ギルド帰還
ギルド『レムリア』の重い扉を押し開けると、湿った夜風と共に三人の影が滑り込んだ。
かつて、ボロボロになり、左腕を石化させて這うように戻ってきたあの夜とは違う。今のシュウの足取りには、大地を噛みしめるような確かな質量があった。
カウンターの奥、書類を整理していたリィネが顔を上げる。その瞳が、まっすぐにシュウを捉えた。
1. 報告と「事実」
「……リィネ。戻ったぞ」
シュウがカウンターに置いたのは、ベヒーモスの巨大な角。かつての彼なら、見るだけで足がすくんでいたであろうAランク級の残滓だ。
「……シュウ、様……」
リィネの声が震える。彼女は、かつて自分が温かなタオルで拭った、あの泥まみれで悲痛な表情を浮かべていた少年の姿を思い出していた。
今のシュウの腕は、もう石のように冷たくはない。衣服の上からでも分かるほどに、強靭な筋肉と、溢れんばかりの魔力が脈動している。
「山頂の『山砕きのベヒーモス』、討伐完了だ。……約束通り、一から叩き直してきた」
2. 見守る者、並び立つ者
「……信じられません。あの夜、あんなにボロボロだったシュウ様が、これほどの獲物を……」
リィネは震える手で依頼完了のスタンプを押しながら、シュウの隣に立つ二人を見た。
「ミーニャさん、エレイン(エイレン)さんも。……お怪我はありませんか?」
「……リィネ。……大丈夫。……シュウが、全部弾き飛ばした。……私は、横から少し突いただけ」
ミーニャが少しだけ誇らしげに、けれどリィネにだけは心を開いたような柔らかい声で答える。
「……まあ、あいつの無茶苦茶な成長には呆れるけれど。……リィネ、安心して。今のこいつは、もう誰かの助けを借りて這いずるようなタマじゃないわ。……少し、生意気すぎるくらいよ」
エレインが皮肉を混ぜながらも、その瞳にはシュウへの絶対的な信頼が宿っていた。
3. ステータスの意味
リィネは、シュウのギルド証を受け取り、魔道具にかける。
そこに浮かび上がった数値に、彼女は息を呑んだ。
【 ステータス:8,500 】
かつて敗北し、聖騎士に救われたあの日のシュウは、せいぜい1,200程度だったはずだ。それが今、数倍の厚みとなって彼女の目の前に立っている。
「……本当に、地道に、一歩ずつ積み上げてこられたのですね」
リィネは、少しだけ潤んだ瞳で微笑んだ。
彼女だけは知っている。この異常な数値の裏側に、シュウがどれだけの泥水を啜り、敗北の味を「咀嚼」して血肉に変えてきたのかを。
「ああ。……リィネ、あの時言っただろ。次はエレインに負担をかけず、ミーニャの速度を活かすと。……今の僕なら、それができる」
シュウは、かつてリィネが包んでくれた左腕を、力強く握りしめた。
「リィネ。……ランクBへの昇格手続き、頼む。……それと、今夜はこいつらと美味い飯を食いたいんだ。一番いい店を教えてくれないか?」
「……はい! 喜んで、シュウ様!」
リィネは、かつて抱いた寂しさを誇らしさで上書きするように、満面の笑みで頷いた。




