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16-ギモン-

 先ほどの会話で出た事実、疑問をすべてノートに書いた颯希は出てきた疑問を一つ一つしらみつぶしに当たっていこうと考えた。分かりやすくここに疑問を記す。


『疑問


・王族の直属の部下、とは

・亜妃の《能力》とは何か

・亜妃の仕事は、見回ることに関係するのか

・なぜ、《純粋で無垢》な子供が欲しいのか

・亜妃はなぜ使われる?(亜妃の能力と関係するはず)

・ほかにどんな奴らがいる?』


 疑問を書いても、最終的には一つの疑問にたどり着いた。


『王族は、何者なのか』


***


 今日の昼はもうそろそろ来るので、彩里が昼食を頼みに部屋を出て行った。三人になった個室で颯希が言った。


「ところで、アンフォッシ家についてだけど」


 頭の片隅にずっといた貴族の名を上げる。二人は颯希を見た。


「どうすれば会えるかな」

「……普通は無理だ」


 亮が答える。


「貴族、しかも王族と近い貴族っていうのは王宮の中に住んでいて会うには特別な許可がいる。王族の許可か、それに使える部下の中でも最も王族に近い権力を持つ者の許可だ。……ただ、王族に最も近い権力を持つ者たちは、顔も、素性も、名前も何も明かされていないから分からないが」


 確か、亮が『アンフォッシ家の人たちは何か知っているのかもしれない』と言った気がするのだが。始めから無理前提で話されても困る。無理なものは無理と言ってほしかった。

 そんな颯希の考えが亮に通じてしまったのか、それとも顔に出たのか亮は続けた。


「ただ」


 まだ続きがあるのかと、颯希は身を乗り出して聞く。滉は全く動かなかった。


「俺たちはその部下の一人に心当たりがある」


 亮の言葉に驚き、そして一つ思った。彩里が読み上げた日記の情報が頭の中を侵食する。王族直属の部下として受け入れられ、その能力を使い一人で仕事を受け持ち、王族に直接話すことを許される人物。


「亜妃」


 呟いた颯希自身、驚いた。


「……確かに、亜妃ってやつは怪しいし、権力も持っているだろう。王族に逆らったら普通は殺される。それを、牢獄にぶち込まれるだけで済んでいるんだ。……そんなに珍しい能力なのかもな。それとも、お気に入りなのか」


 滉が言う。その言葉のはしはしに少し刺を感じる。亮が颯希に覚えているか? とたずねて言った。


「この前、颯希が読んでいた本を俺も読んだんだ。『貴族・アンフォッシ家~王族との関係~』だったか? それをな。そこに、『王位を継いだものの命令しか聞かない七人で構成された戦闘員がいる』と書かれていたはずだ。もしも亜妃が、それだったとしたら、亜妃の権力はかなり絶大になる」


 考えもしないことを亮がいい、颯希は目を見張った。確かに、待遇の良いの一言で片づけられるようなそんなものではないだろう。王族と話せること自体が限りある人物、と亮が言った本に書いてあった。そうか、亜妃はそれほどの人物なのか。王族の目的は分からないが、亜妃については分かってきた。少し、気分が高揚する。


「でも今、そいつに会えるのか?」


 顎に手を当てた滉が言う。


「ああ、そうなんだ。そこが問題だ。だから、連絡を取ってみようと思うんだ」

「どうやって?」


 颯希が聞くと亮が答えた。


「それも問題だ」

「だめじゃん」


 俯いてため息交じりに、亮の言葉に颯希がすかさず言う。


「でも希望はある」


 その亮の言葉に、顔を上げた。


「俺たちが直接、王宮の近くに行って亜妃に存在を気付かせるんだ」


 その時、彩里がタイミングよく部屋に戻ってきた。


***


「王宮の近く?」


 むしゃぼるように食べる滉と亮をほったらかしに、彩里はスープを飲みながら颯希に言った。


「うん、そう」


 頷き、肉の塊口に放り込んだ。うまっと言い、続ける。


「さっき亮が、亜妃への連絡の手段がないなら俺たちが直接王宮の近くに行けば、っていう話になって」

「うんうん」


 同時にスープを飲み干し、おにぎりのようなものを食べる。ような、というのは三角ではなく四角だからだ。


「で、王宮の近くってどのへんかな、って思って」

「うんうん」

「地図を見てみたんだけど」

「うん」


 おにぎりをほおばり過ぎたのか、彩里はいきなり咳き込んだ。すぐに水を差しだすと彩里はためらわずにそれを飲み干す。あーそれ、わたしのなのに、と内心思ったのは内緒だ。


「……それで?」

「ヴィパルのど真ん中にあるんだね。王宮」

「そうよ」


 むせかけながら彩里は答えた。思わず背中をさする。


「大丈夫、ありがと」


 あれ、背中をさするって吐きかけたときにやるものでは? と思ったが口には出さない。


「わたし今日は一応帰るけど、明日はすぐに来るからね。今日も行きたいところだけど、地図で見ても軽く千キロ以上あるし、その距離を歩くのはさすがにつらいかなって。……ああ、明日からは二泊三日の勉強合宿と言うことで来るから。三日はこっちにいられるはず」


