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14-チカイ-

抜かしていました、すいません

 次の日、目を覚ますと外はまだ薄暗かった。昨日、眠るのがあまりに早かったのか夜型の颯希は朝早くに起きてしまったようだ。テントを出て外に行くとテントの近くの切り株に滉が座っていた。


「おはよ」

「おはよ」


 滉からのあいさつに颯希は返しながらもう一つある切り株に座った。


「亜妃っていう女について、昨日聞いた」


 思いもよらぬ滉の行動に、颯希は驚いた。


「あら、そうなんだ。……わたしも亜妃について聞いた」


 風がざあーと吹いて木々や草花を揺らす。少しの間、沈黙が続いた。


「なんていうか、謎だな」


 滉が耐えられなかったのか、そう言った。颯希は無言でうなずく。


「でも、短時間でよく調べれたよな、お前」


 褒められて驚いた。そして少し、嬉しかった。


「ありがと。だてに名門私立でトップを争ってないわ」

「単にわたしは頭がいいって言いたいんだろ」

「あ、ばれた?」


 そう言って笑った。くすくすという笑いだったがそれはだんだんとおさまり颯希は言った。


「もっとちゃんと調べなきゃ」

「うん」

「それで、何が起きているのか調べなきゃ」

「うん」


 これは、颯希が昨日亜妃について聞いたときに立てた誓いだ。知り合ってしまった、たった数日の浅い付き合いの人に、これほど執着を持つ自分に驚いた。何度も驚いて、一人納得した。たった少しの付き合いで人の真髄が見えるなんてことは稀だ。めったにないことだが颯希はヴィパルで出会った四人についてはそれが見えたと思っている。だから、日本に、自分の居場所に帰ってほしかった。こんな、得体の知らない者たちが納める国より、まだ日本の方がいいと思っているからだ。


 口をつぐんだ颯希を、滉は待ってくれた。そんな滉の優しさが嬉しくて、つい、甘えたくなる。返事をしてくれる滉が嬉しくて、思っていることを全部言おうと思った。なんとなくだが性格が変わったような気がした。もしかしたらこっちが本当の滉かもしれない。


「みんなを、本当にいたいと思える場所に返したいんだ」


 あえて日本とは言わない。日本がいいと思っているのは、颯希だけかもしれないのだ。でも、もしかしたらここにいる何名かはヴィパルから逃げ出したいと思っている人がいるかもしれない。ヴィパルにいたいと思っているかもしれない。だから、みんなが本当にここにいたいと思える場所に、いて欲しい。そう言う風に願った。颯希は他人のためにそう思っている自分に少なからず動揺した。滉がなんだか違うふうに見えるように、自分が自分でいなくなったような気もしている。それが、良い変化ならば快く受け取るが。


「……うん、そうだな」


 滉が肯定してくれて颯希は嬉しくなった。だが、滉の様子が少し気がかりだった。なんだか辛いことを思い出しているような、もしかしたらなにか、颯希が言ったことに反感を感じているのか。そう思うが、先ほどの発言を認めてくれた滉を否定したくはなかった。

 そして、途端に恥ずかしくなる。柄にもないことを言ったからなのか、言った相手が滉だったからかは分からないがその後にごまかすように言った。


「柄でもないこと言っちゃった。どうしよ、めっちゃ恥ずかしい」

「そうでもない。颯希は、多分はじめからそうなんだろ」


 ちょっと、君こそ柄にもないことを言ってくれちゃってますよ!?

 頭から湯気が出ているのではと思ってしまうほど恥ずかしくなった。なぜ、出会って三日。何年のも長い付き合いの人に対してよりも恥ずかしいことを言っている。でも、それは滉も同じようですぐにそっぽを向いて


「早く忘れろ!」


 と叫んだ。

 その様子が、何か可愛くて颯希は笑ってしまった。その笑い声に起こされたのか、寝起きほやほやの彩里と亮が同時に顔を出して颯希が笑い滉がそっぽを向く光景に首を傾げていた。


***


「朝、何やってたの?」

「ちょっと、誓いを立てた」

「誰に?」

「自分に」


 よっという掛け声とともに颯希は果物をとった。

 彩里は口笛を吹き、颯希を見て言う。


「カッコイイこと言うじゃない」


 颯希は苦笑いをする。何と言うか、朝は単に恥ずかしいことがあっただけだ。

 目の端で滉を捕らえた。果物を取ろうとしても背がとどかなくて亮に取ってもらう。それにがっかりしているのを見て、思わず笑みがこぼれる。


「なーに笑ってんの颯希。ほら、これ、取って」


 はーいと言う返事をしながら桃みたいなリンゴみたいな果物をとった。どちらに転んでも美味しそうなので深くは考えない。

 彩里が、他に数名いる人たちにわたし達はもう帰ります! と叫びテントへと急ぐ。

 テントからまっすぐ進んだところにある林にはたくさんの果物が成っていて、颯希はそこに連れていかれた。とにかく、自分の食料は自分で撮るのがここでの方針らしい。亮と滉も後からついてきたが帰りは一緒だった。


