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王族達の動き

やっと安定してきました。

「まさか、姫君が……!」

 「本当に女神が、神託を……?」

 「これは、……もはや“奇跡”ではないか?」


王城の一角、貴族たちが集う応接の間がざわめいていた。

女神エリスの声が王都中に響いたその瞬間から、あらゆる派閥が動き出した。情報をかき集め、騎士を走らせ、使者を放ち――。


その中心にあるのは、「アン・エリシア聖環母協会」。

この王国をはじめ、大陸においても屈指の影響力を持つ大宗派である。

女神エリスを“天上の存在”としながらも、彼女自身が実在し、干渉すらしてくる――そんな異質な宗教組織。


「宗教とは信じるもの」とされるこの世界で、“信じざるを得ない存在”がトップにいる。

多くの者が口にはしないが、内心ではこう思っている。

――「結局、教皇が女神に置き換わっただけだ」と。


だが、その違いは――致命的だ。


貴族たちは皆、まるで“手札を配り直された”かのように席を立ち、目を伏せ、思案に沈む。

「女神の声」「第一王女の帰還」――

この二つの事実が一夜にして王都を揺るがせた。


「ついに始まったのだ」

そんな噂が、誰からともなく広まっていた。

期待と不安がないまぜになった視線が、やがて“王国の新しい時代”を見つめ始める。


 アリステーゼ王国――

 女神の声によって、大きく動き出そうとしていた。


応接の間の隅々では、名もなき貴族たちがひそひそと声を交わしていた。

 誰が先に動くのか。誰が誰を見限るのか。

 忠誠心などただの飾りにすぎず、彼らにとっては、今この瞬間が“椅子取りゲーム”の開始だった。

 「……フレイ家はどう出る? あの老狐は女神派に寝返ると見ているが」

 「いや、あそこは保守だ。今さら第一王女に賭けるほど愚かではあるまい」

 「しかし、“神託”だぞ? 女神の声に逆らって生き残った者はいない……」

 かすかな溜息が、いくつも交錯する。

 「ドレイラ子爵が手を引いたら、南部連盟は崩れる」

 「ルディウス殿下が握るはずの軍権も――もうあやしい」

 「ならば、第三王女イヴァリン様か。あのお方なら、実利を最優先するはず……」

 火種が、そこかしこでくすぶり始めていた。

 誰もが探り合い、誰もが裏切りのタイミングをうかがっていた。

 この王都の空気が、どこまでも“腐っている”ことを、貴族たちは熟知していた。

 「もはや忠誠ではなく、損得でしか動けん……」

 誰かの呟きが、ひどく静かに、重く落ちる。



 駆け込んできた女官の慌ただしい足音と、廊下から聞こえる喧噪。

 それをよそに、第三王女リディアは優雅に鏡台の前に座り、静かに己の姿を見つめていた。


(全く……大変なことになったものね。女神の声、そして……お姉様の帰還)

(これから何が起こるというの?)


