12-カセツ-
明けましておめでとう御座います!
今年もよろしくお願いします!
今年もよい年でありますように…
『我々の力』と書いてあるそれの目次に、小さくだが『王族の力は、子供から』と言う文章があり、颯希はそのページを開いた。アンフォッシ家、中々やるじゃないかと心の中で褒める。
『王族の力は、子供から
王族に能力があるとされているが、実際にそれは不明です。ただ、多くの民は王族を見るたびに気持ちが良くなるとされ、もしかしたらそれが能力なのではとささやかれています。
その能力はどうやら子供のころから持っているらしいのです。
第八王・マルコ・ブレイン・フェシュネールはまだ年が二桁に達していなかったころ、そのお姿を民に見せたところ、民は今まで大人である王にしか感じたことのない気持ちの良さを感じたとされています。さらに、第十四女王・ファニ―・マン・ バルツァッリは十代の頃お姿を民に見せたところ、幼いころには感じられなかった気持ちの良さを感じたと記されています。
ほかにも、何名かいるとされている幼いころから、幼いころ見たときより、十代の頃に、二十代の頃に見たら気持ちが良くなる能力はどうやら子供の頃に根付くものだと推測されます』
たった一ページだけの項目だった。しかし、颯希は確実な情報を得たと思った。子供の頃に、能力を得るということだ。
それがもし、王族以外にも適用されるとしたら。今、各地から子供が誘拐されているのにも合点がいく。つまり、子供を奪い、能力を得ようとしているのだ。
しかし、と颯希はその思考を打ち破る。そのようなことが実際にできるのだろうか、と。
いい頭脳を持つ颯希は、今まで得た情報を少しずつ蓄え、構築し、一つの事実に近づいている。颯希自身、そう感じていた。
颯希はノートに書いた。
『王族は、子供の頃に能力が開花される。
今、亜妃は子供たちを誘拐している。』
ここできて、原点である疑問、亜妃は何者なのか少しだけ推測が出来てきた。もし、颯希の仮説が事実だとしたら、亜妃は王族に関係のある者だとされる。亜妃に宣戦布告した時の様子を思い出した。怯えるような、驚いたようなそんな後姿だった。
颯希は仮説をゆっくりとノートに書いていった。
『《仮説》
これはあくまで仮説だが、王族が能力を開花するように、一般人も、能力を開花するのではないか。確か、《一般の民から秀でる者同士が》と言う文章があった気がする。だから元来、一般人も王族も同じ者同士であり、同じ血が流れているはずだ。ならば、王族の子供のように、一般の子供もきっと、《能力》というものを手に入れることができるはず。能力については、文が見つかり次第追加していきたい。』
一息を置く。いつの間にか、個室内の空気が張りつめていた。三人が、颯希のノートを覗き込んでいる。
『つまり王族は、子供の能力を集めているのではないか? 能力というのがどのようなものかは知らないが、子供のうちに能力が開花するのだから、子供を集めている。ただしそれも、どんなものでも開花するのか、またいつ、能力が開花するのか。能力というものは開花するものなのか謎である。』
こう書いてみて、目的が分からなかった。子供を集めて、能力が集まるとして、そうしてどうなる? それは、亮も思ったようで彼は言う。
「目的が分からないな」
颯希が頷いた。
「集めて、もしそれが能力を集めることに等しいとするとその目的が分からない。第一、子供じゃなくても大人でも能力というのがあると思うし」
思わず、素の口調が出た。しかし、亮はそれを分かっていたようで敬語を使わない颯希を咎めることはない。
颯希の手がぴくっ動いた。
「しかし、不思議だな」
滉が言った。颯希と机を挟んで目の前に立っていた。
「なぜ、歴史の棚にはこういう記述がなく、しかもここの従業員は詮索無用だと言う。なぜ、これほど王族に関することが載っているんだ? アンフォッシ家に」
確かにそうだった。歴史の棚にはないし、入口の女の人もタキシードの人も「王族については詮索無用です」と言っていた。
腕組みをして考えたが一つ思った。あれ、滉、いつの間にわたしの行動を知っているの?