「ねえ滉、朝は何をやっていたの?」


 彩里が言った。途端に颯希は首を横に振り続けた。滉の耳が微かに赤くなったが先ほどの会話を聞いていたのか、なるべく颯希の証言に合ったことを言った。


「さ、颯希が誓いを立てているのを隣で聞いてた」

 

 確かにそうである。これっぽちも間違えではない。


「本当か? お前、俺たちが起きたときなんか真っ赤じゃなかったか?」


 それも、確かにそうである。間違えではないが、この場合環境が違う。滉は冷静に


「それは、なんか恥ずかしかったから」


 と言った。滉自身、颯希からしたら柄でもないことを言っていた。それを思い出したのか、頬までかすかに赤くなっている。

 その様子を見て、彩里と亮は顔を見合わせる。何かを察したような顔でこちらを見てきたので颯希は叫んだ。


「こっちを見るな!」


 その声が滉と同時のもので余計恥ずかしさが増した。


***


 朝食を食べ、(主食は亮がいつか言ったように米で野菜もあり、颯希たちがとってきた果物は桃でもリンゴでもなく、スイカの味がした)颯希たちは図書館に向かった。彩里が昨日と同じ部屋を確保していると言うので出るときに仕舞った本や、これ使えるのでは? と思える本を何冊も重ね、部屋へと持っていく。


「よし」


 颯希が言った。そこでふと思い出したように彩里に聞く。


「昨日、亜妃について話した時〝掴んだことがある〟て言ってたけど何がわかったの?」


 彩里と亮はさっと視線を交わす。すると、亮がゴソゴソしだし上着の(ふところ)から古い紙の塊が出した。


「これは?」


 滉が言った。

 濃い緑の表紙に、茶色の紙の束が閉じられていた。ところどころ破れたり雨に濡れたのか滲んでいたりしてその紙が使い込まれているのがよく分かる。二センチほどの間隔で紙の上を紐で括られておりそこには颯希のように『王族について』と書いてあった。


「これが、わたし達の成果」


 彩里が言って、ページをめくった。走り書きや、メモ書きのようなものがあり単語を連ねているようだ。最後から数えた方が速いのではと思えるところに、彩里はまとめを書いていた。


「まとめ。王国の兵士たちは子供のころから兵士になるように育てられた者たちであり、その者達がどこの子供なのか不明。王国にとって、〝子供〟というのは重要なキーパーソンであり城の中では子供たち専用の個室があり、王族に忠誠を誓うようにしこまれているという。……子供?」


 颯希が読み上げた。そして、昨日颯希が調べたもののようにやはり、〝子供〟と言う単語が出てきた。能力が開花するのは子供のうちという仮説を立てた颯希にとってこの情報はかなり有益だった。


「また子供か。どうせなら、俺と颯希で捕まって内部から攻撃した方が速いんじゃないか?」


 滉が言う。少し投げやりのような感じがした。確かにそっちの方が速いかもしれない。だがだからといい、易々と捕まるのは癪に障る。少し考えた末、颯希はノートにその情報を書き込むことにした。


「どう? 颯希? 何か掴めそう?」

「そうだね。とにかく、子供が大切だというのはわかった」


 ノートに書き足しながら言う。


「今、誘拐した子供たちをどんなふうにしているのかを知ったら、滉が言ったようにわたし達が捕まって攻撃を仕掛けようかな~、みたいな?」


 颯希は少し口角を上げて言った。一応、空手をやっているので人を攻撃することにためらいはない。ここにいる三人は攻撃ができるのだろうか。そこで、亜妃を思い出した。『戦闘用』と言ったナイフはこういうときに攻撃するためなのでは、と。


「三人ってさ、戦ったりするの?」


 颯希が言った。ノートに三人の名前を書く。


「できるわよ。亜妃にナイフの使い方を教えたのを忘れずに」

「じゃあ彩里は、ナイフね。亮は?」

「……どうかな。やっぱ狩猟か? ……だから、銃だ」


 亮の顔がかすかに険しくなった気がした。狩猟に悪い思い出でもあるのだろうか。

 颯希は彩里はナイフ、亮は狩猟につかう銃と書き、最後に滉に聞く。


「滉は?」

「ナイフも狩猟もできる。二人にいろいろなことを教わってるからな」


 何気に戦えるじゃない、みんな。

 普通の人だったら絶対に生き抜けられないような、自給自足の中で身につけた技だろう。日本に帰ったら、ただの危険な特技になるが今はそれが有りがたい。


「あっ」


 彩里が、思いついたように言った。


「ちょっと待ってて」


 そう言うと、部屋を小走りで出て行った。


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