28-シロニ-
行くんだ! どこに? と思われた方は題名を見て下せぇ
黒服が五人小屋から出てきた。全員、金の腕輪をつけており顔が遠目からは分からない。
この五人は一直線に、城へと向かった。
しばらく進み、城の前につくが門番はろくに顔を確認せず腕輪を見せただけで中に通した。門番らはきちんとしたラド家の人数はもちろん、顔も把握していないのだ。
「どうぞ」
また、貴族が相手なので敬語になる。リナは軽く頷いてから、重々しい木の扉を開けた。
城は、まるで大きな洋館の様な外見でとんがっている棟がいくつかあった。窓も大きく、真ん中の窓にはステンドグラスがはめ込まれ、中に入るとその光が杖を持った老人の絵を浮かび上がらしていた。
「なにこれ?」
「この国が作られたのはこのような老人らがいたからだ、となっている」
リナの説明を受け、何ともバカだと思った。
黒服五人とはもちろん、リナと颯希達のことである。なぜ颯希たちがこのような格好をしているのかを知るには、数十分遡らなければならない。
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数十分前、亜妃と話した後にリナが言ったのはこれだった。
「貴様たちには、わたしと同じ格好をしてもらう」
言った瞬間に、リナは服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「なぜ今の状況で脱ぐの?」
「ストップ、ストップ!」
滉、颯希、彩里の順で叫び亮は呆れていた。
「ほら、後ろ向いて! 二人とも」
彩里に首をくるりと後ろに回された滉と亮はあまりの勢いとそこまで曲がらないのに曲ってしまった首を押さえ悶えていた。それを無視して、颯希はリナの方を向く。
リナは黒服の下にちゃんと体にピタッとくっついているストレッチ素材服を着ていた。
「いいか、これから、わたしがコピーして服を四つと腕輪を四つつくる。サイズはかえることはできないがこれは基本フリーサイズだから誰でも着れるはずだ」
全員ラド家の格好をする、ということだろう。四人が一瞬でその作戦を理解した。ちなみに悶えていた二人はリナとは反対方向を向いている。
「リナの能力って、コピー?」
彩里の問いに、リナは頷いた。
「能力者だらけじゃねーか」
「……わたし、何もできませーん」
滉の発言に、颯希は手を上げて言った。滉は分かってるという風に颯希を見て頭に手を乗せる。
「お前は多分ここじゃあ弱いからな。時期王かも、なんて王宮の奴らにバレたら二度と地球に帰れないかもな。でも、俺たちが守るから」
そして笑う。少し恥ずかしくて顔がほてるのが分かる。まともに視線を合わせられなかった。たまによくわからない行動をする滉には恥ずかしいだけだ。
「よ、よろしくお願いします」
言葉が少し萎む。彩里と亮が笑ったことを目の端でとらえた。ただ少し、何かを含んだ笑みだったが。
そんなやり取りをよそにリナは作業を進めていた。腕輪はすでに出来上がっており、亮が入るサイズか心配だった。どうやら、コピーするときは左手だけを使うらしく、左手のしたにコピーしたいものを置き、手を横にずらしていけばポン! ポン! と出来上がるようだ。あっという間に四枚出来上がり、それを放り投げてきた。
「それを服の上から着ろ。全部着替える時間はない」
黒いズボンに、黒いTシャツ、その上から着るであろう黒いポンチョのような服にフードが付いている。リナが、耳に左手を当て右手の上に何かを出していたので耳にある物もコピーするのか、と見ていた。するとイヤホンのような機械が出てくる。なんでもアリだなと思った。サイズが心配されていた亮だったが割とぴったり入ったそうだ。逆に、大きすぎるのではないかと心配された滉も無事切れたようだ。
「これを耳につけろ」
イヤホンを渡された。耳につけるとリナから説明があった。
「いいか、このイヤホンは外部連絡用イヤホンといって自分の思ったことを伝えたり、相手の思っていることが共有できたりする」
すごい機械だ。どういうからくりになっているのだろうか。今の地球では作れないだろう。
「試しにやってみる」
リナがそう言うので、みんな耳に集中した。
『聞こえるか?』
ざざっというノイズの後にリナの声が聞こえた。
口で返そうとしたがこちらも耳のイヤホンで返そうと頷きながら思った。思考を伝えることができるのなら、完全に今の地球では出来得ないだろう――あくまで、颯希が知る限りだが。
『聞こえた』
リナは四人全員から返答を貰ったようで満足げに頷いた。
『いいか、これからはこれで会話をすることにする。城の中では話せないからな。というか、話したばれる』
