0☆プロローグから変人
お待たせしました。潜在能力は有効に使いましょう改稿版です。スタートからまず違いますよ。
……WHAT?
今の状況をわかりやすく日本語で言うと――部屋のドアを開くと、下着姿の女の子がいた。
しかも、ものすごい美少女だった。
澄み切った淡いサファイア色の瞳は依然と僕を見据えている。目を惹く幻想めいた銀色の髪と、ミルクのように白くなめらかな肌は見事なまでに調和され、おとぎ話のお姫様のような浮世離れした美しさを醸し出していた。
そして、そんな彼女に僕は思わず見惚れ……ん? 僕を見据えてい、る?
「…………」
「…………」
もう一度だけ言おう――部屋のドアを開くと、下着姿の女の子がいた。
その身につけているものと言えば、薄いピンクのブラとパンツのみ。黒のスカートを手にしているところを見ると、着替え中のご様子だった。
そして、部屋のドアを開けた張本人である僕を二つのつぶらな瞳が見据えている。
と、言うことは……
「間違えました」
僕はすぐさまドアを閉めた。
「ふぅ、危ない危ない。三秒ルールでギリギリセーフだね」
二コンマ五秒くらいだったな、と安堵の息を漏らす。
後ろに一歩下がって部屋の番号を確認すると、「六号室」と表記されていた。僕の部屋じゃない。
どうやら、部屋を間違えたようだ。まあ、よくあることだよ。
僕の部屋はこの隣――七号室だ。
(ガチャッ)
「いやあ、ひやっとしたよ……まさか、女の子が着替えてるなんて。ここがテキサスなら僕は蜂の巣だろうね」
「――待って」
「OH! ジョージィ、ナイスジョークだ! HAHAHA」
「あなたは、笹木涼?」
「…………はい、そうです。ごめんなさいもうしません許してください」
……誤魔化しきれなかった。
くそぅ、どうしてばれたんだ! ちゃんと三秒測ってたのに!
開いたのは僕の部屋ではなく、六号室のドアだった。言わずもがな、逃亡しようとした僕を呼び止めたのは下着姿の女の子である。いや、今はもちろん服を着ているのだが。
「そう……あなたが、笹木涼。私の……」
彼女は感触を確かめるように僕の名を口にする。
覗き加害者側である僕としては、今すぐにでもこの場から逃げ出したい。だけど……そうは問屋が卸さないという。
彼女は少しも表情を変えることなく、焦る僕を上目遣いに見た。
「私の裸……見た?」
「え!? いや、その……ちょっとだけ見えました……」
思わず正直に言ってしまった。何たる失態。
「それは困る。私、もうお嫁に行けない……貰ってくれる?」
「ぅぇっ!?」
「――冗談」
「な、なんだ……脅かさないでよ、もう……」
冷たい汗が頬を伝う。
無表情から繰り出される予想外の爆弾発言の連発に、僕はすべからく防戦一方だった。というか、まったくペースが掴めないでいる。
異様な雰囲気を払拭するため、僕は――
「君は、誰なの……?」と、僕は訊ねた。少し、初対面の相手に問う方法としては失礼かと思ったけど、今僕にできる唯一の応答だった。
すると――
「私の名前?」
「う、うん。そう、君の名前」
「今日隣に越してきた、リア。これからよろしく――涼」
まとめたように淡々と呟くと、リアと名乗った彼女はそそくさと自室である六号室へ戻っていった。
……
…………
「…………え?」
ドアが閉められてから、僕はたっぷりとその場で固まっていた。
予想してた事態は当然の如く、着替えの件で怒られるのだろうと思っていた。だが、本日からの隣人は何事もなかったかのようにその場を立ち去ってしまったのだ。
取り残された僕にはもう、何が何だかわけがわからなかった。
見ず知らずの男に下着姿を見られて何も言わないなんて、まるで…………はっ!?
「そうか、彼女は……痴女だったのか」
僕は……気づいてしまった。
隣人リアは、見られると興奮する性癖の人。
オブラートを省いて包み隠さず言うなら――そう、変人だった。