不法侵入系乙女
すごく久しぶりに書きました
一人称の作品です。
感想・評価を聞かせてもらいたいです
読んでくださってありがとうございました
「おかえりなさい、あなた」
そうやって俺を出迎えてくれたのは名前も知らない女性だった―――
「先生、さようならー」
「あぁ、さようなら」
セーラー服に身を包んだ女子生徒達の集団が校門の前で立っている俺に別れを告げて帰路についていた。
別段、おかしな光景ではない。俺はいつも部員達のアップ中に自分もアップを済ませてから合流しているのでストレッチをしている俺に挨拶していくのはここでは当たり前な光景だ。
ちなみにバスケ部の顧問だったりする。昔はバレーをやっていたからバレーの指導がよかったのだが希望通りにはいかないこともある。
しかし、高校の先生という昔からの夢を叶えてからおよそ二年。俺の中でこの仕事への意欲は高まるばかりである。
そんなわけで俺はいつも通りに部活で生徒達と青春の汗を流すのだった。
「しんどい」
顧問としての指導というのはやはり疲れる。楽しくても疲れは溜ってしまうものだ。
バスケ歴イコール教師歴と言うどちらも二年の駆け出しなのではっきり言ってまだまだだ。上手くいかないことのほうが多い。バスケも戦略とかの指導はできるようになったが、技術的には未熟だ。
しょうがない、と言いたいところだが何とか大会であいつらに優勝して欲しいと思ってしまうとやりきれなくなる。
そうこういってる間に家か。まぁ、誰も待ってないんだが。そんな若干自虐的なことを考えてると少し凹んだ。
「あ~彼女、いや嫁が欲しい。ただいま」
返ってこないはずの言葉にだったのに……
「おかえりなさい、あなた」
まさかの返事がきた。
「…………は?」
人間予想外の事態が起こったときには何も言えないかと思っていたが、こうなるのか。
いや、違う。今、考えるべきはそこじゃない。
「どうしたんですか?もしかして具合が悪いのですか?」
「いや、健康そのものだ……」
健康そのものだ、じゃないだろ俺よ。
「そうなんですか。じゃあ本当にどうしたのでしょう?」
知らない人が家に勝手にいて、しかもおかえりなさいとか言われたら普通こうなるだろ!と冷静に突っ込むこともできずに俺は目の前の女を凝視してしまっていた。
後に俺は考え直す。本当に冷静なら突っ込みもせず、警察に通報するか事情を聞こうとしたほうがまだ冷静だということに。
「あっ、分かりました!これを言って欲しかったんですね」
とりあえず現実逃避してそれにしてもよく見るとこの女美人だな、タイプだなんて考えていると恐ろしいことを言い出した。
「あなた、ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ、わたし?」
「お前で」
脊髄反射のレベルで返事をしてしまった。
見知らぬ女に何言ってんだ、俺。
「いや、今のはついというか咄嗟にだな……」
何とか言い訳を考えていると最早どうして家にいるのかなど問い詰める余裕も無かった。そこにすかさず追撃がきた。
「はい、分かりました。今から脱ぎます」
着ているエプロンから脱ぎだそうとする彼女に慌てて止めにかかる。
「待て!待ってくれ!脱ぐな!」
上手いこと言えずに単語での命令に彼女は首を傾げた。
「それは……着たままがいいということでしょうか?」
「違う!」
話が進まない。
それどころか一線を全力で飛び越えそうだ。
「とりあえず話を聞きたい。いいな?」
初対面に対する話し方ではないが、もうなりふり構ってはいられない。
「もうよろしいでしょうか?」
確認するようなその言葉に右手で頭を抑えながら小さく首肯する。
これはもしかしなくてもストーカーなのだろうか?俺の個人情報をほとんど知ってやがった……
まさか身長から俺の趣味まで知ってるとはな。趣味だけはあらゆる人間から隠し通してきたつもりだったのに。
「通報していいか?」
「いやです」
即答か。
しかもダメじゃなくていやってどういう返事だ。
「俺のストーカーなんだろ?ストーカーは犯罪だって事くらいは知ってるだろうに」
「確かにあなたから見ればわたしはストーカーです。でも……」
誰から見てもストーカーだ。
「でも、何だ?」
凛とその眼をこちらに向けて、彼女は胸を張って言った。
「わたし綺麗ですよ?」
「………………………………………」
絶句している俺に彼女は堰切ったように言葉を早口で紡ぎだした。
「それにスタイルいいですし、料理、というか家事全般できちゃいます。あなたのことを言葉で言い表せることが出来ないほどに愛してますし、運動だって嫌いじゃありません。胸だって大きいほうですし、あなたの趣味だって理解できますよ?他にも毎日お弁当だって作りたいって思ってるんです。それにわたしはあなたより4歳年下の二十歳です。法律にも触れないじゃないですか。年下ですよ?年下好みでしたよね?浮気の心配も当然ですけどありません。処女ですよ。あなたに純潔捧げたくて仕方ないんです。あ、だからといってあなたの浮気を許すつもりは無いですよ?子供だってきちんと産める身体ですよ。食べ物の好き嫌いもありません。ご近所付き合いも頑張ります。婚姻届だってもう用意したんですよ?あなたの実印一つでもうあなたのお嫁さんですよ」
なんというか、言葉も無かった。
確かに好みのタイプだ、それは認める。ただ不気味だと思ってしまった。
彼女の言葉は恐らく真実なのだろう。流石に先ほどの言葉を冗談として受け取れるほどのクソ野郎のつもりはない。
だからこそ不気味だ。
過去に出会ったことは無いはずだ。記憶喪失になった覚えも無い。
もし赤ん坊の頃に出会って運命を感じたとか言われたらどうしようもない。
一体どうして?