「滉ってさ、わたしの後つけたりしてる?」
「するわけねえだろ」
「じゃあ滉もタキシードの人に王族について知りたい、って聞いた?」
滉はだまった。なんでだ? と思ったとき、滉が恥ずかしそうに言ったのだ。
「悪かったかよ」
いいやつじゃないか、滉。恥ずかしがることなんてないぞ! そう思ったのは、誰にも言わないでおこう。
「いや別に。やっぱそうだよね。なんでアンフォッシ家について調べようと思ったのに、思いっきり王族について調べているのか」
「この本って誰が書いてるの?」
彩里が聞いたので、颯希は並べてあった本たちの背表紙を見た。全て名前が違ったが、最後に《アンフォッシ》とあったので、書いた人はアンフォッシ家だとわかる。
「アンフォッシ家の人」
「なら、アンフォッシ家の人たちは何か知っているのかもしれない」
亮が言った。その野太い声が、颯希に響く。
何か知っているのかもしれない。確かに、そうだ。
「うんうん! そうだよ亮、絶対」
颯希に確信が芽生えた。アンフォッシ家の人に直接会ってみたいと思った。
「アンフォッシの奴らに会わなきゃな」
滉だ。同じことを考えていたので、思わず顔を見る。滉の大きな黒い瞳に、吸い込まれそうになった。そして、大きく頷く。
「うん、そうしたい」
言いながらノートに書いた。
『謎追加
・王族に関することを本に書いているアンフォッシ家』
***
その夜、颯希は驚いた。図書館から出てすぐに右に曲がったところ、つまり亜妃が誘拐をしていたところより少し奥に突然開けた空間があり、そしてそこに、いくつものテントが立っていたからである。
小声で感嘆の声を口にし、そして褒めた。
「すごいね」
彩里は微笑みながら言った。
「ここには、たくさんの人が住んでるわ。ま、でも全員わたし達と同じ日本人とかヴィパルの住民とかだけどね」
なぜ日本に帰らないのか。颯希は思った。そしてその疑問を彩里にぶつけた。
「何でみんな帰らないの?」
「…………」
一瞬、目が細くなった。なんだ? そう思うが口には出さない。
「みんな、何かを思ってるのよ。……ここではそう言う詮索は無用。何も言わずに、何も知らずに、わたし達は家族のように固まって生きるのよ。今ここに、生を受けていることに感謝しながらね」
彩里はたまに変なことを言う。颯希は思った。いい人なのだ、という意識もある。何かを経験して、彩里は強くなったのだろうか。自分ではない強さと、大人を感じた。彩里は、強い大人だ。
ボーとしていると後ろから頭をはたかれた。
「いった!」
それがあまりに強かったので思わず涙目になった。後ろを振り向くと、滉が亮に殴られていた。
「いってー!」
どうやら、颯希を殴ったのが滉で、その音があまりにもでかかったのでそのお仕置きに滉が亮に殴られたようである。
「何すんだよ亮ちゃん!!」
「お前こそ、あんまり女の子をはたくな」
「そうよ、滉。めっちゃ痛いんだけど」
「……悪かったな」
亮と颯希に責められた滉は気分を損ねたのかズンズンと歩いて行ってしまう。
「早く来なさーい!」
彩里の声がして、亮と颯希も歩き始めた。
***
初めて見る颯希に、周りの人々が少しざわつく。颯希の髪の色を見てざわついているようだ。やはり、王族と同じなのだろうか。
歩いて行く颯希たちに声をかける者はいなかった。生憎と言うべきか、彩里たちのテントは、開けた場所の一番端っこで、入ってきた場所から一番遠い場所にあったのだ。軽くため息をついて亮に言った。
「やっぱり、髪の毛が不思議かな? きっと、王族と同じ色だし」
「そうかもな。言っておくが、まんまそうだぞ。髪の色」
亮は否定することなく受け入れた。今はそれで少し気が楽になる。
「うんそっか。でもここじゃあ、染めようにも染められないし」
そう一人で言った。それが彩里に聞かれたのか彩里は驚いたように言った。
「あら、染めなくていいじゃない。きれいな色よ、その髪の毛。ね、滉」
「俺に同意を求めるな」
いつの間にかテントについていたのか、滉は首だけを出してすぐに扉代わりの布を垂らした。ご機嫌斜めのようだ。
「まあ、しばらくはこのまんまかな。わたし自身、染めたくないし」
そう言いながら、彩里のテントに入った。
「亮、ついでに滉もおやすみ」
と言うと、ついでは余計だ! と言う声が聞こえ颯希は笑いながら彩里が用意してくれた布団に入った。




