白銀の傲慢、静かなる品定め
翌朝、一行はついにクロイツの王門を潜った。
石造りの壮麗な街並み、行き交う豪華な馬車。活気に満ちた王都の広場に足を踏み入れた瞬間、場の空気が一変した。
「――止まれ。王宮の神聖な地を、その穢れた足で汚すな」
クロイツ王都、白亜の城門前。石畳を鳴らして現れたその男を、シュウは濁った瞳で見据えた。
白銀のフルプレート、純白の外套。手にする長剣から立ち昇る聖なる波動。かつて、夜の岩場でシュウの獲物を横取りし、「浄化」と称して霧散させた男――『白銀の聖騎士』アルトリウスである。
「……また貴様か。ドブネズミの分際で、この神聖な王都の門を潜るとはな」
アルトリウスは蔑みの色を隠そうともせず、鼻で笑った。その視線は、シュウの左腕に浮き出た不気味な紋様へと突き刺さる。
「以前警告したはずだ。魔の肉に指をかける出来損ないは、駆逐すべき魔物と同じだと。貴様のような汚物が、フィオナ様の招きを受けたなど、我が国の汚点でしかない」
「……相変わらず、やかましい男だな」
シュウは感情を排した声で応えた。
「お前の『光』は、眩しいだけで腹が膨れない。……俺の邪魔をするなら、今度はその鎧ごと噛み砕いてやる」
一触即発の空気。場に流れる緊張感は、かつてのワーム戦以上のものだった。アルトリウスが剣の柄に手をかけたその時、背後の城壁の上から鈴を転がすような声が響いた。
「そこまでになさい、アルトリウス。――シュウ様、よくぞお越しくださいました」
銀髪を春風になびかせ、フィオナ王女が姿を現した。彼女はアルトリウスの殺気など眼中にないかのように、真っ直ぐにシュウを見つめ、慈しむように微笑んだ。
「……フィオナ、久しぶりだな。腹が減っているなら、また何か作ってやる。……立ち話は凍えるぞ」
かつて荒野のテントで交わした、ぶっきらぼうな言葉。フィオナはそれを聞き、愛おしそうに目を細めた。
「ええ、楽しみにしておりますわ。貴方の振る舞ってくださる料理は、どんな高価な薬よりも、私の心を温めてくれましたから」
王女が「野蛮な魔物喰い」に対して向ける、明らかな憧憬の眼差し。それを見たアルトリウスの顔が、屈辱で歪んだ。彼はフィオナに跪きながら、毒を吐く。
「フィオナ様、騙されてはなりません。こいつは人間を辞めつつある怪物です。その証拠に、そのエルフを見なさい。彼女はこいつの『暴走』を恐れ、常に魔力で縛り付けているではありませんか」
アルトリウスの矛先がエレインに向く。エレインは杖を握り直し、蒼白な顔で彼を睨みつけた。彼女の瞳には、かつて故郷の里を「浄化」の名の下に焼き払ったこの男への憎悪と、それ以上に、シュウとの「繋がり」を暴かれたことへの焦燥が浮かんでいた。
「……アルトリウス。あなたは相変わらず、自分の物差しでしか世界を見られないのね。私が彼を縛っている? 違うわ。私は、彼の『真っ直ぐな強さ』を失いたくないだけよ」
エレインは言い切り、シュウの隣へ一歩踏み出した。それは協力者という枠を超えた、執着に近い寄り添いだった。
「……シュウ、私の。……あげない」
ミーニャもまた、シュウの袖を掴み、アルトリウスとフィオナの両者を牽制するように小さく喉を鳴らす。
王宮の晩餐会を前にして、アルトリウスは冷笑を浮かべた。
「……ふん、せいぜい今のうちに馴れ合っておくがいい。今夜の晩餐会では、我が国に伝わる『聖遺物』の加護の下、貴様の正体を白日の下に晒してやる」
アルトリウスが去った後、フィオナはシュウに歩み寄り、そっとその手に触れようとした。だが、その指先が触れる直前、リィネが割って入るようにシュウの世話を焼き始める。
「シュウ様、長旅でお疲れでしょう? お部屋で温かいお茶を淹れますね」
隣国の王女、古のエルフ、野生の獣人、そして献身的なリィネ。
四人の視線が交差する中、シュウはただ、王宮の奥から漂ってくる「未知の食材」の気配に鼻を利かせていた。現在のステータス、10,350。彼が求めるのは権力でも名声でもない。ただ、この騒がしい日常と、それを維持するための「糧」だけだった。