 そう言いながらおにぎりの最後の一口を食べる。


「あいへんほうだあ」


 滉からだった。大変そうだなと言いたいのだろうが、まったく言葉になっていない。口に詰め込み過ぎだ。昨日、そんなに食べていなかったと思うのに。と颯希が考えていると彩里が言った。


「今日の朝ご飯が、あんまりなかったからね」


 朝ご飯と言えば、スイカの味がする果物に米を少しと野菜を少し。朝は小食な颯希にとって、ちょうど良い量だったが朝から食べる人にとってはやはり少なかったのか。


「いつも、どのぐらい食べるの?」

「そうね、果物は今日と同じぐらいだけど米はもう少し多いわ。茶碗二杯分くらいか。野菜ももう少し多いわ。今朝はあまり取れなかったししかたがないんだけど」


 それは、颯希がいたからみんなの配分量が減ってしまった、と言うことなのか。


「わたしがいたから?」

「ちがうわ」


 彩里の否定に、よかったと安堵する。この昼ごはんがたくさんあって二人は満たされるだろう。と思い、ふと疑問が生じた。


「ここの昼ごはんて彩里が買ってるの?」

「そうよ」

「え、いくらぐらい」

「そんなにかからないわよ。ここは物価も安いし。今朝食べた果物ってあんなにあったけどあれ、高級品なのよ。一個売るだけで今ここにある食事はすべて手に入るわ」


 そんなものなのか。ここには、やはりお金と言う制度があった。新たな発見に一番初めにここに来た時の気持ちを思い出す。――世紀の大発見だ、と思ったときのだ。


「昼の後どうする?」


 彩里に聞かれた。そうだな、と少し考えて言った。


「疑問をつぶす」


***


 つぶしていくには、時間と労力が必要だった。なかなか見つからない王族の文献を探すのに時間がかかり、それを読み、ピンポイントで疑問をつぶすことができる文も、なかなか見つからないのだ。四人が唸りつづけたのはそろそろ二時間を超える。腹の若干の好き具合からもう少しで三時ぐらいだろうかと推測する。時計がない生活にも少し慣れていた。


「あ―もう無理」


 一番初めにさじを投げたのは滉だ。


「何で俺が調べてるんだ?」


 ごもっとも。彩里と亮に連れられ(自分から志願したのか知らないが)図書館に来て、そのまま王族について調べることに。さらに、亜妃について調べるのに付き合わされていると言ってもいいのは滉だけだ。


「ちょっと休憩入れましょう」


 そう言って、彩里が立ち上がる。


「何飲む?」

「甘いもの」

「冷たいもの」


 彩里の質問に、颯希と滉が同時に答え後に亮が答えた。


「あとなんか買ってくるわ。美味しそうなやつ」


 彩里は女神だと思いながら颯希は本を閉じた。


「疲れた~」


 今までのようなスムーズに見つかりはしなかった。今迄、運が良かったのか。ふう、と息吐きながら伸びをする。進歩がまるでない。

 ここまで王族の直属の部下について調べていたから、次は路線変更で亜妃の仕事について調べようと颯希は思った。


「お待たせ~」


 数分もしないうちに彩里が帰ってきた。彩里の手には、盆がありその上にクリームソーダみたいな、――ここが驚きなのだが――黒い液体にアイスが乗っている、ガラスのカップが一つと、湯気を立てる白のカップが二つあった。それと、花の模様があるカップが一つあり、その周りに、アイスのようなものがあった。トッピングにサクランボのような実が付いたオレンジ色のものがあった。

 彩里は手際よく並べると、白のカップにはココアが入っておりもう一つのカップには茶色の液体が入っていた。紅茶みたいなものだろうか。

 一口飲むと、甘く、ほろ苦く地球にあるココアとまったく同じで驚いた。アイスはトルコのように伸びるわけでも、シャキシャキと氷が入っているわけでもなくふわっという食感でまるで雲のようだった。(雲を食べたことがあるというわけではないが。そもそも雲は食べられない)味は牛乳に似ていた。上に乗っていたのはサクランボの形をし、オレンジ色をして桃の味がする果物だった。颯希は割と、ヴィパルの果物が好きになっている。


「美味しい」


 気分が上がり、これからもがんばろうと思った一瞬だった。


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