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2-デアイⅠ -

サブタイトルのⅠはアイではなく1です。デアイというサブタイトルはこれから何度も出てくる予定なので←

 次の日、学校は夏休みだった。だが、それに構わず颯希は学校へと行き、神木のもとにたどり着いた。


 改めてみると、それは神々しいものだが恐ろしい重圧さえ感じた。その幹に触れ、昨日のことを思い出した。


 不思議な体験だ。この木のもとで眠り、気が付いたときそこは夜で、月が大きくて、日本人離れをした、しかし日本語を話す赤毛の女と出会った。その女に朽ちた木の根元の穴に突き落とされ、気が付いたら夕方になって、元居た場所にいた。息が乱れて、それが妙にリアルで、夢に思えず頭からこびりついて離れなくなった。勉強なんか手に付かず、昨日の夜はずっとそれを考えて過ごした。とにかく不思議だった。自分の退屈で平凡な毎日に革命がおこったような興奮を覚えた。幹の上でギュッと拳を握る。また、あの場所へ行けるだろうか。

 颯希は直感的に昨日見た風景は現実であると理解していた。また、そこへは昨日と同じことをすれば行けるのだろうという思いも。あの女が驚いた理由は何か、なぜ自分はあんなところにいたのか、なぜ穴に落ちることでこの世界に戻れるのか。どこかの童謡・不思議の国のアリスと被る。だが、まったく世界観が違うことからただ同じような状態だ、と言えるだけだろうが。

 息を吐き、昨日と同じように座った。感じる感触は、全て昨日と同じだった。

 やがて、颯希は暖かな陽気に再び眠気を誘われた。そのままコロリと眠りについた。


***


 しばらくして、颯希は目を覚ました。昨日と同じ場所だった。朽ちた木、その根元にある大きな穴、それが生える乾いた土、ぐるりと囲うようにして生い茂る木々。その一本にはひびが入っていることから昨日、颯希が来たところを全く同じだと物語っていた。


 興奮し、口角が上がるのを抑え、誰が見ているわけでもないのに颯希は深呼吸をし、自分を落ち着かせた。また同じように夜であることを想像してきたのだが違い、眠ったときから少しも時間が経っていないような感じだった。周りを見渡しても、昨日と同じ風景で新たな発見はなかったが、きっと昨日いた女の物だろうと思われる、燃えて焦げた跡がある太い枝が捨てられているだけだ。


 ここは颯希がいた場所とは違うものだと認識し、それが現実に起きたものだという確信を得た。そして颯希は昨日の女がしたように、木々をかき分け、この空間から脱出した。

 木々を分けるという作業はそう難しいものでもなく、難なくそこから抜けると少し高い丘の上らしき場所に出た。そのまま進んでいくとやがて地面に草が生えはじめ、川が流れていた。今の日本には、――否、もしかしたら地球にも――これほど多く、建物が立たずに自然が残っているのは珍しいかもしれない。


 そうして進んでいくと、そこそこ大きな木の陰に出た。林並木になっているのかずらーと並んでいて颯希から見て右の先に大きな草むらがあった。構わず進もうと思っていた矢先、子供の悲鳴が聞こえる。


 何事かと思い、そちらの方を見てみる。後ろにも木があるのですぐには見えないが少し戻ると発見した。昨日のフードをかぶった女と周りに数名の子供、大きな馬車らしき乗り物が四台ほど、それに黒い服を着て、金の腕輪をつける数名の男が立っていた。


 男たちが子供の手を掴み、どんどん馬車らしき大きな乗り物に乗せていきそれを女が見ていた。その女の拳は小刻みに震えている。そしてその手には男たちと同じ金の腕輪がついていた。

 これは何の現場だろうかと考え、昨日、自分が勝手に思い込んでいた誘拐の現場だと思った。だからだろうか、颯希がその現場に夢中になっているすきに颯希の後ろには子供たちを捕まえていた男の一人が立っていたのだ。


「おい」


 その言葉に驚き振り返り腹に一発殴ろうとしたが構える前に体を地面に抑えられる。大の大人、しかも男ではこちらに分が悪い。動きやすい服装で来たつもりだったが、動く前に止められては元も子もなかった。

 叩きつけられた際、顔も容赦なく地面にぶつかったのでほのかに血の味がする。騒がないようになのか、颯希の口に猿轡(さるぐつわ)を一瞬にして噛ませた。颯希は相手を睨む。

 相手の男は問答無用で颯希の手を持ち、引きずっていった。


「亜妃さん、そこに子供が一人いやしたぜぇ」


 〝アキ〟というのが女の名前らしく、男はさも得意そうに言い放った。アキはその男を煩わしいような目で見たのは一瞬ですぐに驚いた表情へと変わった。


「そいつは対象外。今日はもういい……解散だ」


 残っていた子供たちは颯希がここに連れてこられた際に散り散りに逃げていた。少し不服そうな男たちは、しかしアキの命令に逆らえないのか、大人しく馬車に乗り込みそのまま消えた。少し安心したような気持になった颯希は、男から解放され自らの手で猿轡を外し、アキという女の前に立った。


