塵も積もれば
固有スキル『魔物喰い』。
上昇値は、たったの0.01。
誰もが見向きもしなかったその欠陥スキルを、少年は三年の歳月をかけて「最強」へと昇華させました。
地道すぎる努力の末に手に入れた、圧倒的な暴力。
勘違いされ、蔑まれてきた少年の、容赦ない無双劇がここから始まります。
「――また、それか」
辺境の村、ルナールの外れ。夕闇が迫る森の入り口で、狩人見習いの少年シュウは、手元のナイフで小さな獲物を捌いていた。
獲物は『ツノネズミ』。子供でも倒せる最弱の魔物だ。
シュウがその肉をごくりと飲み込むと、脳内にだけ響く無機質な声が告げる。
【固有スキル:魔物喰い】が発動しました。
全ステータスが 0.01 上昇します。
「……たったの、これだけか」
シュウは自嘲気味に呟いた。
この世界では、十五歳になると誰もが神殿で『固有スキル』を授かる。強力な魔法、無双の剣技、あるいは商売の才能。
だが、シュウが授かったのは、魔物を食らうことで能力を得るという、忌々しくも地味な力だった。
しかも、得られる恩恵は雀の涙。
一度の食事で上がる数値はわずか『0.01』。
一般的な兵士の筋力が『100』だとすれば、シュウが彼らに追いつくには一万匹の魔物を食らわなければならない計算になる。
「おい、シュウ! またそんなゴミみたいな魔物を食ってるのか?」
背後から、村の同年代の少年たちが嘲笑いながら通りかかる。彼らは今日、村の守備隊から立派な鉄の剣を借りて訓練をしていた。
「そんな不気味なスキル、お前以外誰も欲しがらないぜ。大人しく畑仕事でも手伝ってろよ」
シュウは何も言い返さず、黙々とツノネズミの皮を剥いだ。
彼らには分からない。
シュウがこの三年間、毎日欠かさず、日の出から日没まで森に潜り続けてきた理由が。
(0.01は、ゼロじゃない)
最初の一年は、ただの地獄だった。
ツノネズミを百匹食っても、ステータスは『1』しか上がらない。体の変化など微塵も感じられず、腹を壊す日々が続いた。
だが、二年も経つと変化が現れた。
呼吸が乱れなくなり、重い荷物が羽毛のように軽く感じられるようになった。
そして三年目の今日。
シュウが食らった魔物の数は、累計で一万体を超えていた。
シュウは立ち上がり、軽く拳を握った。
その瞬間、周囲の空気がわずかに震える。
(今の俺の筋力値は……推定で『500』を超えているはずだ)
それは、王都の精鋭騎士すら凌駕する異常な数値。
だが、見た目は相変わらず痩せ型の少年のままだ。膨れ上がった魔力と身体能力は、内側へ、内へと圧縮されている。
ガサリ、と奥の茂みが揺れた。
ツノネズミではない。もっと巨大で、禍々しい気配。
「……ようやく来たか」
シュウの目が、獲物を見つけた獣のように細められる。
村の連中が「森の主」と恐れる、ランクCの魔物『フォレストベア』が姿を現した。
本来、十人以上の熟練冒険者が束になって挑む相手だ。
シュウは逃げない。
むしろ、待ちわびていた。
「こいつを食えば、0.01どころじゃない。もっと上が狙えるはずだ」
少年は、錆びたナイフ一本を手に、静かに地を蹴った。
その速さは、もはや人の目では追えない領域に達していた。
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