イヤホンから聞こえた。
『これ、全員に聞こえてる?』
彩里の声が聞こえた。颯希は彩里に聞こえてると返すと滉と亮の声も聞こえた。
「ああ」
リナが頷きながら言う。
「これから、城へ向かう」
いつの間にか黒服に身を包んでいたリナが胸元から地図を取り出した。
「これごとコピーしたから全員の服の中にあるはず。探せ」
探すのにそう時間はかからなかった。
出てきた地図は、城の見取り図のようだ。見たことのない字で城の各所に名前が書いてある。しかしやはり読めた。部屋の一つに丸が付けてありそこには「子供たちの部屋」と書いてあった。地下のようだ。
「そこに書いてある、子供たちの部屋に行ってもらう」
「そこにいるのね?」
「ああ」
彩里の問いにリナは頷く。
『そこに行ったあと、七人才の部屋に行く』
音声がイヤホンに切り替わった。いきなりで驚くが、慣れておかなければならないだろう。
小屋の床の上にリナは地図を置き懐から出したインクを付けたペンでなぞった。きちんとした鉛筆やペンの文化はないのだろうか。リナが印を付けたところがどうやら七人才の部屋のようで二階にあるようだ。
『ここには、亜妃様がいる。そしてそのまま逃げる』
『逃げる?』
颯希が聞く。リナはすぐに答えた。
『今回は亜妃様の逃走の手助けもしている』
少し腑に落ちない点があるが深く突っ込まずにリナのように颯希はカバンの中からペンを取出し、同じように印をつける。
『ここまで行くのだって簡単ではない。一番恐怖なのは他の七人才に正体を見破られないことだけだ。……ああ、子供たちの部屋は牢屋だ』
「牢屋?」
思わず、颯希が聞く。イヤホンでの会話を忘れたがそれを咎めずリナは頷いた。
「子供たちは亜妃様の能力にかかってもなお、牢屋に入れられる。……まあそれに気付いていないのだがな」
目を見張った。そんなことをしているのか。亜妃の日記にも少しふれていたが詳しくは書いていなかったため、余計に驚く。イヤホンでの会話ではなくなっていた。
「子供たちを逃がした後、亜妃様は逃げると言っている」
「ああ、さっきも言っていたあれか」
「どこへだ?」
亮と滉の質問にリナは少し考えて答えた。
「知らん」
颯希は少し考えた。颯希が行き来している木の根元から亜妃は来た、と彩里が言っていた。もし、その根元がここにいる全員を地球に帰すことができるのなら。そう思って首を振った。可能性としてあげておく程度に留めておこう。
「いいか? 子供たちの救出、亜妃様の逃亡の手助けが目的だ。……行くぞ。わたしの後について来い」
最後の理由は、リナの私欲のような感じもする。
しかし四人は、リナの後に連れ黒服のフードをかぶった状態で小屋を出て行った。
***
七人才の部屋で、ジェラルドを睨んでいたシモーナは不意に視線をずらした。ジェラルドは心が読めない。何も考えてないのか、何も思ってないのか、読めたことがない。
シモーナはソファに座った。その時、扉が開いて七人才の残りの四人が入ってくる。
「あら、ジェラルド。お邪魔だった?」
青い髪のエルシリアが入ってきた。そのあとに続き、ドゥッチオ・ダニーロ・マノロが入ってくる。
「いや、別に」
ジェラルドは亜妃から離れると、そのまま部屋の中央へ向かった。亜妃はその場に立っており、隣にドゥッチオが来たのを感じ、苛ついた。
「おい、お前リナを動かしてるな」
ドゥッチオも亜妃と同じくラド家を選んだ。そのため、ラド家にはそこそこ詳しい。もちろん、亜妃の動きも監視している。逆に言えば、亜妃にはドゥッチオの動きがわかる。――ラド家の場合、だが。
「シモーナのわがままを正してあげたのよ」
少し刺の含んだ言い方でそう言い、ドアの入り口に向かった。後ろでドゥッチオが舌打ちをしたのが分かる。シモーナとジェラルド以外の視線を感じながら亜妃はドアの前に座った。
「そろそろ、王が死ぬかもねぇ」
エルシリアののんびりとした口調が、部屋に響く。
「縁起でもないっ!!」
シモーナが言った。シモーナは現王の実の孫だ。そのため、王に安心してもらいたく時期王探しをしたり少しでも長く生き残れるように良い薬屋を雇ったりと最近は大忙しだ。
「まあまあ、んなこと言ってたって、人はどうせ死ぬんだから」
飴玉を口に含みながらダニーロが言った。
「そうだな」
「と、言っても俺たちは探さなければならないってな」
マノロの返事にジェラルドが言った。探さなければならないもの。
「亜妃、シモーナ。お前らなら知ってるんじゃないか?」
ジェラルド独特の、全てを見透かされたようなぎょろっとした瞳で見られる。視線が痛い。
「次期王候補を」
今回から起承転結の転の部分が始まります!(第2、第3章は一応承の部分)




