10-キゾク-
あ~…前回この文章抜けていることに気づきました。→また、アンフォッシという王族に付き従う貴族が存在する。
彩里が出したもの、それは
「カラーコンタクト!?」
である。
颯希は驚いた。赤の色が付いたコンタクトレンズだった。ここにそんなものがあったのかと驚きを隠せない。
「まあ正確には、医療に使うもので目を直接的に外界から保護するためにつくられた物なんだけど、わたしも初めて見たときは驚いたわ。ああ、でも颯希が付けるのは黒のコンタクトよ。これは、わかりやすいように出しただけ」
といいながら、二重になっていた箱の、下の部分を開ける。黒いレンズが出てきた。
「これ、度は入ってるの? わたし、そんなに目が悪いわけではないから眼鏡をつけてもいないんだけど」
「大丈夫よ。さっき言ったでしょ、医療に使う物だって。まだここには、眼鏡と言う概念がないわ。電気製品があまりないから目が悪くなる心配もない」
なるほど。納得して、質問する。
「なんでこれをつけるの?」
「さっき滉が言っちゃったでしょ、顔よ、顔」
「お前の顔に問題があるんだ」
「それを隠すとしたら、手っ取り早いのが黒の目のカバー」
颯希の質問に彩里、滉、亮の順に応えられ、顔が何だと言われ多少苛ついてきた。
「わたしの顔のどこに問題があるのよ!!」
プッツンと切れてしまった堪忍袋の緒をもう一度つなげた。よし、まずは落ち着こう。
颯希の様子に、滉は昨日の怒られ方がトラウマになっているのか亮の後ろに隠れ、こちらをうかがっている。彩里と亮は顔を見合わせ観念したようにしかし核心には触れずに黒のコンタクトレンズをつけるように頼んだ。
「お願い、颯希。それつけなきゃ颯希は外に出さないよ」
「それつけなきゃ、捕まる。偉い人とかに」
言っていることがちぐはぐである。彩里に至ってはどこぞの監禁魔の言いかたで怖い。意味が全く理解できなかったが、彩里と亮の若干脅しが入っているその言葉に颯希はためらい気味に承諾した。
「ん~、わかりたいけどコンタクトつけるの怖そうだし」
「大丈夫! つければめちゃくちゃ安全! 目の病気には絶対かからない」
「痛くない、感じない、怖くないの三拍子!」
彩里と亮の絶妙なコンビネーションに颯希は気圧された。どこかにありそうな売り文句だ。滉は颯希から一番遠いところに陣取り、本を読んでいる。
「うーん……わかった。つける」
その一言に彩里と亮は満足げに頷き颯希に渡した。
「どうやってつけるの?」
コンタクトレンズのつけ方を教わり、颯希は今度こそと個室を出た。
***
先ほどの女の人には絶対に顔を覚えられていると感じた颯希は、違う人はいないかとうろちょろしながらまた、王族に関する棚はないかと動き回っていた。
さっきの女の人が言っていた、「王族については詮索無用です」はどういう意味だ? と考えながらこそこそと移動する。
詮索無用、それは暗に調べるなというのと同じこと。つまり、王族に関するデータはもう知っているのだから、調べることは駄目、もしくはできないと言っているのだろうか?
タキシードの男の人がいきなり前を通った。驚きながらも、声をかける。
「あの、お、王族について知りたいんですけど」
すると男の人は鋭い視線をぶつけた。自分より大きな相手にひるむが颯希は相手の目をしっかりと見た。男の人は
「王族については詮索無用です」
とだけ言い、その場を去った。
――やはり詮索無用、調べてはいけなのか?
