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48-サクセン-

 亜妃はジェラルドを見た。そして、ジェラルドの後ろにいるリナとそれと対立しているだろう、ドゥッチオに視線を移す。戦う様子を見せない二人は、何か和解したのだろうか。自分も、ジェラルドと和解できたら。そんな考えがちらりと頭をよぎる。できない。無理な相談だ。ジェラルドと亜妃は根本的に違っている。


「ジェラルド、王に命令されたらその能力使ってくれるんだよね」


 一応、言ってみる。王の命令で、すべてが決まる。


「そうだな。王は絶対だ」


 思わず、目を伏せた。

 ジェラルドは亜妃と会話をしながらも常に視線は王に向いていた。少し悲しくなる自分がいて驚く。


「絶対、地球に戻るから」


 小さく呟く。それは、この3年間想い続けてきた決意だ。揺るぐことのなかった、気持ちだ。ジェラルドは聞こえなかったみたいで相変わらず王を見ていた。


***


「王様、わたし達地球に帰りたいんです」


 唐突に颯希が言う。颯希以外の全員がキョトンとした顔をした。


「……あ、ごめん。今リナからそう言われて」


 言いながら耳を叩く。シモーナから読まれないように後ろを向いた。彩里と滉は理解したように声を出し、二人もリナと颯希のイヤホンの会話に入っていった。


『忘れてた』

『ていうかリナ、連絡するなら全員に回しなさい』


 滉と彩里が言う。


『すまん。だが聞いてくれ。……これは亮にも回っているはずだが聞こえているか?』


 リナが亮に問いかけるよう言う。颯希はちらりと亜妃たちの後ろにいるリナに視線を飛ばした。フードで顔が隠れている。


『え、これ亮にもつながってるの?』


 一番に反応したのは彩里だ。


『……ああ』

『マジ! 亮ちゃん、無事? 俺は無事着いてんだけどさ、てか今どこ? ちゃんと来てんの? すぐ近くだけど思うんだけど』


 滉の目がはしゃぐ。だがそれも、途中で流れてきた低い声に遮られる。


「うるさい」


 これはイヤホンではなく実際の音だ。はっと顔を上げ後ろを振り向くと亮がいる。男を引きずってきていて滉と違い応急処置を施していないので血の筋が後ろにあった。


「亮!」


 颯希が叫んだあと、二人がかけだした。


「やっと来た、早くこっち来て」

「ああ、……その前にこいつの手当をだな」

「あ、もうやったから」


 わいのわいのと少し颯希たちとはなれあところで盛り上がる。なんとなく、疎外感を感じた。


「敵はこっちに縛ってね」


 手を口に当て叫ぶ。その時シモーナと視線を合わせ心を読ませた。


(これで人質は四人よ。あなたには関係ないのかもしれないけどね)


 そう思って、だ。それから視線をずらしたがシモーナに怪訝な顔をされた。


『亮、そっちに合流したのか?』


 イヤホンからリナの声が流れる。三人には聞こえていないのか、まだ少しはしゃいでいる。


『そう』


 イヤホンで返すとリナが亮たちに何か言ったようで敵の男とエルシリアたちと同じように縛った。同じイヤホンを使っているのに、流している本人の意向しだいで聞こえる、聞こえないが操作できるのはすごいな、と改めて感じた。


『これから話すことに従ってもらいたい。いいか?』


 前置きをしてリナが言う。シモーナを見張っていたいが見たら心が読まれる。ということで、颯希は考えた。


『亮』


 イヤホンで問いかける。ほかの二人には聞こえていないようだ。さらに亮は優秀なことで問いかけられても表情にそれを出さなかった。その計らいに感謝しつつ、颯希は考えを告げた。


『千里眼使ってずっとシモーナを見張るってこと、できたりする?』


 亮はすぐに答えた。


『ああ。逃げ出したりしたら困るもんな』

『ありがと』


 よし。そう思い、シモーナに背を向ける。リナが言うのは地球に戻るための算段かなにかだろう。今まではシモーナを追い詰めていただけだ。戦いは終わる。作戦をできる限り実行しようと密かに決意する。


