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中華王朝史記

ヤオ族と八犬士の共通点に思い至った向学心旺盛な王女殿下

作者: 大浜 英彰

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 我が中華王朝の次期天子であらせられる愛新覚羅麗蘭(あいしんかくられいらん)第一王女殿下は、誠に向学心旺盛な御方。

 上書房での勉学だけには飽き足らず、暇を見ては紫禁城の書庫に収蔵された資料やタブレット端末等で読書に勤しまれているのです。

 この紀志喬(き・しきょう)、殿下の教育係を務める太傅として喜ばしい限りですよ。

 私も向学心旺盛な殿下の御力になれますよう、殿下の御質問には速やかにお答え出来るよう努めている次第です。


 この日も私は例によって、書庫から御戻りになられた殿下から御質問を賜わったのです。

挿絵(By みてみん)

(わらわ)は先程まで『南総里見八犬伝』という日本の書籍を華語に訳した物で読み進めていたのじゃが、その八犬士は里見家の姫である伏姫と霊犬の八房との間に生まれていた。これと類似の話は、我が中華にもあったのう?」

 どうやら殿下は先月の公務で千葉県館山市を訪問された事から、彼の地に縁の古典である「南総里見八犬伝」に御興味を抱かれた御様子。

 そうした御公務を切っ掛けに友好国や我が中華王朝の伝説に目を向けられるのは、次期天子として良い心掛けで御座いますよ。

 ならば私も、殿下の御勉強の一助となる御答えをせねばなりませんね。

挿絵(By みてみん)

「仰る通りで御座います、殿下。殿下が仰るのは、ヤオ族の起源に纏わる『槃瓠神話』の事に御座いましょう。」

 私の一言に、殿下は「我が意を得たり」とばかりに力強く頷かれたのです。

「その通りじゃ、太傅よ。『南総里見八犬伝』では『敵将である安西景連の首を取った者を娘の伏姫と添い遂げさせる』という里見義実の約束を違えぬため、伏姫が霊犬の八房と添い遂げた。これは『槃瓠神話』における、『犬戎の指揮官である呉将軍を討ち取った龍犬の盤瓠に高辛氏の娘が嫁いだ』という伝承と一致する。そして伏姫と八房との間には八犬士が、高辛氏の娘と盤瓠との間には後のヤオ族の祖となる者達が生まれたのじゃ。」

「厳密には犬では御座いませんが、チンギス・ハーンを輩出したモンゴル族の祖は蒼き狼ことボルテ・チノであると『元朝秘史』にも記されておりますね。」

 このボルテ・チノこと蒼き狼が、モンゴル族やチンギス・ハーンの異名となったのは、改めて申すまでもない周知の事実で御座いますね。

 そうして各民族の伝承を比較される事で、殿下はこの真理を自ずと学ばれたのでしょうか。

 自発的な学習意識の高さは、正しく次期天子たるべき者の資質。

「然りじゃ、太傅。神聖なイヌ科の動物が一族の祖であるという伝承は、このアジアにおいては普遍的な概念と呼べるのかも知れんな。そうした文化的共通点を足掛かりにするのも、今日の国際交流の一つの在り方かも知れんのう。」

「仰る通りで御座います、殿下。地理的文化的共通点を接点とする国際交流は、姉妹都市宣言を始めとする様々な形で盛んに行われております。」

 一を聞いて十を知る。

 そんな聡明で向学心の厚い殿下の才能をより良い方向へ伸ばせますよう、太傅の私も一層に奮起しなければなりませんね。

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