あれから沈黙が続いた。
グルグルと巡る俺の思考回路は未だに言葉を選べない。
彼女は穏やかに微笑んで俺を見ている。
美人だから、逆に恐ろしかった。
「どうして俺のことを好きになったんだ?」
搾り出すように言った言葉に彼女は嬉しそうに言った。
「わたしをおよめさんにしてくれるなら教えてあげます」
そんなに教えたくないのか。
「そうか、ならいい。質問を変える。はっきり言って俺はお前が不気味だ。最初は冷静じゃなかったから流されかけたが、今の会話というかお前自体にドン引きした」
「お前はやめて下さい。わたしは藍彩十和っていうんです。十和って呼んで下さい」
なんでそこに突っかかるんだ。
「お…藍彩は何でドン引きしたことに反応しないんだ?普通は好きな奴にドン引きされたら凹むだろ」
「十和じゃない……ドン引きしたことですか?別にあなたの反応は分かってたことでしたから」
ここにきて何で普通な思考回路してんだよ。
「まずはどう思われてでもわたしがこういう奴なんだって知っておいて欲しかったんです。もしあなたと結婚しても知らないまま結婚してたらきっと修復不可能でしたから」
「それは……そうかもな」
否定は出来ない。常日頃から監視してるんじゃないかってレベルのこの実態を知ってなお、心の底から信じることは俺にはできないかもしれない。
ですから、と彼女こと藍彩は優しく微笑んで言葉を続けた。
「たとえ最低からのスタートだと分かっていてもこうするのがいいって思ったんです。あなたと幸せになりたいから」
この瞬間に俺の運命は決まってしまった気がした。
「メアドと携帯の番号だ」
時間も遅かったので藍彩を送った道中でアドレスを教えた。
ストーカーを送る神経はどうかしているとは思ったが、見てくれは美人だ。夜道を襲われるかもしれないと思ったらこうすることがいい気がしたのだ。
「いいんですか?」
意外そうな表情で尋ねる藍彩になんと答えようか迷ってしまう。
「あーなんだ。その……あれだ。藍彩はストーカーだが、正直、美人だしここまで好きだと言ってくれたのは君くらいだからな。悪い気はしないんだ」
「それは脈ありということでいいんですか?」
どうなんだろうか。
今は付き合う気にはなれない。ここでいいとはなんとも言いにくい。
「多分……俺でもよく分からないが、友達から始めましょうみたいなもんだ」
「それを脈ありってわたしは思うんですよー」
くすくすと笑う彼女は可愛かった。
「藍彩はいいのか?俺は君に好きと言われて、美人だからって靡きそうになっているんだぞ?」
「いいんですよ。そういうところも愛してるんです。そうでもないとここまでしません」
気がついたら、不気味に感じた心は何処かに行ってしまった。
我ながら単純な男だ。
「もう不法侵入はやめるんだ。これから普通にお互いを知っていけばいいだろう?」
「そうですね、これからは直接想いを伝えられるなんて夢のようです」
その嬉しそうな表情を見てこれ以上一緒に居たらまずいと感じて別れを告げる。
「それじゃあ、またな。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
いつまでも手を振る藍彩に少し笑みが零れてしまった。
「おかえりなさい、あなた」
「だからなんで不法侵入するんだ、お前は!!!」
設定
教師の人
主人公・24歳・男
名前は考えてない
ストレートで教員採用試験まで辿り着き、なおかつ合格した頑張りもの
ちなみに趣味というのは二次元関連
かなり重症
昔は気弱だったが生徒に好かれて、舐められないようにと頑張って矯正した
趣味を隠すのは生徒にばれて舐められたくないから
藍彩十和
二十歳・女・ストーカー・ヤンデレ予備軍
とにかく主人公大好き
割と完璧超人な子
ありがとうございました