後日談 第2話:フィオナ編『王女の忍び旅と、不器用な施し』
レムリアの街角。夕闇に紛れるように、深いフードを被った小柄な人影が、ギルド裏の食堂へと滑り込んだ。
席についたシュウの向かい側に、その人物は迷うことなく腰を下ろす。
「……ようやく、見つけましたわ。シュウ様」
フードを脱いだ先に現れたのは、プラチナブロンドの髪を揺らすフィオナ王女だった。
驚きに目を見開くリィネを余所に、彼女はシュウを真っ直ぐに見つめ、少しだけ不満げに唇を尖らせた。
「王都をあんなに早く発たれるなんて、酷い方。私の『お誘い』、忘れてしまったのですか?」
「……フィオナ。……王女が、こんなところに一人で来るな」
「一人ではありませんわ。護衛は撒いてきましたけれど。……それより、シュウ様。今日は私が、貴方に『お返し』をしたいのです」
フィオナは、震える手で大事そうに抱えていた小さな包みを開いた。
中から出てきたのは、少し形が歪で、表面がわずかに焦げた手作りのパイだった。
「王宮の厨房を借りて……いえ、少しお借りして、私が焼きましたの。あの時、貴方が食べさせてくれたシチュー。あの温かさを、今度は私が、貴方に届けたくて」
かつて荒野で凍えていた彼女は、今や自らの手で熱を分け与えようとしていた。
シュウは黙ってそのパイを手に取り、大きく一口齧った。
「…………焦げている」
「っ! ……それは、火加減が少し難しくて……。……でも、毒は入っていませんわ!」
フィオナは顔を真っ赤にし、隠れツンデレな本性を覗かせながら、シュウの手からパイを取り返そうとする。だが、シュウはそれをひょいと避け、二口、三口と食べ進めた。
「……だが。……王宮の凝った料理より、力が湧く味がする。……悪くない」
「……本当、ですか?」
フィオナの瞳が、ぱあっと輝く。
彼女はシュウの隣に詰め寄り、その逞しい腕に自分の細い指を絡ませた。
「次は、もっと上手く焼きますわ。ですから……また、私の国へも寄ってくださいね? これは、王女としての命令ではなく……フィオナとしての、お願いです」
シュウの強大なステータスを持ってしても抗えない、少女の純粋な熱。
王女としての誇りを脱ぎ捨て、一人の「恋する少女」としてシュウを見つめるフィオナの横顔は、王宮のどの宝石よりも眩しく輝いていた。
次回予告
王女の攻勢を黙って見ていられないのが、シュウの膝の上を独占するあの子です。




