8:特別案件
「よう、仕事ができたぞ」
新しい装備に馴れるための狩りの練習から帰ってくると冒険者ギルドの伝令人代表であるダンが話しかけてきた。
「ああ、前にそろそろ仕事がありそうだと言ってたな。どこかのパーティーが情報持ち帰ってきたのか」
「そうだ。イッシ村の北にあるダンジョンに横道が発見されてな。どうやらダンジョンの拡張がおこったらしく、かなり深いところまで未探索の領域があるようなんだ。その情報を国境の街ジガオまで届けるのが今回の仕事になる」
「ダンジョンの拡張か。冒険者としてはときめく言葉だな」
ダンジョンとは魔力溜まりから発生するといわれている迷宮である。多くは洞窟であり土地に魔力が染みこむことで変質し新たな空洞が生まれたりする。地下に生まれた空洞が地上に通じる空洞と繋がる事もあり、それは『ダンジョンの拡張』といわれていて珍しい鉱物などが見つかりやすく、拡張したてのダンジョンはお宝目当ての冒険者の憧れだ。
「しかし雑談で聞いたっていうには詳しすぎるな。情報の秘密は守らなければならないんじゃなかったのか?」
「こいつは冒険者ギルド案件なんだ。俺たち自身が関係者だよ。あとこの依頼には特別任務もある」
「特別というと?」
「まずはこの情報を広めることだ。移動中に冒険者パーティーを見かけたら『イッシ村の北でダンジョンの拡張がおこったらしい』というレベルでいいから噂を流してくれ。新しい情報も欲しいし、手持ち情報は買ってもらいたい」
「ああ、新規や拡張ダンジョンの情報は金になるからな」
ダンジョンは勝手に拡張するし、どうも魔力的に安定した形状みたいなのもあるらしくて目印をつけたり彫り込んだりしても勝手に元の形状近くに戻っているのである。よってそこが新しく拡張された未発見の通路かどうかはマッピングされた情報が頼りになる。
「それとあと一つ。途中のギルド支部や出張所でもこの案件は報告してもらいたいし、この件に関する情報が入っていたらそれも追加でジガオまで届けてほしい」
「ああ、出張所でも情報は買ってもらえるんだったな。俺が冒険者やってたときもたまに収入があったが報告済みの情報ということで手間賃程度のことが多かった」
「新しい情報なら報告したら高額報酬ということにしておかないと秘密にしといて探索続けられてしまうからな。だが高額報酬を何度も払うのもギルドの損失だから情報は早めに伝えておかなければならん」
「そうだな。それじゃあ急いで出発した方がいいのか?」
「急いではもらいたいが無理はしなくていいぞ。明朝出発で行けるか?」
「ああ、新しい装備に慣れるため毎日ほぼ万全の装備で出ていたからな。いつでも出発可能だ」
「なら今から細かいことを説明して書類も渡しておこう。明日はギルドに顔を出さず直接出発して構わない」
◆ーー◆ーー◆
昨日のうちに包んでもらっていた鳥燻製肉のサンドウィッチで朝食を済ませて早朝から出発する。今回向かうイッシ村~ジガオの街は前回とは逆の東の方向にあるのでほぼ正面に見える朝日がまぶしい。
急ぎの案件とはいえ走って届けるわけではなく普通に徒歩だ。途中二つの村でそれぞれ一泊し、ダンジョンの南であるイッシ村には三日目夜に到着できた。ここはダンジョン最寄りということもありちゃんと独立したギルド支部もある。今日はひとまずここの仮眠室を使わせてもらった。
翌日はイッシでの情報伝達と情報収集。さすがにダンジョン最寄りだけあって既に調査してきたというパーティーまでいたので酒をおごって話を聞かせてもらう。この日の出発は諦めることになったが仕方ない。
翌朝イッシ村を出発。昼ぐらいに街道沿いの広場の木陰で休んでいると先の方から冒険者のパーティーらしい集団が来るのが見えてきた。たぶん向こうからも見えただろうなと思ったので軽く手を振って警戒してませんよというポーズをとりつつしばし待つ。普通の声が届く距離になると向こうの回復役っぽい若い男が話しかけてきた。
「こんにちは。あなた、お一人ですか?」
「ああ。俺は伝令人なんだ。この先のジガオまでメッセージを届ける途中さ。そういう君たちは依頼の帰りかい?」
俺にできる範囲でフレンドリーに対応する。単独だとこういうのも一人でやらなきゃいけない。
「ええ。依頼を達成してイッシのギルドまで帰るところです」
「それじゃあ、イッシの北のダンジョンが拡張されたらしいって噂もまだ聞いてないかい?」
その言葉を聞いた途端にパーティーのリーダーっぽい戦士が割り込んできた。
「ダンジョンの拡張だって? そいつはマジなのか?」
「俺も直接見たわけじゃないけど、イッシ村ではもうその話題で持ちきりさ。早くも探索してきた奴らもいるらしいぞ」
「うわ。もうそんなにか。俺たちも急がないとな。じゃあ君も元気でな。道中の無事を」
「ああ。道中の無事を」
定番の挨拶をすると彼らは足早にイッシ村の方へ向かっていった。やはり現役冒険者には魅力的な案件だと再認識する。そして残り二つの村を経由して二日後にジガオの街までつくまでには似たような冒険者たち2組ほどとそんな感じのやりとりがあった。
「なあマユ、このパンに具材を挟んだ料理はなんでサンドウィッチっていうんだ?」
「砂漠に住んでた研究熱心な魔女が研究の合間に食べられるように考案した料理だって言われてるわ。だから砂の魔女」