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第3回

   3


 俺がそこまで話し終えると、茜は何とも言えない表情を浮かべていた。


 どこか怯えた様子でもあり、魔法でどうにかなるものなのか疑問に感じているようにも見える。


 茜はしばらくの間、何度も左右に首を傾げてから、

「……お化け?」


「まぁ、お化け、なんじゃないのか?」


「うわぁ……」


「なんだよ、その反応は」


「お化けだなんて、ホントにいるわけないじゃないですかー」

 あはは、と茜はわざとらしい笑み(引き攣ったような笑み)を浮かべてそう口にした。


 いやいや、

「それをいったら、魔法だって似たようなもんじゃないか」


「そりゃそうですけどぉ……」


「お化けに魔法なんて効くのか? もしかして、アレか? ゲームみたいに火とか氷とかの攻撃技を喰らわせてぶちのめしたりするのか?」


「……さぁ?」


 おいおい、さぁってなんだよ。


 俺はやっぱり不安になる。


 そもそも本当にここは魔法の店なのか?


 魔法なんてもの、本当に存在するんだろうな?


 そんな不安が顔に出ていたのだろう、茜は、

「でもでも、真帆さんならなんとかしてくれると思いますよ!」


「本当か?」

 俺は胡乱に思いながら、

「ちなみにお前は、どんな魔法が使えるんだ?」


「わ、わたしですか?」


「見習いとはいえ、お前だって魔女なんだろう?」


「それは、まぁ、そうですけど」


「なら、なにか見せてくれよ」


「魔法ですか?」


「そう、魔法」


 茜は「う~ん」と少しばかり唸ってから、

「そうだなぁ……今のわたしには、これくらいなら」


 そういって、空中にすっとひと差し指を突き出した。

 俺の目の前、数十センチのところで、さらさらと宙に何やら文字を書き始める。


「え……おおっ」

 俺は思わず感心した。


 そこにはキラキラと虹色に輝く文字で、『那由多茜』と彼女の名前が記されていたのだった。


「ね? すごいでしょ?」


「……あぁ。すごい」


 俺がため息交じりにそう口にすると、吐き出された息に流されるように、さらさらとその文字は消えていった。


 とはいえ、だ。


「しかし、この魔法じゃぁ、さすがにアレには何の効果もなさそうだな」


「ないでしょうねぇ。自己紹介くらいにしか使い道ないんで、この魔法」


「自己紹介専用の魔法?」


「あとは、ちょっとしたメモ? なにせ、息を吹きかけるだけで消えちゃう程度のものなので。諸行無常ですよねぇ」


「なんか砂曼荼羅みたいだな」

 俺が笑うと、

「なんすか、それ?」

 きょとんとした顔で茜はいった。


 ……まぁ、知らなくてもしかたがないか。


 そんなことより、

「とにかく、そういう感じなんだ。早くアレをなんとかしてほしいんだ」


「わかりました」

 茜はこくりと頷く。

「わたしのほうから、真帆さんに伝えておきます」


「よろしくな」

 いって、俺はいったん帰ろうと後ろを振り向いた。


 ガラスの引き戸(摺りガラスになっている)に一歩足を踏み出したところで、

「――っ!」


 ガラスの向こう側で揺らめいていた例の黒い人影が、ゆらりと立ち上がるような動きを見せたかと思うや否や、ゆらりゆらりとこちらに近づき始めたのである。


「え? えぇっ!?」

 茜も驚いたように声をあげ、一歩退った。

「ちょ、ちょっとちょっと! こっち来てますよ、アイツ!」


「わ、わかってるよ! どうにかしてくれよ、なんか魔法あるだろ!」


「わ、わたし? そんな魔法、知りませんよ! 見習いですよ? 見習い!」


「や、役に立たねぇ奴だな、もう!」


「ひ、ひどい! そこまでいわなくたって!」


 なんて会話をしている間にも、黒い人影は徐々に徐々にガラスの引き戸のすぐ前まで歩み寄ってくる。


 まさか、開けたりしないよな? いきなり襲い掛かってきたりしないよな?


「ひぃ! こわい!」

 後ろで茜がアホみたいにビビりながら口にする。


 黒い人影の腕が、ガラスの引き戸の取っ手にかかる。


 ――マジか! まさか、本当に……!




 ガラガラガラ――




「……あら? お客様ですか?」


 引き戸が開いて現れたのは、長い黒髪のひとりの綺麗な女性だった。


 女性はぱちくりと瞬きをしてみせてから、

「いらっしゃいませ。どのような魔法をお探しですか?」

 そう口にして、にっこりと微笑んだのだった。

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