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73:辺境街道

「噂通りよく整備された街道だな」


 特急の仕事ではないので都合が合えばついでに短距離の臨時便なども引き受けつつ目的地のオクシへと向かっているがこの街道は十分に広い道幅が用意されている。マイケ、オーキスといった他の街道と交差する要所を越えたこの先はいわゆる田舎になるが、このあたりでも馬車が三台並べるほど広い。


「やはり国家要人(えらいひと)は周辺小国を平定しようとしているっていうのは本当なのかもな」


 このオクシへ向かう街道は正直言えばこの先に大きな街は無い。この先でもう一度、いわゆる南回り街道と交わるが、その交差地点になるアマバも基本はでかいだけの農村だし終点のオクシも特に目立つ点はない。それなのに広い街道が整備されているのは国境線の先にある小国群を見据えてというのはもっぱらの噂だ。


「貴族様たちがこぞって別邸を作っているのもいざというときの拠点化を見据えての上からの指示だと言う噂だしな」


 今回の依頼の主であるカールトン家もその一つで、その別邸への手紙を運んでいるわけだ。だが貴族の別邸といっても何しろ王都から徒歩で半月ほど離れた辺境地帯で、今は平時である。長期休暇(バカンス)でもなければ有力貴族当人が滞在するなどはまず無い。管理人だけを置いて維持させていることも多いだろうが、今回の依頼先はこの数か月頻繁にやり取りがあるという。一族の誰かがいて連絡を取っていると考えるべきだろう。だが一族の中でこんな辺境に来るのはまず主流の人物ではない。


「どうせなら家督を譲って隠居した元貴族様だといいんだがな」


 悠々自適に隠居している屋敷だと主人と直接会うわけでなくても雰囲気が軽くて使用人もだいたい緩めだ。気持ちよく仕事ができるしときには余り物の果物とかをもらえたりもする。


「一族の厄介者が押し込められているような屋敷だとどうも全体にギスギスしてて使用人もたいていつっけんどんなんだよな」


 何かをやらかして謹慎くらった人間が遠ざけられているような場合だと屋敷の主人といえど周囲の使用人が実は見張り役であったりして関係も良好とはいえず、伝令人(メッセンジャー)相手でも警戒感が強く感じられたりして居心地が悪い事が多い。


「まあ気持ちよく仕事ができるに越したことはないが、味気ない対応でもきちんと報酬出るんなら文句はないしな」


 こちらではどうにもならないことをあれこれ悩んでも仕方がない。俺は気分を切り替えて先へ進む。次のジョウニではどんなものが食えるかなどと考えながら。


◆ーー◆ーー◆


 ジョウニでもそうであったがこの街道沿いでは野菜料理がメインであった。特に芋料理が増えてきたのでちょっと聞いてみると上の方から芋を育てることを推奨されているのだという。育てやすく保存も効くからということだが、やはり戦争に備えた蓄えなのであろう。道中で狩りをして持ち込んだ鳥や兎は余りを渡すと結構喜ばれて待遇も良くなった。ちょっと大人なサービスも教えてもらえたがまあそれは詳しくは語るまい。


「たしかに辺境と言うには大きな屋敷が多いな」


 オクシへ到着して最初の印象はそういうものだった。だがよく見ると規模は大きくても過剰な装飾は少なく実用第一というか、いざというときに簡易な砦になるような作りになっている。国境側に頑丈な壁を配置した建物が多く、その隙間を塞げばそれなりの防護壁となるだろう。


「見た目はこんなに平和なのになあ」


 いざというときの備えが見て取れるとはいえ現在は平時である。行き交う人々も普通に村人という感じでたまに貴族の使用人らしい人間が交じる程度だ。


「さて、仕事を済ませますかね」


 冒険者ギルドの支部へと向かい宛名のカールトン家別邸の場所を確認する。街でもないのに冒険者ギルドが独立た建物なのはやはりきな臭い仕事を見据えてなのだろう。


「ああ、カルムの坊っちゃんのお屋敷ですね。あそこはちょっと奥まった位置にあるので地図を持ってきますね」


 途中で買った菓子を「皆さんで」と土産に渡したせいか受付嬢もたいそう愛想が良かった。せっかくだからと休憩にも誘われてお茶を飲みながら雑談したところによるとカールトン家別邸はまだ若いカルムが主人で、住み込みで雇われているのはジゼルという侍女だけ。通いで屋敷の仕事をしている人間が数名だけの小さめな屋敷だという。


 お茶を終えて教えてもらったカールトン家の別邸へと向かい、裏口から声を掛けるとまだ若い侍女が扉を開けた。話に聞いたジゼルだろう。ややキツイ感じはあるが雰囲気にギスギスしたところはない美人だ。


「はい、たしかに受け取りました。明日の午前中には返事を用意しますので、それまでお待ちいただけますか」


 手紙を受け取ったジゼルは中身を確認する前にそう言った。この数か月に何度もやり取りして慣れているのだろう。


「わかりました。それでは明日また来ます」


 俺でも一応客相手に丁寧語ぐらいは使う。だがジゼルは俺を引き止めてきた。


「この村にはいい宿はありませんよ。使用人の部屋でよろしければお泊りいただけますが。使用人と同じで良ければ朝食もご用意します」


「そうですか。ではありがたくお世話になります」


 伝令人である俺はギルドの簡易寝台が無料で使えるのだが、なにかうろついてほしくない事情でもあるのかと思ってその申し出を受けることにした。ジゼルが美人なのでちょっと期待した面がないとは言わないがそういうことは流石に起こらなかった。

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