饗宴の終焉 〜不純物の濾過〜
王宮地下、『聖遺物の祭壇』。
そこは、目を焼くような白銀の光に満ちていた。中心に立つアルトリウスは、祭壇に鎮座する古代の心臓――光の聖遺物と融合し、その全身から人の許容量を超えた魔力を溢れさせていた。
「ハハハ! 見よ、この神々しい輝きを! これぞ不浄を焼き尽くす、真の救済の光だ!」
彼の背中からは光の翼が広がり、その圧力だけで周囲の石柱が粉々に砕け散る。アルトリウスの意識は肥大化した自己愛と聖遺物の力に飲み込まれ、その姿はもはや「聖なる怪物」と化していた。
そこへ、シュウが静かに足を踏み入れる。背後には、黄金のオーラを纏い彼を支えるミーニャ、杖を構え鋭い視線を送るエレイン、そして祈るように手を組むフィオナの姿があった。
「……ようやく現れたか、魔物喰いの汚物め。その醜い紋様ごと、我が光の塵となれ!」
アルトリウスが長剣を振り下ろす。極大の光の奔流――王都の城門をも一撃で消し飛ばすほどの破壊の光が、シュウを飲み込もうと迫る。
だが、シュウは避けることすらしなかった。
「……眩しいな。……だが、それだけだ」
シュウが右手を無造作に突き出す。
直後、信じがたい光景が広がった。迫りくる光の奔流が、シュウの手のひらに吸い込まれるように収束し、まるで物理的な「質量」を持った粘土のように、ぐにゃりと歪んだのだ。
「な……!? 我が浄化の光を、手で掴んだというのか!?」
「……不純物が多いな。……灰汁が強すぎて、そのままでは食えたもんじゃない」
シュウの現在のステータス、16,000。
ミーニャの「神子守り」によって完璧に調律された彼の胃袋は、今や「概念」すらも咀嚼の対象としていた。シュウは、アルトリウスが放つ聖遺物の魔力を、その指先でこね、圧縮し、一つの「輝く球体」へと作り替えていく。
それは、魔力を「破壊の力」から「純粋なエネルギーの塊」へと濾過する、シュウ独自の調理工程だった。
「ヒ、ヒィッ……! やめろ、私の、私の神聖な力が……削ぎ落とされていく……!」
アルトリウスが絶望の叫びを上げる。シュウは彼自身には目もくれず、ただ、彼を包む傲慢な光の衣だけを、一枚一枚剥ぎ取るように喰らい尽くしていく。
最後の一口。
シュウがアルトリウスの胸元に残った最後の光を、指先で弾くように飲み込んだ瞬間、地下室を満たしていた眩い輝きは霧散した。
後に残ったのは、白銀の鎧をズタズタに引き裂かれ、魔力を根こそぎ失った男の姿。
「……ああ……あ……」
アルトリウスは、かつて自分が「汚物」と見下したシュウの足元で、ただの無力な人間として、ガタガタと震えながら地面を這い蹲っていた。
「……アルトリウス。お前の光は、誰の腹も満たさない」
シュウは、這いつくばる男を冷たく見下ろした。
「……一度、泥水でも啜って、自分の重さを知るといい」
人間を傷つけることすらしない、圧倒的な「格の差」による断罪。アルトリウスは名誉も力も、そして自負していた「正義」すらもシュウに完食され、ただの抜け殻となって王都の衛兵たちに引き立てられていった。
「……シュウ様!」
フィオナが駆け寄り、シュウの手をそっと取る。
「ありがとうございます……。貴方は、この国を蝕んでいた偽りの光から、私たちを救ってくださいました」
シュウは何も答えず、ただ少し疲れたように肩を回した。
「……腹が減ったな。……フィオナ、約束のシチュー、まだ間に合うか?」
その言葉に、フィオナは花が綻ぶような笑顔を見せた。
エレインは「……全く、あんな巨大な魔力を食べておいて、まだ入るの?」と呆れつつも、その瞳には柔らかな光を宿し、ミーニャはシュウの腕の中で、誇らしげに喉を鳴らしていた。
王宮の地下に、穏やかな風が吹き抜ける。偽りの饗宴は終わり、本当の「最高の食卓」が今、始まろうとしていた。




