黄金の盾、失われぬ絆
クロイツ王宮、その地下深く。外の喧騒が嘘のように静まり返った『聖遺物の間』に、アルトリウスの冷徹な声が響いていた。
「……準備は整ったか。この国の守護の要たる『聖遺物の光』。これこそが不浄を焼き、真実を暴く唯一の理だ」
彼の前には、かつてエルフの里を焼き払い、今またフィオナ王女を「保護」の名目で軟禁しようとする傲慢な正義が、白銀の鎧となって鎮座していた。
一方、シュウに用意された貴賓室では、異様な緊張感が漂っていた。
「……シュウ。あのアルトリウスという男、目が笑ってない。……あいつ、アンタを『食べる』より酷いことにするつもり」
ミーニャがシュウの膝の上に陣取り、ふさふさとした耳をぴんと立てていた。彼女の金色の瞳には、野生の直感を超えた、深い喪失の記憶が揺れている。
「……ミーニャ、お前は何を恐れている?」
シュウが、無造作に彼女の頭を撫でた。その大きな手が耳の付け根に触れると、ミーニャは微かに身を震わせ、顔を伏せた。
「私はさ……東の国で『神子』を守る一族だったんだ。……でも、守りきれなかった。強すぎる力を持ったあの子は、周りの期待と恐怖に押し潰されて、最後は自分を失って暴走した。……私は、あの子を殺して止めることしかできなかったんだ」
ミーニャの語る重い過去。彼女がシュウの傍を離れないのは、単なる憧れではない。魔物を喰らい、際限なく強くなっていくシュウの中に、かつて失った「神子」の面影を見ていたからだ。
「……二度も、大切な人を閉じ込めさせない。……壊させない」
彼女の指が、シュウの服を強く握りしめる。
その時、部屋の扉が乱暴に開かれた。現れたのは、顔を蒼白にしたフィオナ王女だった。
「シュウ様、逃げてください! アルトリウスが聖遺物の封印を解きました。彼は、貴方の体内の魔力を暴走させ、『魔物』として処刑する口実を作ろうとしています!」
フィオナの警告と同時に、王宮全体が激しい振動に襲われた。地下から噴き出す、眩いばかりの「聖なる光」。それは常人には祝福に見えるが、シュウにとっては、体内の魔物たちの残滓を掻き乱し、内側から肉体を焼き切る劇薬だった。
「っ……!」
シュウの左腕の紋様が赤黒く発光し、器が軋む音が部屋中に響く。
「シュウ! 駄目よ、今ここで理性を手放したら……!」
エレインが即座に杖を構え、震える指で『楔』を打ち込もうとする。しかし、聖遺物の光は彼女の魔力を弾き飛ばした。
「……私の番だ」
ミーニャが立ち上がった。彼女の体から、月光のような柔らかな黄金のオーラが溢れ出す。
「シュウ。……アンタは、あの子とは違う。……アンタは、自分で自分を喰らって、ここまで来たんだ。……私の命、全部使っていいから。……アンタの『盾』にならせて」
ミーニャがシュウの背後から抱きついた瞬間、荒れ狂っていたシュウの魔力が、嘘のように凪いでいった。これこそが、かつて東の国で失われた秘術――「神子守り」の真の覚醒だった。
暴走する力を鎮め、一つの研ぎ澄まされた刃へと変える黄金の調律。
「……体が、軽いな」
シュウが立ち上がる。現在のステータス、11,000。ミーニャの加護を得たその魔力は、もはや「呪い」ではなく、彼自身の完璧な一部となっていた。
「ミーニャ、よくやった。……フィオナ、案内しろ。……不味い料理を振る舞う料理人は、厨房から追い出さないとな」
シュウの瞳に、静かな怒りと、それ以上に強い「食欲」に似た闘志が宿る。
エレインはそんな二人の背中を見て、小さく口角を上げた。「……ふん、私の出番を奪うなんて、生意気な猫ね。でも……悪くないわ」
一行は、光の源である地下の祭壇へと突き進む。そこには、勝利を確信し、醜悪な笑みを浮かべるアルトリウスが待っていた。




