最終話: 再会の食卓、続く道
王都クロイツを覆っていた偽りの白銀は消え去り、空には抜けるような青が広がっていた。アルトリウスの失脚後、王宮のテラスには、これまでの重苦しい空気とは無縁の、芳醇な香りが漂っている。
円卓を囲むのは、シュウ、フィオナ、エレイン、そしてミーニャ。
中心に置かれた大鍋からは、かつて荒野でフィオナの命を繋いだあのシチューが、湯気を立てていた。ただし、今回は王宮の最高級岩塩と、シュウが「下処理」を終えた霊鳥の肉が使われている。
「……ああ、この温かさ。やはり、私の心を満たしてくれるのは、貴方の料理だけですわ」
フィオナが一口、大切そうにスープを啜り、頬を赤らめる。彼女は王女としての威厳を脱ぎ捨て、ただ一人の少女としてシュウを見つめていた。その瞳には、もはや「憧憬」だけではない、深く静かな情愛が宿っている。
「……シュウ様。もし、また旅に疲れたなら……いつでもこの国へ。貴方の席は、常にここに用意しておきますから」
フィオナの控えめながらも真っ直ぐな言葉に、エレインがわざとらしくスプーンをカチリと鳴らした。
「……ふん、王女様も随分と気が早いのね。でも残念だけど、この男の『器』を管理できるのは、私だけなの。楔の打ち直しを忘れたら、このシチューの味も分からなくなるわよ?」
エレインは毒づきながらも、シュウの左腕にそっと手を添える。その指先は、もう震えていなかった。かつての「贖罪」としての魔法は、今やシュウの熱を感じるための、彼女なりの「触れ合い」へと変わっている。
「……エレイン、味付けが少し薄いぞ。……お前の魔力くらい、尖らせてもいい」
「……っ、お喋りな口ね! だったら自分で調整しなさいよ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くエレイン。その隣で、ミーニャは既に満足げに目を細め、シュウの膝の上に身を委ねていた。彼女の尻尾は、シュウの脚に緩やかに巻き付き、その温もりを独占している。
「……シュウ。……王都の魚、美味しかった。……でも、アンタの隣で食べるのが、一番味がする」
ミーニャの金色の瞳が、穏やかに細められる。かつて「神子」を失った彼女にとって、今のこの時間は、何物にも代えがたい救いだった。
現在のステータス、16,200。
シュウは、自身の内側に積み上げられた膨大な力を見つめる。それはかつて「呪い」だと思っていたものだったが、今は違う。この三人の、そして故郷で待つリィネの体温を感じるための、確かな「盾」なのだ。
「……そろそろ、帰るか。……リィネが、新しい魔物の目撃情報を集めているはずだ」
シュウが立ち上がると、三人もそれに続く。
王都の門を出る際、フィオナはいつまでも手を振り続けていた。彼女の指先には、シュウが贈った「お守り」代わりの霊鳥の羽が握られている。
帰り道、春の陽光が街道を照らす。
エレインは相変わらず不敵な笑みを浮かべ、ミーニャは軽やかな足取りで先を跳ねる。
「……シュウ、次は、何を食べる?」
「……何でもいい。……お前たちが美味そうに食うなら、それが一番だ」
孤独に泥を啜り、暗闇で魔物を喰らっていた少年は、今、眩い光の下で、愛すべき仲間たちと共に歩んでいる。
最強のステータスと、最高の食卓。
「魔物喰い」の物語は、これからも、どこまでも賑やかに、そして美味しく続いていくのだ。
(完)




