9-ホン-
颯希は家に帰った次の日、友達の家に泊まるという名目で再びヴィパルにやってきた。そのため、今日と明日はヴィパルにいることができる。何日も居座りたいが、そのたびにうその事柄をつくらなければならないし、今までやっていた勉強をしなくなってなんとなく罪悪感があるのだ。居座り続ければ、家に戻ったときに急激に襲ってくる眠気からどうにか逃れられるだろうなと思うのも本音だ。
地図を頼りに、図書館まで行った。今日は、ノートと筆記具を持ってきていたので調べた事柄はすべて記していくつもりだった。初めて見たときとまったく変わらないその雰囲気や外見は結構救われる。彩里たちは中にいるだろうかと思いながら手動で木製の扉を開けた。
颯希は昨日のうちに、何を調べるかを考えていた。ヴィパルの歴史、亜妃について、誘拐について。最後の二つは――特に亜妃については――調べるのには骨が折れそうだった。しかし、それも覚悟でここに来ているのだ。この二日間のうちに、できる限りのことは尽くそう。
「歴史」(いまごろだがパッと見は読めない)と書いてある棚のところに曲がると、昨日と同じ位置に滉がいた。
「滉」
「待ってた」
急にそう言われ、は? という風に困惑していると滉はすんなりと下りて颯希を追い越した。
「ついて来い」
多少命令口調なのに苛つくが、きっと彩里と亮がいる。ヨシッと気合を入れ、滉について行った。
ほどなくして、食堂の隣の部屋に入った。そこには、彩里と亮が居て、そして山積みの本があった。
あまりの本の量に絶句していると、彩里が声をかけてきた。
「颯希、調べるわよとことん」
どうやら彩里たちは、颯希のために関係がありそうな本を探していたらしい。嬉しくなってきた颯希は、大きく頷いた。
***
「こっちじゃない?」
「いや、こっちだろ」
「それじゃない。ここだ、ここ」
颯希より、三人の方が熱心に取り込んでくれて颯希は自分一人では絶対にできなかっただろうなと思えるほどの情報を手に入れることができた。それをノートに書き写し、颯希は満足げにノートを眺めた。
そのノートにはこう記されていた。
『《ヴィパルについて 歴史》
古来、一般の民から秀でる者同士が結婚し、やがて、一部の人間の中で結婚を繰り返していく中で発展した者立ちのことを王族という。
まずヴィパルには、身分制度がありこれは古くから続くものである。その身分制度を記す。
上から順に王族→貴族→農民→奴隷である。最近、奴隷制度はない。また、アンフォッシという王族に付き従う貴族が存在する。(ヴィパル・一目でわかる階級より)
現在、地球と同じ二〇一三年で紀元前もあった模様。ただし、地球より文明の発達が遅れているようだ。(見識)
さらに、ヴィパルには興味深いものがあり、どうやら黒魔術や錬金術などいわゆる特殊な力を使える者がいたという。(古くから伝わりし技より)
ヴィパルで戦争が起きると必ず王族によって阻止され、この国は王族によって成り立っている。国内での小さな戦争は古くから多数あり、その時、王族は身を乗り出して戦争を助けようとはしなかったが、一六一九年・北部の内乱が起きてからは活発に動きを見せた。今回は、その中で有名な戦争を抜粋し伝える。
一六一九年 北部の内乱
約三年続いた北部内部で戦争がはじまり、周りの関係のない人々が数名殺されると国が少人数の兵士でその戦争を鎮圧。物資が足りなくなると予想していたのか大量の物資また孤児となってしまった子供を引き取るなど、戦争が始まる前より良い環境へと整えた。王族が身を乗り出すこととなった有名な争いである。
一七二八年 南部・西部戦争
約十年間続いた戦争で、物資の配達が遅れた貧困な西部に富貴である南部が小さな攻撃を仕掛けたのが始まりとされているが、実際は逆かもしれないという説もある。
裕福で富貴な南部の人々は多数の武器で戦い、貧困な人々はやっと集められた武器で苦し紛れに戦ったとされている。西部の人々が降参の意志を持ち始めるまで戦争は長引き、数回の休戦を挟み王族によって終止符をうたれた。戦争が終わった後、国全体の経済が飛躍的に伸び、経済の発展のきっかけとなった戦争である。
一九六六年 アンニャの反逆