 けれど、こういう時こそ――心を乱してはならない。

 リディア・アリステーゼは、鏡越しに自分の瞳を見つめる。

 端正な顔立ち。その奥にある冷静さは、まだ揺らいでいなかった。


「大丈夫。いつも通りにやるだけよ……」


 扉が開かれ、女官が飛び込む。

 「第四王妃様のご機嫌が……ひどいものでして……」


 続いて、別の貴族が言葉を引き継ぐ。

 「そりゃそうでしょう。第二王子を蹴落とす機会をうかがっていたのに……

 まさか“本物”が戻ってくるとは」


 「しかも、神託付きでな。中立を貫いていた我々も、動かねば“信仰に背く”扱いをされかねん」


 確かに――リディアも、そう思っていた。

 情勢は、もはや動き出してしまったのだ。


 「……システィーナ様は、昔は優しかった」

 「だがもう、あのお方は“いない”と思っていた」

 「それが――戻ってくるなんて。しかも実の娘を伴って……私は、どうすればいいの?」


 一瞬の静寂が、応接の間を包む。


 「信仰か、忠誠か、それとも……生き残りか」

 誰かが吐き捨てるように呟いたその時――


 杖を突いた老騎士が、ゆっくりと立ち上がる。

 「我らには……まだ、誓いを捨てていない者もおる」


 その静かな声に、数人の貴族がぎくりと振り返る。


 「姫が戻られたのなら、たとえ老骨でも……我が剣は再び、彼女に捧げよう」


 ――失われた誓いが、静かに、しかし確実に息を吹き返していた。


 その様子を見ながら、リディアはただ黙っていた。

 まだ動くときではない。

 彼女は再び鏡の中の自分を見つめ、ふう、と静かに息を吐いた。



 ――王都・アリステーゼ。王城・評議の間。


 「……戻られた、だと?」

 重厚な長衣を身にまとった男が、報告を聞いた瞬間、椅子を軋ませて立ち上がった。

 目の前に報告書を携えて、密使より受け取った機密分しょと、女神の声をしばらく反芻する。

 どうやら、全て事実らしい?

「フンやってくれる。 女神エリスめ! まさかこのタイミングで、システィーナをつれてくるとはな!」

 彼にとってエリスの教えはうまく使える説法でしかなかった、それがこのタイミングで牙をむくとは……


 「姫君システィーナ・フォン・アリステーゼが、女神の神託を伴って王都に帰還――そう、確かに神々の声で……」

 報告官の声が震える。だが、それは恐怖ではない。動揺。いや、もっと深い、確信が揺らぐような動揺。


 「もういい下がれ、私は私の考えで動くだけだ。 少し一人にしてほしい」

 男――王国評議長にして、第二王子派筆頭たる大臣アロイスは、苦虫を噛み潰したような顔で唸った。


 「なぜ、今になって……!

  我らがどれほどの年月をかけて、“新たな王”の座を築いてきたと思っている!

  この期に及んで、本物の姫君を引きずり出すとは……女神エリス、なぜ貴様が動く!?」


 重臣たちが沈黙する中、ひときわ若い声が響いた。

「神託が真実なら、我が家の所領は安泰だ……!」 「いや、うかつに動けば、第二王子派から裏切り者と見なされる……!」

「まったく、女神様のご意向が変わるたびに我らの心労も倍増しますな」 「いやいや、女神は変わらん。ただ我々の“都合”が変わるだけだ」

騒然と密談を交わす貴族達……その中から一歩進み出るように、歩み寄る影ーー


 「落ち着きましょう、アロイス卿」


 艶やかな銀髪の青年――第二王子ルディウスが、微笑みをたたえて歩み出た。


 「姫君の帰還は民衆にとって“伝説”のようなもの。

  神託があろうと、血統を証明するものがなければ、政治は動きません。

  王たる器を見せつければ、むしろ好機です」


 アロイスの眉が吊り上がる。


 「ほう、ずいぶんと余裕ではないか、殿下」


 ルディウスは静かに、しかし鋭く笑った。


 「……女神が“舞台”を整えたのなら、我々も“役者”として立ちましょう。

  さあ、迎えるとしましょうか――“失われた姫”を」

(あの若さで、よくぞここまで演じきる。……だが、まだだ。まだ私のほうが深い)

 とアロイスは思った。


 「まさか、姫君が……!」

 「本当に女神が、神託を……?」

 「これは、……もはや“奇跡”ではないか?」


 王城の一角、貴族の集う応接の間がざわついていた。

 女神エリスの声が響いた瞬間から、あらゆる派閥の者たちが呼応するように情報をかき集め、騎士を走らせ、使者を送り――


 その場にいた全員が、まるで“手札を配り直された”かのように、席を立ったり、目を伏せたりしていた。

 アロイスは思う。 

 「まさか……教会がこの動きに絡んでいる?

 いや、それよりも“あの娘”に神の声が届くなど、以前のあの方ならあり得ぬ……」

 かつての愚かな少女ーー第一王女システィーナを思い出す。 王女という地位に反発しかできなかった愚かな偶像ーーそれが何故帰還するのか? 考えが変わった、いいやないな、少女期でしか彼女のことを知らないアロイスでさえそれは確定として思うのだ。

 やはりエリスか……あの女狐め! 一度だけ拝謁したことがある女神を思い出す。

あの時、言葉すら出せなかった。全身を貫くような視線――

それでも、彼女の啓示は冷たく、利害の化身だった。

 美しさで言えば確かに、人間離れしていたが、彼女の啓示は時として、利害を生み出すのだ。それをアロイスは見抜いている。

(……いや、逆に使える。神託の力にすがる姫など、いずれ民意の裏返しで崩れよう)

