幽響死声(終)
その日、帰り道に大通りを選んだ。
ほんの気まぐれである。
見飽きた道を歩いていると、
程なくして、人が落ちてきた。
聞く機会のない、ぐしゃりという音。
人が落ちて死んだのは明白だった。
アスファルトには紅色が流れていく。
限界を留めていたのは長い黒髪と。
白く、細い腕だった。
その一連の映像は古びた本に挟まれた、
白い百合の花のように見えた。
それが誰なのか自分はわかっていたかも知れない。
集まってくる人を無視してその場から離れると、パタパタと音を立てて透馬が追いついてきた。
「玄華さん、今の飛び降り自殺でしたね」
「ああ、そのようだね」
……曖昧に答える。正直あまり興味がなかった。
その当事者の決意がどうであれ、自殺は自殺として扱われる。
彼女の最期は墜落のいう単語でまとめられる。そこにあるのは“虚”だけだ。興味が持てる筈ない。
「先月は多かったって聞きましたけど、また流行り出したんでしょうか。でも俺、自分で死んじゃう人の気持ちわからないな。玄華さんは解ります?」
タバコを咥えて、空を見上げた。
「自殺に理由はない。たんに、今日は駄目だっただけだろう」