19-コーデ-
ミナイトは、活気にあふれている町だった。東京のような、高いビルが立ち並ぶわけでもなく、かといって田舎みたいに畑や田んぼと小さな家があるわけでもない。
布の屋根の下で売りさばかれる品物たちは、颯希の目には新鮮でどれもこれも初めて見る物ばかりだった。どこか、祭りの屋台を思い浮かばせるが、少なくとも屋台の看板の部分みたいに激しい色は使われていない。
しばらく歩いて行くと、彩里が立ち止って服を買った。白のシフォンにゆったりとした薄紅色のショートパンツでどちらも民族衣装に入っていそうな花の刺繍があり(この刺繍は亜妃が来ていたTシャツにもついていた)、優しくふわりとした感触だった。
彩里はそれを颯希に持たせると、そのまま引きずって行き
「これに着替えてね」
「え? 何で?」
「ジャージは目立つのよ。そんな服装、ここにはないわ」
そう言うことならはじめから言ってくれればいいものを。わざわざジャージを着てこなくても、よかったのではないか。そうこう考えているうちに、店の裏についた。ちょうど一人はいれそうな大きさの布で四方が隠れており、これは試着室だなと思わせるものだ。ただ、こんな人が多いところで、裏だと言ってもそこそこの人通りのある町で着替えたくはないのだが。
「ここ?」
「そう。早くして、ちゃんと見てあげるから」
うーん、と悩んだ末、仕方がないとさっさと着替えた。三十秒もかからなかったとか。
「はやっ!」
彩里にそう言われ、少し笑う。
「でもかわいいわね~。やっぱり、ジャージなんかよりふんわりした方が可愛いわよ。あ、今度はボーイッシュさをだす服を」
一人で勝手に話し出したので颯希はさっさと二人のところに戻った。ちなみに、ジャージは颯希が持っていたトートバックの中である。
「じゃ、次はカバンとクツね」
颯希のトータルコーデははじまったばかりである。
***
数十分後、颯希は白のシフォン、薄紅色のショートパンツ、柔らかな生地(颯希の手触りからしてオール綿)のショルダーバッグ(ジャージもすっきりの大きさ。ベージュ)茶色の革靴になっていた。全体的に無難にまとめられた気がして、さして、コーディネートというものはあまりない気がする颯希だが、彩里だけはテンションが上がっていた。
「か~わ~い~い~」
そうでもない。女子のテンションって分からないなーと颯希(女子)が思った。
因みに男二人はコメントなしだった。さっさと歩きだす三人に、彩里が慌てて追いかける。
「ちょっと待ってよ」
「あ、そうだ彩里、わたしここのお金持ってないけど」
「いいわよ別に。そんなこと百も承知だったのよ」
語尾が毎回上がるのは何か。ここに来て、まさかのキャラ崩壊!?
とここにいる三人は思った。
「ジャージは目立つからここの服に着替えさせただけじゃない。ホントはもっと買ってあげたいのよ? でもね、時間がそれを許さないの」
何だ時間て。時間ならば颯希も四泊五日のもう三日目である。そろそろ止まりに行くというのも限界になっている。
颯希のイライラが募っていた。颯希にとっては、さっさと城について騒いで亜妃に気付いてもらいたいものである。
「亜妃がいるっていう確証はないの。分かってる? 今必要なのは情報よ」
急にいつもの調子に戻った彩里に戸惑いながらも、男二人に女一人はついて行く。
「そうだな。亮ちゃんが勝手に言っていただけで今も亜妃ってやつは誘拐しに行ってるかもしれないし」
「おい」
久しぶりに滉と亮の会話を聞いたなと思うと同時に、誘拐のことを思い出した。仮説によれば、誘拐は能力を持つかもしれない子供たちを集めていること。もしかしたら能力の独占が目的かも知れない。しかしそれが結果どのようになるのかがまだわかっていない。
軽くため息を漏らして、彩里の言うことに一理あると思った。
「情報収集はいいんだけどさ、わたしここの土地全く知らないからすぐに迷子になりそうだけど」