(ルディウス殿下こそ、信仰に頼らぬ“理性の王”として打ち出せば……)

(王女を民が讃えるなら、王子を民が恐れる器に仕立ててやろう)

アロイスの脳裏には、すでに“血のない勝利”の筋書きが浮かび上がっていいる。

 高速で回転するアロイスの頭では既に次の一手を組み立て始めていた……



  「第三王妃様の機嫌が……ひどいものでして……」

 一人が小声で告げる。

 「そりゃそうでしょうよ。第二王子を蹴落とすチャンスをうかがってたのに、まさか“本物”が戻ってくるとは……」

 「しかも、神託付きでな……。中立を決め込んでた我々も、動かねば“信仰に背く”扱いをされかねん」


 別の貴族がぼそりと呟く。


 「……システィーナ様は、昔は優しかった」

 「……そうだな。民の声をよく聞く、立派なお方だった」

 「だがもう、あのお方は“いない”と思っていた」

 「それが――戻ってくるとはな。今度は娘を連れて……」


 一瞬の静寂。


 「信仰か、忠誠か、それとも……生き残りか」

 誰かが吐き捨てるように言った。


 その瞬間――かつて姫に仕えた老騎士が、杖を突きながらゆっくりと立ち上がった。


 「我らには……まだ誓いを捨てていない者もおる」


 静かなその声に、数人がぎくりと振り返る。


 「姫が戻られたというなら、たとえ老骨でも、我が剣は再び彼女に捧げよう」


 ――失われた誓いが、ゆっくりと、静かに息を吹き返そうとしていた。


 王城・南棟、私室。


 外の喧騒がようやく遠のき、窓の外に差し込む午後の陽が床を照らしていた。

 銀の髪を一つにまとめ、青の礼服を纏った青年が、書類を机に投げ出した。

 ここに女性でも見れば、感嘆の声を漏らすか、見とれるかそんな反応が返ってくるかもしれない美丈夫が立っていた。 とはいってもまだ年若き青年ーー異様な雰囲気の彼は……


 「……また“神託”か、法王の言うことはいつも、面倒くさいのだが、女神エリス直々とは、全く予想外だった…… しかも、第一王女の帰還に娘突きだとはな……」


 ぽつりと、呟く。

 その声に、苛立ちはなかった。ただ、うんざりしたような――冷たい諦め。

 諦観、自分は常にシスティーナの影と戦ってきた。

 そして、その影を打ち破り、ようやく玉座を手に入れるは筈だった……その矢先の出来事、「姉上ーー国を放り出しておいて、このタイミングーー恨みますよ……

 まあどちらにしても黙って静観などしませんがね」

 “姫君が帰還した”だと? 民衆は熱狂し、神殿は祝福を口にし、評議会は混乱している。

 それを優雅に見つめながらも彼だって冷静ではないのだが、ワインを一口口に含む。

 手袋を外し、机の縁に指を滑らせる。


 「全ては、たったひとつの“声”で覆される…… 本当に、滑稽なものだ」

 かつて、システィーナへの王位継承の決定も、彼女が国を去った後の混乱も――すべては“たった一言”で決まってきた。

 次こそは自身が選ばれるはずだったと言うのに……

 青年――第二王子ルディウス・フォン・アリステーゼは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


 「エリスは絶対、か……」

 つぶやいたその言葉には、信仰でも賛美でもなく――警戒と、わずかな恐れが混じっていた。

 「だからこそ、僕は……あの男を利用する。大臣アロイス――お前の“狡猾な貪欲”すら、今は必要な武器だ、それは法王とて変わりない。」

 顔を上げたその瞳は、氷のように静かで、燃えるように鋭い。


 「王になる。僕が、この国を制する。

  神が言葉を下すなら、僕は行動で応える」

 外から、扉を叩く音。


 「ルディウス殿下。第一王女システィーナ様、まもなく謁見の間へ……!」

 返事はしなかった。

 ただ、唇の端を、ほんのわずかに持ち上げた。

 「……さあ、“姉上”。 十年ぶりの再会ですね……」

 「あなたの舞台に、僕も役者として立たせていただきましょう」

 せいぜいあがかせてもらおう、第二王子として、彼女の弟としても、最後に夢想したのは少女だった頃の姉を見つめる自身の姿だった。

 幼い頃の僕にとって、彼女は若く、聡明で、美しい……憧れの象徴だった。

