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47-シモーナ-

 ジェラルドの意識が王に注がれていた。それもそうだ。恩人、心の中心であるその人物が命をとどめたというのならば少なからず注目する。


「王の命令なら絶対に聞く」


 ジェラルドの言葉を口の中で繰り返す。


「あ?」


 一瞬、亜妃に意識が戻った。その瞬間、亜妃がジェラルドに向かって走り出す。虚を突かれたジェラルドは一瞬ぎょっとする顔をするがすぐに移動した。まずはじめにジェラルドは右に避ける。そう思い、ナイフをしっかりと握る。亜妃の予想通りジェラルドは右に動いた。左利きの亜妃はナイフを持ち替え、右手でナイフを振るう。ジェラルドの服を一枚切った。


「な、にすんだてめぇ!」


 外したか。動いた瞬間に鳩尾が痛んだ。しかし、我慢できる。ナイフを持ち替え、構える。


「一応まだ、戦っているんで」

「……そうだったな」


 そしてにやりと笑う。


「反乱分子のお前を」

「それは違うと、王が言ったら」


 亜妃にそう言われ、ジェラルドは一瞬、訝しげな視線を飛ばす。


「…………そう、なのか?」

「もしもの話よ」

「……そうだったら、従うな。王は絶対だ」


 決して揺るぐことのない忠誠心。きっと、この力を一番初めに持った者はこれが欲しかったのだろう。目の前の、まるで洗脳されたような者を見るとたしかにそう思う。


「王が世界の中心なんだよね」


 確認するようにつぶやいた。その声がジェラルドには届かない。


 心の中で、一番初めに感じたジェラルドへの好意がモヤモヤとした迷いへと変わっている事を感じている。殺しはしない、逃げるための足止め。ただのそのためだと思っていたのに、なにか、つらい。


「ジェラルド、あなたが王以外を信じないのなら、昔のあたしはあなたに従ったのだろう」


 ナイフを左に持ち替え、構える亜妃はそう言った。ジェラルドは不思議そうな目をして、そして笑った。


「だろうな」


 昔のお前、俺にゾッコン。


 そう言われ、唇をかんだ。何も知らない世界で、恐怖だけではない感情を抱いた。否定はできない。


「でしょうね」


 少し笑って、足に力を込める。颯希達は何かをしている。足止めでも時間稼ぎでもいい。なんでもいいから、とにかくこいつをここから、動かせない。このまま話していると何か、辛くなりそうだ。


「でもまだ戦いは終わらない」


 あたしがあなたの目の前に立っていられるのなら、ずっと。


***


 ザッっと音がする。彩里は驚いて振り返ると滉がいた。ぐるりと囲うような森を伝って、こちらに来たのだろう。颯希と同じ登場の仕方だ。


「滉、お疲れ」

「彩里さん、コイツのケガ治しといて」


 引きずってきて疲れたのか、体格の良い男を放り投げ、その場に座る。その時、彩里の手にナイフが握られているのを見て、そっと颯希の後ろに移動した。


「驚いた、銃声が聞こえたけどあれって滉だったの?」


 振り向かずに颯希が言う。目の前のシモーナを凝視していた。


「そうだ。それにもうすぐ亮ちゃんも来る。きっと、あの女の後ろからだ」


 今にも殴りかかりそうな颯希を横目で捉えてから、滉は白髪の女を見る。シモーナ、といっただろうか。何が起ころうとしている?


「颯希」

「滉、黙ってて」


 そう言われ、口をつぐむ。シモーナと颯希は睨み合っている。颯希の手が時々ぴくっと動いた。何かを考えている。たったの数日で滉が見つけた颯希の癖だ。その手を盗み見て、彩里の方に視線をやる。傷を直されたダニーロだが睡眠弾によって未だ眠っている。


 目を瞑り息を吸う。颯希の呼吸に耳を傾けた。


***


「場所を変えるか」


 リナが言った。


「なぜだ?」

「亜妃様とジェラルドの戦いの邪魔だ」

「ジェラルド様、だろ?」

「私はあいつに従ってはいない」


 つんとした発言に軽く肩をすくめつつ、ドゥッチオはリナに従った。特に逆らう理由もない。


「でも俺たちはもう戦わないだろう?」

「そうだな」

「……マジか。俺の信用は得られたと考えていいんだな?」

「黙れ。貴様なぞ信用する価値もない。--ただ、かけてみようと思ったんだ、お前のその力に」


 亜妃とジェラルドの真後ろに回ったリナはドゥッチオのほうに振り向いた。


「まず貴様はヴィパルの時間を戻せ。……亜妃様たちとジェラルドと私以外の時間を、だ」

「……ジェラルドは力を使わせるためだとして、何故お前の時も戻さなくていいんだ?」


 リナはドゥッチオの顔を見る。それから少し深めにフードをかぶった。


「私の中にいる亜妃様は、消したくないのだ」


 顔を隠して、リナは言う。

 昔、飢えや精神的に高度なストレスを感じて死にかけていたリナの命をすくい、生きる意義を与えたのは亜妃だ。リナが生きているのは、亜妃が生きて、リナと共にいて、リナに笑いかけるから。リナの全ては亜妃のためにある。


