後日談 第1話:リィネ編『琥珀色の再会と、ぴんと立った狐耳』
王都での激闘を終え、シュウが向かったのは中核都市レムリア。
かつて「ただのネズミを食った」と淡々と告げ、測定の柱を深紅に染め上げたあのギルドだ。
夕暮れ時、ギルドの重い扉が開くと、喧騒が一瞬で静まり返った。
今や「魔物喰い」の名は、絶望の象徴ではなく、生ける伝説としてレムリアに響き渡っている。だが、受付に座るリィネだけは、昔と変わらぬ凛とした佇まいで彼を待っていた。
「おかえりなさい、シュウ様。……いえ、今はもう『様』なんてつけると、貴方に嫌な顔をされてしまうかしら」
彼女の自慢の狐耳が、再会の喜びに耐えきれないかのようにパタパタと小刻みに揺れる。
シュウは無言で、カウンターに巨大な魔物の素材が入った袋を置いた。
「……リィネ。……こいつの査定と、飯を頼む」
「ふふ、相変わらずですね。王都で美味しいものをたくさん召し上がったでしょうに、結局私のところへ来るなんて」
ギルドの裏手にある、職員と親しい冒険者だけが使える小さな食堂。
リィネは手際よく、シュウが持ち込んだ『銀嶺の雷鳥』の肉を捌いていく。ジューという小気味よい音と共に、ハーブと魔物肉特有の濃密な香りが立ち込める。
「はい、お待たせしました。特製・雷鳥の琥珀揚げです」
差し出された皿の上で、黄金色に輝く肉。
シュウがそれを口に運ぶと、リィネはカウンター越しに身を乗り出し、期待に満ちた目で彼を見つめた。狐耳が期待でぴんと直立している。
「……あいつら(エレインたち)の料理も悪くない。……だが、お前の作る飯が、一番『ステータス』に関係なく、純粋に美味いと感じる」
「……っ!」
その言葉に、リィネの頬が林檎のように赤く染まる。
感情を隠すのが上手い彼女だが、尻尾だけは正直だった。 スカートの裾から覗くふさふさとした尾が、メトロノームのように激しく左右に振られている。
「……もう、ずるいです。そんなこと、他の女の子たちの前で言ったら大変なことになりますよ?」
リィネは少し困ったように笑いながらも、そっとシュウの隣に座った。
彼女は、シュウが「16,200」という人外の領域に達しても、初めて会ったあの日のように、ただ一人の少年として彼を見つめ続けている。
「どんなに強くなっても、お腹が空いたらここに来てください。貴方の胃袋を掴んで離さないのが、私の『固有スキル』ですから」
シュウは、幸せそうに耳を伏せるリィネの横顔を見ながら、静かに次の肉を口にした。
最強の男にとって、この狐耳の少女が作る「日常」こそが、何よりも守るべき糧だった。
次回予告
リィネとの穏やかな時間を過ごしたシュウですが、そこに「王女」が黙っているはずもありません。