それだけは、今でもはっきりと覚えている。

彼女の瞳に、自分はどう映る「……姉上。十年ぶり、ですか」

その言葉を口にしながら、ふと胸の奥に疼くものがあった。

かつて憧れた姉は、今――自分の敵になるのかもしれない。

のか――それを恐れる自分が、ほんの少しだけいた。


けれど、そんな感情は胸の奥に押し込める。

王子として、弟として、そして――次代の“王”として

彼は、十年前には戻らない、そう誓ったのだから。



 整った調度、宮殿の一室で、豪奢な佇まいの女性が二人……

 「第一王女が……戻られた?」

 静まり返った広間に、かすかな靴音が響いた。

 背筋を伸ばした長身の女性が、報告を受けた侍女の前に立つ。

 「まさか……このタイミングで?」

 「第三王女様、やはり――」


 報告を途中で遮るように、第三王女リディアはそっと目を伏せた。


 「想定の範囲外、ね……」

 その声には、微かな苛立ちと、冷徹な知性がにじんでいた。

 けれど彼女はすぐに気を取り直し、静かに言った。


 「……そう簡単にいくものではないでしょう。

  “帰還した”というだけで、すべてが動くほど、この王家は軽くはない」


 「まあ、そう仰いますけど?」

 くす、と小さく笑い声が広がった。


 第三王女――イヴァリンの見目麗しい姿、まるで舞うように椅子から立ち上がる。


 「でもね、お姉さま。私が制することはもう“決まって”おりますのよ?」

 若さ故の高音の乗った声音。どこか蠱惑的で嫌みのない上品な口調、だが今は棘がある。

 リディアは美しい薔薇には棘がある。徒はよく言ったものねと思った。

 その笑顔は、あまりにも自信に満ちていて、どこか底知れなかった。

 彼女は、居るだけで周囲を魅了する自信に満ちている。


 「これまでの外交も、軍備も、民心も。

  女神の“神託”があったところで、私の実績が揺らぐことはありませんわ。

  姫様ごっこをしていたシスティーナ様が今さら戻られても――ね」


 「それは、まだ決めつけるべきではありません」

 リディアの声が、鋭く割って入る。


 「まずは、姉上にお会いしてからです。

  どのような意志を持って戻られたのか。それを見てから、話は始まります」

 「ふうん……相変わらずお堅いのね、リディア姉さま」


 イヴァリンはくるりと踵を返し、まるで舞台に立つ女優のように微笑んだ。

 「でも、私は舞台の主役を譲る気はありませんわ。

  だって――」

 扉の向こうから、荘厳な号令が聞こえた。

 「姫君システィーナ・フォン・アリステーゼ殿、謁見の間へ――!」

 イヴァリンの笑顔が、ますます深くなる。


 「始まりますわね、“王女劇場”」 イヴァリンを引き締めるようにくるりと舞うように回る。

 その優雅な舞をどこかうさんくさいと思いつつもリディアはそれでも口を挟むことはなかった。


 イヴァリンは、新たなる王位継承者の登場、しかも自分を差し置いて第一継承者だ。許せるわけがなかったが、女神の後ろ盾まであると来た。

 一瞬響いた女神の美しい美声に寄泊されなかったと言えば嘘になる。

 だが、彼女は努めて気丈に振る舞った。システィーナ本人には対抗しても年齢差があり、残念ながらどうしようもない、彼女の人気の高さ箱の十年で盤石だ。それはイヴァリンが生まれてからずっと変わらなかった事実だった。

 ならば、その娘は? システィーナの実の娘だと聞いている。

 だが、だからなんなの、システィーナの娘、二人居たら悪いの? 彼女はシスティーナ側に自分を刻みつけることを考えている。

 なに、なにも魅了だけで行けるとは思っていない。 彼女ももっちっているのだ、違う形で使う気だった切り札を。

 彼女はまだ会わぬ年の離れた姉のこと思い、静かに微笑し、獲物を狙うようなに目を細めた。それをリディアを不快にさせることを知っては居るが、今更辞めることなどで気はしない。 最後まで舞うーーそれがイヴァリンと言う王妃だったからだ……


最近書いてあるところと大分雰囲気が違うなあとか思ったり、まあ、最初はこんな物かな?

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