45-コノクニ-
あ~題名が……
ドゥッチオは少し驚いたようにリナを見た。それが、質問に対するものなのか、それともその質問の内容に対するものなのかはわからない。
「俺は一度、この国から逃げ出そうと思ったことがある。だが、この国の郊外に逃げたところで見つかるのは時間の問題だと思ったんだ。そこで、この世界の地図を開いた。見たことあるか? ヴィパル以外の国は載っていないんだ」
覚えはなかった。ヴィパルの地図は見たことがあったが、世界の地図を見てみようとは微塵も思わなかった。頭がズキンと痛くなる。リナ自身、洗脳されているのだというのを思い知らされた。今、洗脳が溶け始めているとしたら洗脳が溶けると頭痛がするのだろうか。
「この世界には、ヴィパルしか国が存在しないのか?」
リナの問いにドゥッチオは頷いた。
「多分な。俺たちは、逃れられない」
***
森の中に入った二人は二手に別れ、彩里のもとへ向かった。森の中で撒けるとは思っていないが、障害物を利用して攻撃することは可能だ。
森に入ったとき亮と滉はそれぞれ持つ武器を均等に分けた。滉が持っていた催眠団と彩里が銃を奪う時にそのまま入っていた実弾をそれぞれ二つずつ、もうナイフは残っていないが、颯希が使っていたのか落ちていたのが一つ。これは、亮が滉に渡す。
「亮ちゃんが持ってなよ、一応」
「いや、俺の相手は接近戦に向いていない。銃で遠くから攻撃するからいい。今回の戦いでナイフまで使う必要はない」
そんなことを言われ、納得していなくても滉は押し付けられたナイフをベルトに収めた。
「俺は左、亮ちゃんは右」
敵が迫っている。亮は軽く頷いて走りだした。
「健闘を祈る!」
「そっちもね!」
***
滉は少し走ったあと、手近にあるそこそこ高い木に登った。一つ一つ枝がしっかりしているのかを確かめ、敵――ダニーロが来るのを木の上から待った。ここは逃げ場がないので、見つかったらおしまいかなという考えが頭をよぎる。なるべく草が生い茂る枝を選んだつもりだが、相手からどう見えるのかはわからない。
息を潜め、銃の引き金に手をかける。構えた。一応、王宮に仕える兵士が持っていた銃だ。そこそこ、狙撃にも向いている。
しばらく、腰をひねった体制のまま待った。幹に寝転がることはできないので、少し辛い。
耳を澄ませると、ザザっという音がした。誰か来る。緊張が増し、銃把を持つ手にかすかに汗が出る。今よりも、息を潜め、気配を絶つ。
走るような、歩くような音が近づいてくる。姿を確認できるまであと少し。……来た!
ダニーロがあたりを見渡しながら早足で歩いている。時折止まり、じっと木の上を見つめていた。こちらの作戦に気づいているのだろう。しかし、ダニーロが見ているのは滉とは真反対の木だ。
早まる鼓動を抑えつつ、滉はダニーロの膝を狙った。皿が割れようと、関節が切れようと構わない。深呼吸をする。木を見て止まっている今がチャンスだ。慎重に狙い、打つ。引き金を引いた。
発泡の音にダニーロは驚いたように後ろを向いた。滉はすぐに銃を引っ込め、次弾をセットする。弾丸は見事に命中したのか、ダニーロの悲鳴があたりに響いていた。
「……出て来いっ」
そう言われ、素直に出るバカがどこにいる。そう思いながら、再び構える。ダニーロは血走った目で銃弾が飛んできた方向、つまりは滉の方向を見ていた。滉はダニーロの膝を打ち抜いているのを確認した後、ゆっくりと構えた。膝からは次々と血が流れている。木漏れ日が当たり、その血が赤く輝いた。殺さない程度に箇所と打ち抜くというのは、なかなか難しいと滉は感じた。滉は人を殺したくはなかった。
「おい、出て来い!」
