黒鋼の咆哮
シュウが岩陰を蹴り出した瞬間、それまで死んでいたような岩場が「鳴動」を始めた。
地面を割ってせり出したのは、鈍い光沢を放つ巨大な黒い塊。節くれだった金属の鱗が擦れ合い、キィィィンと耳を劈く高周波を撒き散らす。
「――デカい……ッ!」
ミーニャが短剣を逆手に持ち替え、低く呟く。その直後、ワームの巨大な頭部が時速百キロを超える速度でシュウへと叩きつけられた。
シュウは逃げない。
布を巻いた左腕を前に出し、正面からその衝撃を受け止める。
ズゥゥゥン!!
足元の岩盤がクモの巣状に砕け、シュウの膝が土に埋まる。だが、彼の瞳に宿るのは恐怖ではなく、獲物を前にした「飢え」だった。
「ミーニャ、行け!」
「任せなよッ!」
シュウを盾にして、その背後からミーニャが弾丸のように飛び出した。
ワームの死角へと回り込み、鱗の継ぎ目――わずかに露出した柔らかい肉を狙って短剣を突き立てる。しかし、鋼の鱗は彼女の必死の連撃を無情にも弾き返した。
「……硬すぎるわ。ミーニャ、一度下がりなさい!」
後方でエレインが杖を掲げた。
彼女の碧眼が鋭く光り、シュウの背中へと青白い「糸」のような魔力が伸びる。
「『鋼の枷』――連結開始! シュウ、今のあなたなら、その皮膚を砕けるはずよ!」
エレインの魔法がシュウの肉体に触れた瞬間、彼の血管がドクンと大きく波打った。
左腕の変色した皮膚が、ワームの鱗と同じ黒鋼の色へと侵食を強めていく。
激痛。だが、それ以上に凄まじい「力」が、シュウの拳に凝縮されていく。
「……喰らうのは、あとだ。まずはその殻を叩き割る」
シュウが吼え、ワームの懐へと踏み込む。




