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第4回

   4


 その翌日。


 今日も放課後は神楽くんの家で魔女修行になるのかと思いきや、夢矢くん曰く突然おばあちゃんが魔女会議に呼ばれたらしい。


「会議? サバトでもすんの?」


「違う違う」

 夢矢くんは両手を振って否定する。相変わらず気弱な感じの可愛らしい男の子。その顔が柔らかく笑んでから、

「この近辺の魔女が定期的にやってる話し合いだよ。って言っても、ただみんなで一緒に晩ごはんを食べながら、世間話をして帰るだけみたいだけどね」


「なにそれ、呑み会みたいなもの?」


「まぁ、そんなもんかな」


「んじゃぁ、今日は夢矢くんとふたりで自習的な感じ?」


 すると夢矢くんは首を横に振ってから、

「あぁ、ごめん。実は今回は僕も一緒に行くことになってて」


「そうなんだ。なら、今日の修行はお休みかな」


「そうなるね。僕は行きたくないんだけどなぁ」


「なんで? 楽しそうじゃない、魔女の集まりなんて」


「……真帆さんが来るんだよ。絶対にからかわれちゃう」


「あぁ――なるほどね」


 本当に真帆さんのこと、苦手なんだなぁ。


 けど、そんな真帆さんにからかわれる夢矢くんの姿を思い浮かべるだけで、なんだか面白そうな光景だ。


「わたしも行きたいなぁ」


 からかわれる夢矢くんを見てやりたい。なんだったら真帆さんと一緒にからかい倒してやろうと思ったのだけれど、


「僕も那由多さんが一緒が良いって言ったんだ。魔女の修行を始めたばかりだから、挨拶するのにいいんじゃないかって。でも、まだ早いって。まだ魔女修行見習いの段階だから、もう少し待ちましょうってさ」


 ……魔女修行見習い。


 そうか、わたしはまだ魔法使いの弟子ですらないのか。


 ぐぬぬぬ……まぁ、しかたあるまい。昨日のこともある。まだまだ基礎的な魔法をコントロールできるようにならない限り、まともな修行にも移れないってことなんだろう。


「わかったよ」


 わたしは唇を尖らせながら夢矢くんにそう告げた。


 というのが、お昼休みのことである。


 そして放課後、わたしが久しぶりに親友のヒトミと一緒に遊びに行くことにした。


 近くのハンバーガーショップに立ち寄り、同じく学校帰りらしい学生仲間たちに混じって列に並ぶ。


「でも珍しいね、最近ずっと神楽くんとべったりだったのに」


 べったり? ヒトミに言われて、わたしは思わず首を傾げた。


「べったりってことはないかなぁ。夢矢くんの方があんまりべったりするようなタイプじゃないみたいだから」


「そうなんだ。やっぱ寂しい?」


 なんで疑問形?


 まぁ、そう改めて訊かれてみても、だ。


「そこまでかなぁ」

 自分でも意外なほど、わたしはあっさりそう答えた。

「この距離感に慣れちゃったっていうか、他に夢中になれるものを見つけちゃったからさ」


「なにそれ」


「じつはさぁ――」

 と言いかけて、そう言えばおばあちゃんから、あんまり魔女のことは口外しないようにって言われていることを思いだした。

「――あぁ、ちょっとね、神楽くんのおばあちゃんから、縫い物を習ってんの。小さくてかわいいぬいぐるみとか、アクセサリーとかさ、それが楽しくって」


 別に嘘ってわけじゃない。間違いなくおばあちゃんはぬいぐるみやアクセサリーを作ってるし、それには少なからず魔法がかかっている。その作り方を習っているのだって本当なのだから、別にこの説明でも良いだろう。


「へぇ、良かったじゃん。でも茜にそんな細かいことできるの? 結構大雑把な方じゃない?」


「にゃんだとー? そこまでじゃないやい!」

 と答えたところで、

「次のお客様、どーぞー」

 わたしたちの順番が回ってきて、カウンターのお兄さんが手を振った。


 わたしとヒトミはいそいそとカウンターに向かって、メニューを選ぶ。


 その時だった。


「――あれ? キミ、もしかして昨日の」


 その声に、ふとメニューから顔を上げてみてみれば、そこには昨夕の、自転車配達員のお兄さんの姿があった。


 今日はハンバーガーショップの制服に身を包んでいて、当然のように背中にバッグも背負っていない。


「あ、ど、ども。こんにちは」


「ん? 知り合い?」

 ヒトミが首を傾げる。


「ちょっとね、恋に落ちそうな展開になって」


「……なにそれ、どういうこと?」


「十字路でぶつかりそうになったの。自転車に乗ってたこのお兄さんと」


「え、マジ?」

 ヒトミがお兄さんの顔を見つめる。


 お兄さんは少しばかりバツが悪そうに、

「昨日はごめんね。あぁ、そうだ。お詫びと言っちゃなんだけど、何かおごろうか?」


 しまった、そんなつもりで言ったわけじゃないのに。


 どうにもひと言多くなっちゃうのはわたしの悪い癖だ。


「す、すみません、そんなつもりじゃ」


「いいよいいよ。どれにする?」


「ほ、本当に大丈夫です、お気持ちだけで」


「そう? 別にいいのに」


「それより、今日は配達員じゃないんですね」


「まぁ、色々ね。お金が必要でね」


 色々――なんだろうか?


 何にしても、バイトの掛け持ちってのもなかなかに大変そうだとわたしは思った。


 ……バイトなんてしたことないしなぁ、わたし。


 それからわたしとヒトミは会計を済ませる。


 番号札を貰いながら、わたしは改めてお兄さんに声をかけた。


「それじゃぁ、無理せず頑張ってくださいね、お仕事」


「あぁ、ありがと!」


 お兄さんは素敵なスマイルで、わたしたちに手を振った。


 ……そしてわたしはこの後しばらく、このお兄さんとやたら出くわすことになるのだった。

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