痛みに悶えながらもダニーロは叫んだ。残念だがここで、終わりだ。口の中でつぶやいて、今度は反対の肩を狙う。
銃口から銃弾が飛び出る。見事にダニーロの肩を貫いた。膝を抑えていた方の手を打ったので抑えをなくした膝から血がどっと出る。新たに撃たれた肩を抑え、ダニーロは叫んだ。
「最後にっ、と」
仕上げとして催眠弾を打つ。ダニーロがいる地面に向かって、だ。打たれた本人は飛んできた新たな銃弾を食い入るように見つめた。噛み締めた口から血が流れている。俺って結構最低かも。そう思うが振り払う。襲ってきたあいつらが悪い。
滉は催眠ガスが雲散し、ダニーロが眠ったのを確認するとダニーロに軽く応急処置を施し引っ張っていった。
彩里のもとに向かった。
***
「亜妃、そろそろやるか?」
固まっている二人。ちらりと目だけを動かしてリナと彩里達を確認した。
ジェラルドは倒す必要がない。
亜妃は単純にそう考えていた。ここで見張るだけでいい。ここから動かさなければいい。ぺちゃくちゃと昔話をしたがそれは時間稼ぎだ。王の命令に従うジェラルドは、王の命令に従わせればいい。ギュッとこぶしを握る。記憶を変えるのは好きではない。できれば、王自身が決め、命令を下して欲しい。そのためには彩里達に王の説得を試みてもらわなければ。
深呼吸をする。ジェラルドは時折聞こえる叫び声や銃声に耳を傾けていた。悪趣味なやつだ。嫌悪感をあらわにしジェラルドを見る。
「ひっどい顔」
こちらを向いたジェラルドにそう言われてむかっときた。当のジェラルドも亜妃の返り血でひどい顔である。
「あんたこそ。……あたしは戦いたくないのよ」
「それ、さっきも言ってたな。でもそう簡単には行かないと思うぜ」
目の前の相手はにやりと笑う。
「そうね、だからあたしも作戦を変更するわ」
言うだけ言う。何も考えていない。自分に興味を持たれればいい。王が目を覚ますまでだ。
***
この世界には、ヴィパルという名の大地しか、国しか存在していない。シモーナがそう言った。その国の中には能力者がいて、その能力者を王都に集めていた。有益だと判断されたものは晴れて、七人才の仲間入りだ。ただ、その当人が入る前にいた七人の一人が、新しく入ってきた人物により、どうなるのかはわかっていない。殺されているのか、能力によってはどこかで労働を強いられているのか、監禁されているのか。その全てが不明である。
この国の成り立ちについてもそうだ。賢者がどこから現れたのか。きっとそれは、神だからという理由でそこについて触れる者はいない。しかしその者たちを操る者こそが神だと、颯希は考えた。つまり、賢者が本当に賢者だったのか、洗脳という能力を持つ神によって自分は│能力を持っている(・・・・・・・・)と認識していた者達なのかも定かではない。時を戻す能力――ドゥッチオを使えばそれを知るのはいとも簡単だろう。
洗脳の能力を王族だけ継いだ。颯希は彩里にそう言ったが違うと思っている。王家の印、これを持つ者だけが王位を継げる――つまりは洗脳の能力を持つ者だけが王位を継げるのだ。便利な作りになっている。今この世界に、次期王は颯希しかいない。颯希にも洗脳の能力はある。
「彩里、王を起こして」
「え、ああわかった」
亜妃がちらりとこちらを見た。両方の森から何かが近づく音がする。きっと、亮と滉だ。もすぐ家に帰れるはずだ。戦いの終わりが近づいているのを颯希は感じていた
最終回まで今日を含めあと5日!
皆様、どうぞ最後までお付き合いお願いします。
追記
これから最後まで諸事情によりこれから更新が7時になります。…すみません! よろしくお願いします。




