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第10回

  10


 折り鶴を追いかけていくと、予想通りそこは真帆さんの魔法百貨堂だった。


 折り鶴はバラの中庭をふわりふわりと漂うようにはばたきながら、四阿の方へと飛んでいく。


 四阿のテーブルと椅子には真帆さんが腰かけていて、折り鶴は真帆さんが上に向けて伸ばしていた右手の人さし指の上に羽をおろすように、ぴたりと止まったのだった。


「――いらっしゃい、茜ちゃん」


 にっこりと、けれどどこかニヤリとした感じの笑みを浮かべる真帆さんに、わたしは頬を膨らませながら、


「真帆さん、もしかして最初からわかってたんですか?」


「なにがです?」


「あのお兄さんと心音さんのこと」


「はて? なんのことやら?」


「誤魔化さないでください」

 どうせ詳しいことは教えてくれないんだろうけど、

「ちょっとくらいは、どういうことか聞かせてくれてもいいでしょ?」


 すると真帆さんは、「そうですね」と口にして、

「お茶でもどうですか?」


「とうぜん、いただきますとも」


 わたしも真帆さんの向かいの椅子に腰かける。


 真帆さんはカップに紅茶を注ぐと、わたしの前にことりとそのカップを置きながら、

「心音さんがあの薄めた惚れ薬を使わないのはわかっていました」


「どうして?」


「勘です」


「勘?」


 なんて曖昧な。


「勘って馬鹿にならないものですよ。特に、私たちのような魔力を持つ者にとっては、直観的なものは幻視に近いものなので。魔女の占いとかもこれに相当するものだと思ってください。もちろん、絶対的な幻視ではなくて、あくまで直観的なものなので、あたりはずれも当然あるんですけどね」


 わかるような、わからんような。


 つまり、魔女には勘が頼りになるってこと?


 う~ん。そういわれてもなぁ。


「……それで?」


「特に心音さんの感じからして、あの薬を使うようなタイプの方には見えませんでした。なので、あの薬はちょっとした時間稼ぎのようなものです。その間に私はこの折り鶴で心音さんの彼氏さんの様子を窺ってみた、と」


「なにそれ、探偵の調査みたいな。真帆さん、そんなこともすんの?」


「そうですね」

 と真帆さんは小さく頷いて、自分の紅茶をひと口飲んで、

「どんな魔法が適切なのか、それを知る必要がありましたから。心音さんの言葉だけを信じても、それが適切な魔法だとは限りませんからね」


「つまり、適切な魔法が何なのかを調べるために、折り鶴で彼氏さんを調べていた?」


「そうですそうです」


「それで、結果はどうだったの?」


「魔法の必要はなし。時が解決してくれる、ということでした」


「え~、なにそれ」


「それについては茜ちゃんの方が詳しいのでは? なにしろ、なにかと心音さんの彼氏さんと接触してお話をしていたわけですから」


「いやいや、それはただの偶然で――」


 手を振るわたしに、けれど真帆さんはにやりと笑んでから、


「――本当に、偶然だと思いますか?」


「……えっ?」


「誰かがなにかでいってましたよね。偶然なんてない、あるのは……ってやつ」


「それ、漫画とかアニメの話じゃないのさ」


「だとすると、私たち魔女や魔法使いの存在すら否定することになっちゃいますよ。魔法なんてもの、普通は誰も信じないでしょ?」


「それは、まぁ、そうだけど……」


「その縁は茜ちゃん自身の魔力が引き寄せたもの、と考えてもいいかもしれませんね」


 もちろん、確証があるわけではありませんが。


 そういって、真帆さんはにっこりと微笑んだ。


「じゃぁ、あのクマのぬいぐるみは? あのぬいぐるみをつくったのは、わたしがここに初めてくる前だったはずだけど、どういう魔法がかかっていたの?」


「特にこれといった特別な魔法は、なにも。いったじゃないですか。ふたりの幸せを願ってって。その程度の魔法ですよ」


「本当に?」


「本当ですよ?」


 うむむ、なんか微妙に信じられない。


 だって、明らかに心音さんはあのとき――?


「納得していただけましたか?」


「納得……したような、してないような」


 う~ん、なんとも言えない。


 真帆さんのいってること、わかるような、わからないような?


 思わずわたしは首をひねる。


 肝心なところが説明されてないのは間違いないけど、この感じだと教えてくれそうな気もしないわけで。


 それを見て、真帆さんはくすりと笑んで、

「まぁ、そのうちわかるようになりますよ。このまま魔法使いの修行を続けていれば」


「そんなもんですか?」


「そんなもんです」


 そのとき、店の中からぼ~ん、ぼ~ん、と低い鐘の音が聞こえてきた。


 そういえば、店の中に大きなのっぽの古時計があったような?


「あ、そろそろ閉店時間ですね」

 真帆さんはいって、ティーポットとカップをトレーに戻しながら、

「茜ちゃん、閉店のお手伝いしてくれますか?」


「バイト代、もらえるなら」


 真帆さんは苦笑して、

「まぁ、いいでしょう」


「やった!」


 わたしはガッツポーズをしてみせてから、真帆さんとふたり、並んでお店の方へと向かうのだった。




 ……ひとりめ、おしまい。 ふたりめにつづく。

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