颯希はそう考え、図書館の従業員は駄目だと思った。それと同時にきっと彩里たちは王族が何なのかを知っているのだろう。だからこその、さっきのコンタクトレンズの騒動。一向に答えにたどり着かない。
颯希はあきらめずに王族について、何かしらの本はないかと探した。
歴史の棚は駄目だな。きっと、王族が戦争を鎮圧して、だからわたしたちは忠誠を誓うみたいなさっきの内容があるだけだ。なら、歴史ではなくもっと直接的に王族にかかわりのある……。
そこで、先ほどのノートを思い出した。
確か階級のところに王族の直下軍を指揮する貴族の名前が書かれていた……多分、アンフォッシ家。
颯希の手がぴくっぴくっと動いている。これは颯希が考え事をしている時の癖だ。
颯希はアンフォっし家の名前を思い出し、ちょうど目の前を通ったタキシードの人に言った。
「アンフォッシ家について、まとめられている本はありますか?」
興奮していたのか、声が上ずった。その様子に少し驚きながらもタキシードの人は答えた。
「アンフォッシ家のことならば、「貴族」と言う棚がございますのでそこに」
言ったあと、深々とお辞儀をしてタキシードの男の人は去った。さっきの女の人みたいだったので、まさか、何かおかしい? と自問するが答えは現れない。
「貴族の棚」
はじめからそこに行けばよかった。そう思って、しかし、拳を強く握った。
「大丈夫、ヴィパルの過去から王族をさらけ出せる」
興奮気味に、しかししっかりとした言葉で颯希は小声でつぶやいた。
***
「貴族」と言う棚はすぐに見つかった。ただ今度は、一階にはなく、二階にあるのが難点だった。
貴族の棚の向かい側にも本棚は並んでいた。そこの本にチラリと目をやる。題目はかすれていて読みづらいが「暦」だろうか。
あんまり持つと重過ぎて個室まで戻れないかな? などと考えるがそんな心配をよそに、颯希は分厚い本を軽く十冊程度軽々と持ち上げた。だてに空手をやってはいない。
それにしても、アンフォッシ家についてだけで十冊以上もあるなんて。王族に近い貴族からしらみつぶしに調べて行こう。時間めっちゃかかりそう。そう思って、階段を下り、個室に入った。
個室には、大量の食事が持ち込まれていた。サラダに、チキン、香りからしてオニオンスープと思われるスープもあり部屋中オニオンのにおいで満ちていた。借りている本たちは一時床へと避難していた。その食事を見て、タイミングよく颯希の腹が鳴る。調べるのは昼食後ということになった。
「まだ午後が丸々残ってる。颯希、今日も帰るの? 今ってちょうど夏休みじゃない?」
「よくわかったね。その通り。宿題は軽く三日ぐらいあれば全部できる。自由研究の種も仕掛けてきた」
「がんばれ。こっちでのこともあるしがんばれ」
彩里に質問と激励の言葉を投げかけられた。質問、一つしか答えてないと思ったとき亮が言った。
「で、颯希は帰るのか?」
颯希は首を横に振り、
「今日は友達の家に泊まっていくっていう名目でこっちに来てるから最低でも明日の夜に帰れればいい」
「あら、じゃあ今日はどこかに泊まるの?」
「そのつもり」
とりあえず、当てはないが亜妃の家に転がり込もうと思っていた。
「亜妃の家でも行こうかなーっと」
すると、彩里は首を横に振り
「だめだめ、わたしのところに来なさい」
「えっ!」
滉だ。颯希より、滉が驚きを示すところからこの三人は一緒に住んでいるのかなと推測する。
「いいじゃない、別に。どうせ、テントは二つあるんだし」
どうやらテント暮らしをしているらしい。
「いいよ、俺は」
頷きながら亮が言った。残るは滉のみの了承となった。
「分かった」
溜息気味に了承されたのは少し癪に障るが、今日の宿を確保できただけでいい。
「でも、絶対俺と亮ちゃんのテントには来るなよ」
当たり前だろという言葉を、スープと一緒に飲み込んだ。
***
昼食を済ませ、颯希は、『貴族・アンフォッシ家~王族との関係~』という本を手に取った。何とも興味を惹かれる内容である。目次を見てみると、それぞれについて書かれており颯希は真っ先に『王族について』と言う項目を開いた。
そこに書かれていた文章に颯希は思わず、目を見張った。
次が年内最後。