『まず、第一段階としてジェラルドに能力を使わせなければならない。亜妃様と連絡を取る手段はないが、ずっとジェラルドと対峙してくれるおかげで、ジェラルドの姿を見失わなくて済んでいる』


 それから数秒の間。


『ジェラルドは王に洗脳されている。つまり、王に命令してもらう必要がある。……できるか?』


 少しの沈黙。それから、彩里が言った。


『多分出来ると思うわ。説明をすれば、してくれると思う。できなかったら、うん、まあ、颯希の力に頼ってみるとか?』


 その作戦にいち早く反応したのは颯希だ。根拠のないことを言われても困る。


『ストップ、ストップ! わたし、能力が使えるかなんてわかんないんだけど!?』

『大丈夫、使えなかったら力づくで』

『滉、お前はすぐにそういう考えに走るのをやめろ』

『俺、結構鋭いとこ付けるじゃん、結構鋭く場を見ることができるじゃん』


 亮に言われ、滉は変に拗ねた。完全に亮に甘えている。小五の頃からヴィパルにいて肉親がいない滉は亮と彩里が家族なのだろう。そう考えると少し胸が痛い。


『滉、黙りなさい』


 二人が一応イヤホンでなんやかんやと言い合っているのを彩里の声で収めた。もう慣れているのだろうか。


『ごめん』


 そう一言言って場は静まった。なぜ二人の言い合いが颯希や彩里にダダ漏れだったのは聞かなかったことにする。


『もういいか?』


 どうやらリナにも聞かれていたようだ。


『ああ、続けてくれ』


 少し大人気無かったことを自負しているのか亮が言う。


『じゃあ、彩里頼んだ。……次に、裂け目が現れ、貴様ら全員が地球に戻れたらドゥッチオが即座にヴィパルの時を戻してくれるといった。ここに居る一番の古株は誰だ?』

『わたしと亮、かしら』


 確か王都に行く道のりで聞いた話で、六年前と言っていただろうか。


『どのぐらい戻すべきだ?』

『六年だ』


 亮が言う。そういえば亮は、ここに来たばかりの頃に(確証はないがきっとそうだ)友人を誤って殺してしまっている。それを思い出しているのか亮の顔は少し険しい。


『わかった。貴様らが全員が地球に戻ったらドゥッチオという時を戻す能力者も地球に行き、そして地球の時も戻してくれる』

『リナ、そいつのこと信用していいの?』


 彩里が言う。そりゃそうだ。ちらりとリナに視線を飛ばす。何を話しているのか知らないがこちらとしては信用する要素が少ない。


『保証はできない。だが、かけてみる価値はある。……ヴィパルの記憶が無く、ヴィパルに来る前の状態に戻るには、これしか方法はないと私は思っている』


 リナの言葉を聞いて、全員黙った。信じられないのだ。だがそれしか方法がないのというのなら。


『わかった。とりあえず、信じてみるけど』


 彩里が続けた。そしてそのまま、滉が引きつぐ。


『もし、そいつが俺たちに襲った時には即座に殺す。いいな?』


 しばらく沈黙が流れた。そしてリナが答える。


『もちろんだ。私は地球にはいかないから戦い方はそちらに任せる』


 滉はたまにというより考え方が物騒だ。よく、殴る、殺すなどの言葉を言う。ヴィパルに来てしまったことで母親をなくしているのだから、そういう考えは浮かばないだろうと颯希は思っていた。滉は予想に反していたのだが。


『ドゥッチオが約束通り時を戻したら、お前たちは晴れて六年前の地球人だ。……時を戻したとき、戻された対象は全員、意識を失う。目が覚めたとき、知らないところにいる可能性が高い。みんなまとめて同じところから返すからな。ドゥッチオは時を止めることもできる。その力を使って自分の家の近いところまで送ってもらえ』


 最後に付け加えたのは注意事項、といったところか。


「ドゥッチオってやつに住所を教えるのもなんか尺だな」


 滉が言った。でも、と続ける。


「戻るためなら手段をいとわない」



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