「こんにちは」


 そう言って立ち上がる。水分を含んだ土が家から勝手に拝借してきたジャージを汚した。とりあえず何を言っていいのか分からないので挨拶をする。アキはフードをとった。


「あんた昨日の子、よね。何で来てるの? 昨日もう二度とこっちに来るなってあたし言わなかった?」


 以外に強気な口調に押され、口ごもる。


「え、あ、はい、言ってました。確かに」

「じゃあ何でここにいるの?」

「この世界ってなんなのかな~と思って」

「さっさと帰んな」

「帰る方法、知らないし」


 そんな会話に疲れたのか、アキは目頭を押さえ、怒鳴った。


「だから、じゃあ何でここにいるんだッつの!!」


 その声に驚き、颯希は思わずすみませんと謝る。すると、アキは手を揺らしそれを止めた。


「とりあえず、あんたは絶対こっちに来るな。……来ちゃいけないから」

「……何で?」

「何でもよ」


 そう言い、アキは歩いてここから立ち去ろうとした。それを見た颯希は思わずアキの手を掴んだ。


「待って!」


 驚いたアキは颯希を振り落した。その時の力が意外に強くて驚いた。


「嫌」


 一言言ってまた立ち去ろうとする。


「待てっての」


 アキはため息をついてから振り返り、言った。


「何でよ」

「あなたには聞きたいことがいくつかあるから」


 颯希はそう言うと亜妃の正面に移動した。


「あなたの名前は?」

「……あんたこそ。人に名前を聞くならまず自分から、って誰かに習わなかったの?」


 冷たい目でアキは颯希を見る。颯希は少し考えて下の名前は知っているのだからそう聞き出す必要がないように思った。そのため颯希は


「じゃ、いいや」


 と言い放つ。

 するとアキは一瞬怪訝な顔をするが、すぐに面倒くさそうに歩き出した。それを颯希が肩を掴み止める。


「うそうそ、わたしの名前は園枝颯希です。幼稚園の園に枝で園枝、颯希は立つに風に希望の希で。はい、あなたは?」

「亜妃」


 アキはそう言うと空中に指で文字を書き始めた。どうやら、説明するのが面倒らしい。


「苗字は?」

「ない」

「うそ」

「本当」


 颯希は亜妃の顔をまっすぐ見た。一瞬、亜妃の視線と交わって緊張しているのか、体が熱くなった。

 亜妃はそう言うと今までとは反対の方向へ歩き出したので颯希はついて行くことにした。颯希が通ってきた道だ。


「……あんた、こっちから来たんでしょ。また同じところからさ」

「うん、そうだけど」

「ま、あんたには関係ないかもだけど、あたし以外の人に見つかる前にさっさとここから立ち去ったほうがいい。……いやなら、力尽くでも」


 そのセリフを聞き、颯希は顔を厳しくしていつでも動けるように心の準備をした。亜妃は振り返りもせず、こう言った。


「そう身構えなくてもいいから」


 少し不思議だったが颯希は、自分の空気に変化が起きたのだろうと決め深く考えはしなかった。


***


 少し進んでいき、颯希は自分が来た道と逸れていることに気が付いた。ちなみに、今歩いているところは暗い林の中だ。始めは、あの朽ちた木の周りにある生い茂る木々のところを歩いているのかと思ったのだが、そうでも無いようで足元がぐじゅぐじゅしている。


「ね、亜妃さん」


 亜妃は返事もせずに振り返る。なんて呼べばいいのかわからないのでとりあえず敬語だ。


「どこに向かってるんですか?」

「あたしの家」


 それを聞き、颯希は驚いた。ここに家があるのか、と。

 確かに、人はいるし川や木があるところに子供たちがいたことから、近くに村や人々が住める場所があることは推測できる。しかし、実際問題、この自然豊富なところを見ていると人が住む環境が整っているとは言いにくい。どう考えたって、今歩いているのはどこかの林の中だし、足元は日が当たらないため、ぬめっている。絶対、生物とか住んでないだろうし、というか、食糧は自給自足なのか?


 そうこう考えているうちに明るい場所に出たと思うと、目の前に大きな洞穴があった。その洞穴には大きな草が二枚垂れており、どうやらこれが玄関のような役割を果たしているようだ。そうわかったのは亜妃の


「いらっしゃい」


と言うセリフからである。どうやら亜妃の家はこの洞穴のようだ。

 絶句している颯希を前に亜妃は言い放った。ゆっくりと、薄汚れたコートのボタンを外しながら、さも当たり前のように。


「ここについて教えてあげるわ」


 と。


今回こそ0時投稿できた!

次回もよろしくお願いします!

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