地図には、ミナイトの詳細な地図が載っているわけではない。彩里はそれを見越していたようで
「大丈夫」
と言い、滉を押し出した。一瞬、訝しげに彩里を見るが耳元で何か言われたのか顔がほんのり赤い。最近、滉の顔が赤くなっていることが多いが彩里は何を言っているのだろうか。
「滉は何気に頭はいいのよ。特に、記憶力」
「は、は余計だ!」
その言葉に、あ、怒っているのかと颯希は納得した。
***
相談の結果、彩里と亮、颯希と滉のペアになりミナイトを2(ツー)ブロックに分け情報集めをすることとなった。彩里たちは南半分で今いるところの正反対、颯希たちは北半分で今いるところを担当することとなった。
「よし、はじめるか」
滉が言ったので頷いた。
一番初めにと、ギリギリ北の南と北の境界線である東のところに行った。確かに、さっきいたところから始めて、わからなくなるより、端からやった方が戻らなくて済むし。ぼんやりとそう思っているときこうに声をかけられた。
「なんて聞けばいいと思う?」
一瞬理解できなかったがすぐに理解して答える。
「……きっと、亜妃と言う人を知っていますか? と言って、答えられる人はいない。それより、見た目の印象の方が強く残るから赤毛で緑の目、少し汚れた茶色のコートを着ている女の人を知っていますか? と聞いた方が少なからず答えやすいと思う」
滉は頷き、ちょうど前を通りかかった男に聞いた。
「赤毛で緑の目、少し汚れた茶色のコートを着ている女の人を知っていますか?」
男は目を見開いて走って逃げた。
「変なの」
「わたし、コンタクトつけてるのに」
もしかしたら、亜妃の部下かもね。
そう思ったのは、誰にも言わなかった。
***
しばらくたち、ちょうど南あたりに差し掛かったところで腹の虫がなった。
「おなか減った―」
そう言って水を飲む。塀のふちに座っていつの間にか滉が居なくなっているのに気付いた。トイレかなーと考えた。
ほどなく、滉は戻ってきて手にはホットドックのようなものが握られていた。
「彩里さんに金渡されていたの、忘れてた」
記憶力がいいんじゃなかったけ。そう思いながらも受け取る。
「ありがと。……あ、彩里にか」
そう言うと、滉は反応を見せずにホットドックらしきものにかぶりついた。颯希もかぶりつき、そのパンが小麦粉ではなく、米粉でつくってあることに気が付いた。
「小麦粉はないの?」
「ないんじゃね?」
あっという間にたいらげた滉に驚きながら颯希も急いで食べようとする。
「急がなくていいよ」
塀のふちに滉も座った。
「疲れたし」
まあそうだな。何十分もかけて歩いてきたわけだし。ここはお言葉に甘えさせてもらおうと颯希は考えた。
「ありがと」
その時、自然に笑顔になったようで自分で自分を驚いた。滉は目を合わせてくれなかったが。
***
その数分後に颯希も食べ、やっと行動が開始された。
西側に踏み込んだとき、人が少ないなと颯希は思った。どっかの本に治安を維持しているとか書いてあった気がするのに。
ちょうど通りかかった男に、もう何度も口にしていた言葉をかける。
「赤毛で緑の目、少し汚れた茶色のコートを着ている女の人を知っていますか?」
その男は「お前たちかっ!」と言い、走って逃げた。デジャブ感を感じながら次の人に当たった。
「知らないです、すいません」
収穫はほぼゼロに近い。ゼロではないのは逃げていく男たちがいるからである。
しばらく進み、人通りが全くと言ってないほどの道に入った。林に囲まれた開けた場所で、風が強い。
「なーんか、こっちのほうって」
滉が言う。うん、と頷いて続けた。
「やばくない?」
と言った瞬間、背中をけられた。息が詰まるが、すぐに振り返って腹に一発入れた。しかし途端に左肩に激痛が走る。銀色のものが見え、それが彩里と亜妃につながった。ナイフだ。
「颯希!!」
あー題名が行方不明に