「亜妃に出会う前の状態に戻りたくない、ってことか」


 ドゥッチオにそう言われ、リナは頷いた。


「わかった……ヴィパル(ここ)の時を戻してまっさらな状態にしてからジェラルドによってできた空間の裂け目に、放り投げるか」

「そうだな。どういうものかはわからんだが。貴様も逃げ出したいのだろ? ここから」


 ドゥッチオは頷く。


「ああ、だからあいつが裂け目に行ったあと、俺も行く。きっと、記憶を失った奴らはみんな倒れるから、立ってあいつらを見送れるのはお前だけだ。……その時が最後だ。亜妃と会話を交わせるのはな」


 思っていたことを言われ、思わずリナは顔をしかめる。


「わかっている。せいぜい、後悔のないように、亜妃様が幸せになっていれるように祈る」


***


「シモーナ、あなたはわからないわ」


 颯希が言った。後ろにいる滉の息遣いを感じながら、息を吐く。


「滉、彩里。私たちには今三人の人質がいることにしよう」


 そう言って、颯希は顎で敵の二人、指で王をさした。後ろを向く。


「その男とエルシリアを紐で……てないか。エルシリアを洞取り巻いてる蔦で縛っといてくれる?」


 二人が頷いたのを確認したあと、颯希はシモーナに向き直った。


「王は助けて欲しい、そのためにあなたは仲間を裏切った。王は大切に思っているあなたの発言はどこまで本当なのか? 大切に思っているといっているあなたは、王の洗脳が解け、この国から逃げだしたいと思っている奴を放っておいた。しかも、王への反乱を考えていた亜妃さえも放置」


 颯希の指示で彩里によって起こされた王は二人の会話を聞いていた。


「あなたは本当に、王のことを大切に思っているの?」


 シモーナが勢いよく立ち上がった。そのままの勢いで颯希の胸ぐらをつかみ、持ち上げた。


「黙っててくれる」


 気分を害されたのか、シモーナの顔には不機嫌さが顕になっていた。言いながら颯希を無造作に離す。


「颯希!」

「大丈夫か?」


 二人を縛り終えた彩里、滉に声をかけられた。


「大丈夫。ああいう子ほど、不安定なものはないってことね」


 少し広角を上げて、颯希が言った。から見ると少し不気味だ。


「わたしに能力があるとして、それならわたしは確実にこの国の王になれる。……シモーナあなた何になりたいの?」


 颯希たちに背を向けたシモーナの肩がびくっと動く。


「王?」


 立て続けに言う。シモーナは頭を下げ、返事をしない。図星か。少し颯希は笑った。王がシモーナを見ている。


「なるほど。現王直系の孫。さらに七人才の一員で能力は心を読む……今の王に新たにすり込んでもらえれば今度は王家の印も王家につける力も何もかも操れちゃうわけ」


 シモーナが振り向いた。少し笑っている。


「よくわかったわね」


 王の鋭く、厳しい視線にも臆せず、飄々と済ましていられるのには少し驚いた。


「別に私は、この国の王になりたいと思ったわけではないのよ。ただ、私の能力を全員が恐れればいいと思ったの。……心を読むなんて自分の考えが相手に丸分かりなんてどれだけ気色の悪い能力なことか」


 自嘲気味に言う。まるで溜まっていた鬱憤を吐き出してるようにシモーナの顔はどんどん清々しくなっていった。


「気持ち悪くない? 知りたくもない心を、目を合わせるだけで読めてしもうのよ?……おかげで私はみんなからの嫌われ者。七人才の立場がなかったらどうなってるのかなぁーて考えて、それで怖くなったのよ」


 そういい、笑った。嬉しそうな、気持ちの良い笑顔だ。颯希は思わず目を細めた。だがシモーナの笑顔は一瞬で消えた。


「だからわたしは一人にならないように権力を欲したのよ」


 その時吹いた風が、あまりに冷たく心まで凍りつきそうだった。シモーナの顔は、少し寂しげに見えたのだ。


あと3日! (今日を含まない)

きちんとカウントダウン通りに完結できるだろうか…。

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