"七上八下"
掲載日:2026/09/15
居間に何者かが居るのは、扉の磨り硝子が透けて居る事からも明白だった
人物は恐らく身長170前後
以前友人がこのアパートに遊びに来た時と、同じくらいの身長に視える
強盗かとも思ったが、人影はやや前傾気味の直立を保ったまま動こうとしない
影は微動だにして居なかった
心がざわざわする
あまり足音を立てないようにして真暗な寝室に逃げ込むと、鍵を掛けた
扉に耳を当てて、居間の様子を探る
何の物音もしない
思えば、人影は一切の物音も無くあの場所に現れた
視間違いか幻覚か───様々な可能性を検討した
物音もせず動きもしない事から、あまり人間だとは思えなかった
ぎい、と音がして
僕は心臓が止まりそうになりながら、両手で自分の口を押さえた
音は僕の背後、寝室の暗がりの中から聞こえて居た
眼を閉じていても解るはずのドアノブを、空振りしながらようやく掴む
寝室から這い出て気が付いた
居間の磨り硝子の先から、人影が消えて居た
寝室の扉を閉じる
不意にアパートの窓が、だん、だん、と、手で叩かれる様な音で鳴り始めた
音の感じからするに、一つや二つの部屋では無い
僕は両耳を塞いで躰を丸め、廊下のフローリングにうずくまった
両眼を閉じる一瞬前
影が静かに動いて、僕の後ろに誰かが立つのが視えた




