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第7回

   7


 てなことがあってから、その帰り道。


 真帆さんから心ばかりのバイト代を頂いてからの帰宅中、道の向こう側からスーツ姿の男性がてくてくと歩いてくるのが見えた。


 遠くからでも見覚えのあるその男性の顔に、わたしは思わず声をかける。


「こんにちは、また会いましたね」


「え? あぁ、キミは」


 軽く眼を見張るそのお兄さんは、自転車配達員でありバーガーショップの店員であるあのお兄さんだった。


 こうして連日会うとなると、まさかこのお兄さん、意図的にわたしに会うように調整しているのでは?


 というバカげたことを考えながら、わたしは首を傾げつつ、


「今日はスーツ着てるんですね」


「あぁ、これ? こっちが本業。あっちは副業だよ」


「へぇ、すごいなぁ、そんなに働くなんて。わたしには死んでもできそうもないや」


 お兄さんは軽く笑って見せてから、

「まぁ、今だけだよ。どうしてもお金が必要でね」


「そういえば、昨日もそんなこと言ってましたよね。色々お金が必要だって」


「あ、あぁ。まぁ、そうだね、色々ね」

 それから少しばかり空を仰いでから、

「――実はさ、付き合ってる彼女にプロポーズしようと思っててさ」


「へ? プロポーズ? お兄さん、結婚するの?」


「するっていうか、申し込むっていうか、まぁ、付き合いだしてからそこそこ長いからね。ここらでそろそろ一緒になりたいなって、そう思ってるんだ」


「あぁ、だからお金が必要ってこと? 結婚するのに」


「そう、そういうこと。婚約指輪とか、結婚指輪とか、結婚式の資金もそうだし、なにより結婚を機に引っ越したいとも思っててさ。貯金もないわけじゃないんだけど、全然足らなくて。しかたがないから副業してプロポーズと結婚の資金を貯めてるところってわけ」


「そっか、大変だなぁ。彼女さんとは? ちゃんと会えてるの? バイトばっかでデートとかもできてなかったら、本末転倒じゃない?」


 それに対して、お兄さんは苦笑しながら、


「確かに、最近はなかなかデートできてないかな。でもまぁ、彼女とはもう同棲してるから、毎日顔はあわせてるんだけどね」


「あ、もう一緒には住んでるんだ」


「そう。って言っても、部屋もそんなに広くないしさ。結婚したら子供もできるだろうし、もう少し広い家に引っ越したいって思ってるところ」


「んじゃ、彼女さんも、それに向けて副業してたりとか?」


「いや、彼女にはまだ秘密にしてるんだ。全部の準備が整ってから、プロポーズして驚かせたくってさ」


「はは~ん? なるほどなるほど」


 いい彼氏さんじゃないか。


 夢矢くんとは大違いって感じ?


 ……いや、いかんいかん。


 よそ様とうちの彼氏を比較したってしかたがない。


 お兄さんはお兄さん、夢矢くんは夢矢くんだ。


 真帆さんの元カレことシモフツさんも以下同文。


 よそはよそ、うちはうち。


 うん、納得しよう、納得しよう。


 ……でも、なんか羨ましい気はしないでもない。


「あ、今日もこれからバイトがあるんだ。急いでるから、またね!」


「あ、はい! お仕事、頑張ってくださいね!」


「うん、ありがと!」


 お兄さんはにっこり笑って口にすると、軽く手を振って小走りに去っていくのだった。

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