約1年で鎮圧された東部の戦いで、東部にある、「アンニャ」という少数民族による反撃である。反撃の対象は、アンニャをいいように酷使していた「キマセル」という部族で、これは王族から分離した部族でその体には〝王家の印〟が示されていた。
アンニャは彼らに疲れ果て、働いても得られない物資を狙い反逆を起こした。その激化を辿った戦いはひどいもので、反逆の意志のないアンニャも巻き込み、戦争を起こした。
結果、一年も経たぬうちに王族が現れその戦争を終わらせた。キマセルはほぼ全滅しておりその残った者は再び王族に迎い入れられ、王族が唯一非難された一件である。
これ以後、一九七二年に西部と東部で戦争(西部の人間が誤って東部の人間を射殺)、一九八五年に南部で戦争が起き(南部が川を挟んで二つの地域に分かれ、川の所有権でもめた)それからはこれと言って戦争は起きていない。否、もしかしたら各地域で小さな戦争は起きているのかもしれないがそれは起こした彼らの力で収まる。
王族により、大きな戦争は国全体に広まる前に抑えられ、我らヴィパル王国は王族によりつくられたと言っても過言ではない。我らは王族に感謝の意を示し、これからも王族のために生活・奉仕を続けていくべきだろう。(ヴィパルの戦争~王族により~より)』
といった具合に、大分浮き彫りになってきた。
ヴィパルは、王族によって成り立っている、王族につくられたと言っても過言ではない、という文があり、これが引っ掛かった。王族に対する情報が、まったくもってないからだ。これは、王族による意思なのだろうか。それとも、ここにいる三人がそれを意図的に外して持ってきているのだろうか。
俄然、疑いが強くなっていく。颯希は周りの人さえ、きちんとした情報を与えてくれないのではと思い始め、ここでは自分以外誰も信用しないでおこうと決めた。だから、颯希はお腹が減ったからと言う理由で部屋を抜け出し、歴史の棚へと急いだ。部屋に窓があまりなく、完全な個室で助かった。
「歴史」の棚には、「王族」と言う項目がなかった。滉が言っていた「図書検索機」は実は食堂の食券用の物で、それさえ知らない滉に唖然としたのを思い出す。
直接的に「王族」と言う棚がないか、入り口付近にいる女の人に聞いてみることにした。
「あの、「王族」と言う棚はどこにありますか?」
「王族については詮索無用です。私たちは彼らによりつくられ、彼らに忠誠を誓うことでここに存在することができています」
そして、深々とお辞儀をされ、手を握られた。
困惑している中、ジーと顔を見詰められもう一度お辞儀をされ、女の人はこう言った。
「私たちはどこにいてもあなた方の味方です」
ん? んん?
颯希は気づいた。ああそうか、王族に間違えられているのかと。ならば、そのまま王族ということで通したほうが楽なのかな? そんなことを考えていると食堂の方から彩里の声が聞こえた。
「颯希ー!」
そして、出てきた。彩里は、女の人に手を握られ、周りの人々がざわついている様子から何かわかったのか走って入口付近まで来て颯希の手をひったくり、そのまま引っ張って先ほどの個室に戻った。
「あ、彩里、ちょっと、何?」
「あんたは外に出るな!」
そう言いながらバンと音を立てながら勢いよくドアを閉めた。
「何で?」
彩里の質問に困惑気味の颯希に亮が言った。
「ちがう、ちがう、単純に外へ出るなじゃなくて、出るときは気をつけろってこと」
「何で?」
「お前の顔が危険だからだ」
「滉!!」
滉が言った。そのセリフを聞いた彩里と亮が滉の名を同時に叫んだ。
「別にいいじゃん、このぐらい」
「だめだろ」
「ねえ。亜妃にも言われたし」
「何を?」
「それは言えないけど」
彩里と亮と滉は、滉、亮、彩里の順でひそひそ話を繰り出した。ただ、この前の本棚のように狭い個室ではそれがダダ漏れである。
「おーい、聞こえてますよ~」
颯希は疲れた様子で言った。亜妃に何を言われたのか、気になるところだがそれを聞いたところで今のように答えてくれないだろう。
「まあとにかく」
彩里だ。ズボンのポケットから何やらごそごそとだし机の上に置いた。
「外に出るときはこれをつけて」
彩里が出したものに、颯希は驚いた。
う~ん、…ここの本は一応日本語ではない設定だけどその設定を忘れることが多いです。




