


「べ、別に、その、あんたを助けたのは出来心っていうか」


 視線を逸らしシモーナが言う。


「でも、王を助けてくれたのは本当にありがとう」


 そう言って笑うシモーナはどこか輝く。王になりたい、一人になりたくない。どんな環境で育ったのか知らないがそれはきっと、苦しいものだったのだろうと颯希は推測する。


「ん、じゃあ」


 そういって、三人の中に入っていった。亜妃を見ると事情を聞いたのかジェラルドと話をしている。


「彩里、亮、滉」


 名前を呼ぶ。三人はこちらを振り向いた。


「颯希、ありがとう」


 彩里に言われる。


「本当に、ありがとう。お前が来てから変わったな、全部」


 亮が言う。


「地球に戻ったら、母さんがいないからとかそんな理由で戻りたくなかったけど、時を戻してくれるんだもんな。大丈夫だよな、きっと」


 滉は不安そうに颯希を見た。たったの数日、この世界に関わったことでこの世界が大きく変わった。今までひっそりと暮らしてきたこの三人が、颯希に出会うことで行動を始めた。颯希を見つけることで王族さえも巻き込んだ大ごとになった。それは、誰も知らなかった奇跡だ。少なくとも、この三人にとっては。


「彩里、亮、ありがとう。わたしをきちんと支えてくれて。滉、ありがと、助けてくれて」


 関わりが少なかった。この地にいる誰よりも、ヴィパルのことを知らない。でも、この数日は実に濃厚だった。今まで生きてきたどんな人生よりも、どんな勉強よりも、何よりも濃く、重い。この数日、颯希は一番輝けた。


 ぶわっと彩里が泣き出した。ギョッとした颯希たちは急いで彩里に近寄った。


「時を戻したら、ここでの記憶がなくなっちゃうって、すっごく寂しいな、て。わたしにとって、この六年間はじめの方はただの苦痛だったけど、途中から素敵な時間に、変わっていった」


 彩里の背中をさすりながら、亮が何度も頷く。


「亮、あなたに出会えてよかった、あなたがいてくれてよかった、記憶がなくなっても、この気持ちは忘れたくない。どこかで会いましょう」


 彩里は亮の顔を両手で包んだ。亮はその手を握り


「ああ、絶対」


 そう言った。


「滉、辛いことばっかりで、いつもわたしたちにあわせて行動させてごめんね。今回だって、別にあなたが地球に戻りたかったわけではないのに、ごめんね」


 彩里は涙を拭きながら滉に謝った。滉も半ば、泣きそうである。颯希はギュッと拳を握った。


「でも、やっぱり、あっという間の二年間が楽しかったのは滉が、いてくれたおかげで、だからわたしは、あなたのことが大好きよ」


 滉は何度も頷いていた。目にたっぷりと涙が溜まってる。


「俺、俺も……! 彩里さんと、亮ちゃんがいてくれたおかげで母さんを失った二年間、楽しく過ごせた。母さんにそっくりな彩里さんにはじめ、付いていこうって思っただけで、こんなに長く、居座るつもりはなかった。……でも、居心地よくて、すっごく楽しくて、なんかもう、二人がいなきゃ、生きていけないなって思っちゃうくらい、俺は二人のことが大好きで、それで」


 所詮、中学二年生。父親は地球なのか知らない土地で知らない人に優しく迎え入れられたら泣いてしまうほど嬉しいだろう。ゆっくりと瞼を閉じる。この三人の絆の強さが目にしみる。


「何かもう、俺、この二年間の記憶がなくなっちゃうの、すっごく悲しいなって思ってて、でも戻れたらみんな、幸せになれるなら、ちゃんとこの気持ちだけ覚えてて、いたいなって」


 彩里の目から涙が溢れた。それからしばらく、もらい泣きもあり颯希も含め全員泣いた。


最終回まであと2日!

あ、今週で終わりますね^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