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第2回

   2


 あれは二週間ほど前のことだった。


 俺は仕事からの帰宅途中で、点々と照らす街灯の並ぶ薄暗い道を、ひとりとぼとぼ歩いていた。


 辺りはしんと静まり返っていた。


 耳をすませば遠くからわずかに人の声が聞こえてくるような気もするが、草むらから聞こえてくる虫の声にかき消される程度のものだった。


 時刻は深夜零時すぎ。


 こんな時間まで残業をする羽目になったのは――まぁ、その話はおいておこう。


 とにかく、あたりは本当に真っ暗でさ、曇っていたから月も出てなきゃ星もない。


 町はずれの古い住宅街で街灯も少ないから、至る所に濃い闇が落ちている、そんな具合だった。


 俺の家までは、あと数百メートル程度の距離。


 道の左手には小高い山の上に神社があって、長い石段が下まで伸びていた。


 その石段のふもと、道を挟んだ向かい側にはデカい石の灯篭みたいなのがどんと立っている。


 確か、紀元二千六百年記念燈……だったかな?


 その灯篭のすぐそばには、今では珍しい公衆電話のボックスがあってな、それが闇の中でぼんやり浮かんで見えて、とにかく不気味な感じなんだ。


 ホラー映画みたいに今にもそこに黒い人影とか現れて、じっとこっちを見つめてきそうな、そんな印象を俺は毎晩その前を通るたびに感じていた。


 ……そう、そうなんだ。


 だから最初は、ただの見間違いだと思っていたんだ。


 どういうことかって?


 だから、見たんだよ、もやっとした黒い人影を。


 二週間前のあの夜、俺ははっきりとアレを――黒い人影を目にしたんだ。


 俺は驚いて、目を逸らして、きっと見間違いだと思って急いで帰った。


 ……けど、それは見間違いなんかじゃ決してなかった。


 あれ以来、その黒い人影は、いつまでも俺の後ろをついてくるようになったんだ。


 ぴったり背中に、ってわけじゃない。


 数メートル後ろを、まるで俺を監視するみたいに、ずっとついてくるんだよ。


 ……わかるか? ほら、あの後ろの扉の向こう側。


 今もそこに黒い人影があって、こっちを見つめているだろう?


 ……見えない?


 そんなはずはない。


 ほら、うっすらと見えてるだろ?


 ――そう、アレだよ。


 アレがずっと俺を付け回すんだ。


 家に帰ってからも、窓の外からじっと俺を見つめている。


 道を歩けば、数メートル後ろをずっとつけてくる。


 会社に行けば、やはり窓の外から俺を見つめていて、どうかすると社内にまで入り込んで、俺の様子を離れたところからずっと見つめてくるんだ。


 ――わかるか? 俺の気持ち。


 確かに今のところは何の害もない。


 この二週間、ただ黒い人影がいつまでも俺のあとをつけてきて、見つめてくるだけだ。


 けど、アレがいつ俺を襲って来るかと思うと、怖くて怖くてしかたがないんだ。


 もやっとしてた姿が、だんだんはっきりした人の形に見えてきてるような気もして――


 ……え? あぁ、そうさ。


 だから俺は、近くのお寺に相談してみた。


 俺は霊能力者なんてものを信じてなんかいなかったし、幽霊だって――たぶん、信じてなんかいない。


 けど、藁をもつかむ気持ちで、お寺の坊さんに相談してみたんだ。


 坊さんは「なるほどなるほど」と俺の話を全部聞いてから、これを渡してくれたんだ。


 ほら、『魔法百貨堂 楸真帆』って書いてあるだけの、この名刺。


 どこにも住所や電話番号なんて書かれてない、ただの紙っ切れ。


 この店はどこにあるんだって、坊さんに聞いたら、とにかくこの名刺を持って歩いていれば、勝手に辿り着くからって、そういうんだ。


 そもそも怪奇現象で相談したのに、坊さんがくれたのは魔法の店の名刺だけだ。


 本当に大丈夫なのか、って坊さんに訊ねたら、坊さんは「彼女がどうにかしてくれる」ってそう答えるばかりで、住所も電話番号も教えちゃくれない。


 しかたなく、俺は坊さんのいうことを信じてこの名刺を片手に道を歩いてるうちに、この店に辿り着いた、そういうわけだ。


 なぁ、本当にこの店でなんとかしてもらえるのか?


 魔法であいつを退治するとか、そういうことなのか?


 っていうか、そもそも魔法なんてもの、本当にあるのか?

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