奪われた飢餓
「…………俺の、獲物だ」
地面に這いつくばったまま、シュウが低く唸る。
指先が土を抉り、爪が割れて血が混じる。顔を上げたシュウの瞳は、もはや人間のそれではない。魔物喰いの本能が、獲物を奪った「白い侵入者」を敵として、餌として認識し始めていた。
「返せ……。その光で、焼き飛ばした……俺の……肉を……ッ!!」
シュウが吼え、動かない左腕を無理やり引きずるようにして立ち上がろうとする。
バキバキと、エレインの『鋼の枷』が内側から砕け散る音が響く。魔法の拘束さえも、今のシュウの怒りが生む熱量には耐えられない。
「やめて、シュウ! 今のあなたじゃ、その男には――!」
駆け寄ろうとするミーニャの制止を、シュウの殺気が撥ね退けた。
目の前に立つアルトリウスは、汚れ一つない白銀の靴で、シュウが先ほどまで命を懸けていた戦場の土を踏みしめている。そのあまりの「清潔さ」が、血と泥に塗れたシュウには耐え難い侮辱に感じられた。
「……見苦しい。魔の力に心を侵され、理性を失い、獣のように地を這うか」
アルトリウスが冷淡に言い放ち、聖剣を鞘に納める。そのカチリという小さな音が、シュウには「お前の戦いには価値がない」という宣告のように聞こえた。
「貴様のような『バグ』が、この世界の平穏を乱すのだ。……本来ならここで断罪すべきだが、聖騎士の剣を、そのような汚物で汚すわけにもいかぬのでな」
アルトリウスはシュウを一瞥だにせず、踵を返す。
シュウの視界が、怒りで真っ赤に染まる。
喰らえなかった。強くなるための糧を、誇りを、目の前で「掃除」された。
シュウの喉から、言葉にならない獣の咆哮が漏れ出す。
それは、正義という名の傲慢に対する、境界線上の住人が放つ最初の宣戦布告だった。




